いざこざの外

２００３年７月３０日に開かれた第９回公判、真庭警部補の証言。
旦那の単行本を、なぜ捜査当局がわいせつ物と認定したのか。
その経緯を知る場所になった公判です。

２００２年の８月中旬、一般人から取締を要望する投書が
警視庁生活安全保安課に転送されたと言います。
その投書を警視庁へ転送した来たのは誰かという弁護側尋問に対して
平沢勝栄先生から回付されてきたと、真庭警部補が答えました。
弁護側は平沢議員の名前が公の場で出るとは考えていなかったそうで
大収穫だった様です。私は見なかったのですが、この時に真庭警部補が
何とも言えない表情をしていたと、旦那は言っています。
「ヤベェ言っちまったよみたいな、渋い顔をしてたよ」
同情半分、面白さ半分と言った口調で、旦那が教えてくれました。
ただここで問題なのが、投書では「姫泥棒」という、旦那の漫画が
掲載されている雑誌の名前が挙げられているにも関わらず、摘発対象は
旦那の単行本になったことです。なぜすり替えが起こったのか。
これも尋問で明らかになって行きました。
８月下旬に代々木警察署へと匿名の電話が入り、単行本「密室」の
わいせつ性が強いと言われたのを受けて摘発されたと言うのです。
同じ雑誌に掲載されている作者の単行本だからという事で、摘発対象が
雑誌から単行本へ移行してしまったのが、悲劇の始まり。
出版社の介入が噂された原因も、この匿名電話と思われます。

コミック初の摘発を検討するにあたって、十数人の警官を集めて
検討会を開いたと言います。旦那が過去に出した単行本の他にも
１５冊から２０冊のコミックを半日にも満たない時間を費やして検討。
ストーリーは考慮せずに、性器描写の詳細や絵柄のリアリティーで
判断したと言っています。判断には刑法学者、弁護士も有識者として
参加、東京地検検事の意見も聞いて立件することにしたそうです。
密室１冊のみの摘発。奇妙な話しですが、同じ作者の手で描かれた
他２冊の単行本は、わいせつとは判断されなかったのです。
旦那の漫画が全て市場から消えなかったのは、そういう理由からです。
最新刊の絵が最もリアルで上手だったと言うことなのでしょうか。
この辺の判断は、ちょっと分かりません。

真庭警部補への尋問が続き、色々な事が分かりました。
捜査を担当した彼は、過去のわいせつ裁判を全く知らないということ。
「悪徳の栄え」「チャタレー夫人の恋人」を認識していませんでした。
逮捕を決めたとされる、比較的上の立場の者が知らないということは
他の人達も知らない可能性が高いと思うのは、私だけでしょうか。
又、現在の出版状況について把握していないということ。
例えば公刊出版物のチェックについて、それまで成人向けコミックは全く
ノーチェックだったし、性器描写のみで言えば、例えば浮世絵画が
無修正のまま市販されているという様なことも認識していませんでした。
警察の恣意的意見を避ける為に有識者の先生に意見を伺って判断すると
真庭警部補は言っていましたが、警察が頼りにしている有識者も
所詮は警察に囲われている御意見番に過ぎないのかもしれません。
密室の様なコミックが流通している事に対して、非常に驚いていると
強く言っていましたが、全く免疫の無い人が見れば、どのジャンルでも
わいせつ性の強い物と受取れると思うのですが、残念なことに
一般人がごく当たり前にする考えを、警察はしてくれないのです。

警察組織を考える時に、全てこの人に結びついてしまいます。
上から人を見下す横柄な話し方、脅しの様に取れる言葉の数々。
時代遅れで、自分達の勉強不足や過ちは決して認めない。
閉鎖的で、縦の繋がりが絶対的な人達。弱者の味方なんて幻想。
今でも彼を思い出すと、奇妙な動悸や息苦しさがおこって
際限なく怒りが込み上げます。
旦那は「国家公認の権力組織に所属する人間も色々あるだろうから
むしろ気の毒に感じる事もあるよ」と、別の見方をしています。
旦那は本当に寛容な人だと思いますが、その彼が
「任意事情聴取だろうと、警察に一度連れて行かれたら終わりだね。
奴らはニュースで言われる様な自白の強要は平気でするから」
ときっぱり断言します。
旦那が殺人容疑や窃盗容疑を掛けられていたら、どうなっていたか。
任意事情聴取だけで帰ってくる事はなかったのではないのか。
恐らく１月程度の勾留では済まなかったでしょう。
旦那の容疑がわいせつ図画頒布罪程度で本当に幸いでした。