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2006/09/30
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~《紅い月を見つめながら》~

 大樹がまだ十代の頃、
 九州でのスカウトオーディションで、
 審査員として出逢ったのが、
 緋春(ひばる)との縁の始まりだった。
 
 荒削りではあるが、
 この声、この歌唱力…きっとものになる。

 そう心で感じたのが緋春(ひばる)であった。

 演歌歌手では存在しないであろう、
 身長の高さ、人懐っこい優しげな表情と、
 欠かせない、礼儀正しい姿勢。

 その全体の雰囲気にも、
 緋春(ひばる)は光を感じ、
 完成度の高い歌唱力を持つ子が歌っていても、
 ずっと気になっていた。

 《しっかりレッスンを重ねて、
  体型をもう少し絞り、
  洗練されて行けば、
  想像以上にこの子はこれから光るだろう…。》

 それが緋春の大樹との出逢いだった。
 
 審査員の意見は万丈一致。
 大樹は十代で一度レコードデビューするが、
 どちらかと言えばがっちりしていた大樹は、
 トレーニングや食事制限を続け、
 見事に20キロ以上の減量を果たし、
 プロとしての活動は平行しながらも、
 しっかりとレッスンを重ね、
 ベテラン歌手のプロデュースに関わる程の下積みや努力は、
 ついに、また新しい出発点に辿り着けたのだった。

 一煌の道のりと重なる流れを持っていた大樹は、
 同じ九州出身である事と共に、
 必然の出逢いとも言える友情を育てた。

 《こっちの席で待ってますよ》と大樹に伝えた緋春は、
 演歌歌手とは思えない程の、
 明るさを持った弟子の紫穂と共に、
 大樹が打ち合わせを終えるのを待っていた。

 《あ~っはっはっ!》
【しっ!】

甲高い紫穂の笑い声を、
 緋春は赤面して阻止した。

 大樹も遠目から、
 紫穂をギロっと睨んだ。
 
 三人は、
 家族のように長い縁を続けていた。

 温和で、
 笑顔がさわやかな緋春は、
 熟年層の主婦に、
 九州では絶大な人気を誇っている。
 紫穂はその、
 素顔にある明るいキャラクターで、
 また男性ファンも多く獲得し、
 師範として緋春の片腕的存在でもある。

 そしてもちろん大樹にも、
 沢山の生徒が居た。

 久しぶりの再会…。

 打ち合わせを終え、
 二人の席に着いた大樹は、
 まず深呼吸した。

 緋春と紫穂は、
 心の底からの笑顔で、
 大樹にまず、
 《おめでとう》を伝えた。

 『ビール飲んでもいいですか?』

 《あら、あんた飲めるようになったと?》
紫穂が驚いた顔で大樹に言う。

 『ビールだけ…覚えさせられました。』

 《じゃあ私達も今日はちょっとだけお酒戴きましょうかね…。》
 緋春がウエイターを呼び、
 ビールを注文した。

 《ここからこそが、また長い努力と重ねた毎日でもあります。
  でも一緒に頑張りましょう。》

 『はい。有難うございます。』

 三人は乾杯した。
 《曲はほぼ決まりましたか…?その曲は…》

 その言葉を遮(さえぎ)るように、
 紫穂が大樹に言う、
 《今日はクリスマスもんね~。街中は賑やかやったよ~》

 《その曲のテーマは…》
 紫穂を無視して緋春は話しを続けた。

 《これ!可愛いかろ?買ってきたとよ~ほらぁ》
 緋春が紫穂を睨んだ。
 《私が今話しを…》

 『はいはいはい。
  どっちか一人にしてください!』

 心を許せる三人との、
 いつも通りの和やかなひとときが過ぎていた。

 急に、
 黙りこんだ大樹に気付いた緋春が言う。

 《どうした?なんか心配ごと?》

『いや…、
  ここに、ほんとは一緒に居て欲しかった人を思い出してました。』

 《ああ、あの…大樹が大切にして行きたいっていつも言っていた、
  カズ…さんて言う人の事?》

『そうです…。きっと凄く喜んでくれたと想う…。
  先生達もきっと、絶対…カズさんの事好きになりますよ…。』

 《必ず、また再会出来ますよ。
  元気で頑張ってらっしゃるかも知れない。
  だから、大樹も頑張らんとね。》

 『…そうですね…。』

 空気が少し重くなった事を心で察した大樹は、
 『煙草買って来ます』と外に出た。

 雪のホワイトクリスマスではなく、
 空を見上げると星が輝いていた。

 『カズさん…元気でいてね…』
 大樹は心でそう祈った…。
 星空の低い場所に紅く光ってるものがある。

 あれは…月だ…。

 あんなに真っ赤になる事があるんだ…。

 大樹はその神秘的な美しさにしばらく目を奪われていた。

 そして煙草を買い、
 店に戻ろうとした時だった。

 何処かで見た男が、
 こっちを見ている!?

 誰だっけ!?
 大樹は必死になって記憶を辿っていた。
 するとその男は近づいて来た。

 やはり同じように何かを確かめるように、
 少しずつ…。

 そして二人とも記憶は重なった。
 駿だった。

 『駿…さんですよね…』

 《やっぱそうだ。あの…ひろきさん!?》

 二人とも戸惑っていた。
 ろくに会話をした事がない二人には、
 交わす言葉はひとつしかない。

 駿が大樹に言った。

 《カズさん…連絡来てますか?》

『…取れないです。』

 《全く…!?》

 『はい…。駿さんもですか?』

 駿は寂しそうに頷いた。

 沈黙が走った。
 
 駿は《じゃあ…また…》
 そう言って、
 自分のグループに戻って行った。

 二人にとって、
 一煌を想う気持ちは、
 全く同じだった。

 駿もまた、
 事あるごとに一煌を思い出していた。

 一煌と良く一緒に行っていたサウナに、
 駿は何度も通って、
 その度に、
 一煌を探した。
 二人一緒に同じ湯船に漬かり、
 笑いながら話しをしたのも、
 そのサウナだ。

 しかし、
 一煌は敢えてそこを避けていた。

 大樹と違い、
 駿は、
 一煌の存在を失った事で、
 まさに信じられる真の友を失い、
 人への執着は殺伐としたものになっていた。

 女遊びを、
 《安売りするな》と、
 本気になって叱ってくれた一煌の深さを思い出しながら、
 駿はまた同じ事を繰り返していた。
 その容貌で人には常に囲まれていても、
 消せない孤独感を埋めてくれる友達とは、
 全く出逢えなかった。

 所属事務所のスタッフとも、
 その大柄な態度から好まれず、
 役者としてもひとつの岐路にたっていたのが、
 駿でもあった。






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Last updated  2006/10/24 04:57:16 AM



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