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2006/10/01
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~《12月30日》~

クリスマスを越えてからはあっと言う間に、
時は過ぎて行った。
僕は変わらず我武者羅な毎日を続けた。
パタリとまたあの声も聞こえて来ない。
そんな事想い出せない位の忙しいカウントダウンの日々だった。

どんなに時間に追われ、
睡眠がしっかりと取れていない日々の中であっても、
必ずぽっかりと真っ白な空間は出来てしまう。
心の隙間を完全に塞ぐ事は不可能だった。

東京を終えると言う事に、
完全に整理が着くわけもない。
僕は自分の中の罪悪感を敢えて時には外に持ち出しながらも、
今の自分の背中を叩き、あおって立てる自分を作り続けるしかなかった。
考え事など無用と知っていても、
どうしてもいらない葛藤は心の中で僕を揺らす…。

それはどうする事も出来なかった。

そして気が付くと12月30日夜…。

年末を明日に感じながら、
一日中あれこれと考え続け、
眠れずに歩き続けていた僕は、
結局この日仮眠が取れず、
深夜のバイトまでの時間、眠気も吹っ飛ぶ程の寒さの中で、
ベンチで過ごす事を選んだ。

服も殆どないに等しい僕は、
実家に戻った時に母が差し出してくれたセーターを下に着込み、
バイト先のスタッフがプレゼントしてくれた二着のスーツのジャケットを、
重ね着し、
その上にマフラーを巻き、そしてその上からコートを着た。
それでも尚を身体の芯から底冷えする寒さに、
新聞紙をベンチに敷いて、
そこに腰掛けていた。

その何とも言えない異様な自分の姿に、
恥ずかしいなどと考えてる場合ではない。

学生らしき子達が、
僕を見てヒソヒソと笑いながら通り過ぎて行く…。
何かを今にも言いたそうな顔をして、
一瞬こっちを見て立ち止まり、じっと見て行く人も居る。

でも、もうそんな光景にもすっかり慣れてしまった。
人は不思議だ。
そこまで立ち止まって、そこまで近付いて来ても…、
話し掛けては来ない。
なるべく目を合わせないようにするコツは覚えた。

でも今日僕の前を通り過ぎる人達は、
少し違う…。

スーツを着たサラリーマンの姿は殆どなく、
足のスネまで届きそうな、
ダウンジャケットを着せられた子供が、
両親に連れられて犬の散歩に来ていたり、
珍しく外人さんが、
薄明かりの電灯の下のベンチに座って、
英字新聞を読んだりしている。

みんな、穏やかな希望に満ちた新年を、
色んな想いで迎えるのだろう…。
今の僕にとって、
一日、二日置きに行く早朝サウナで、
《今から眠れる~!》と想う瞬間と、
このぼ~っとしている時間程、
《倖せ》に感じるひと時はなかった。

そんな僕にとってのスペシャルコースは、
こうしてベンチに座って、
温かい缶コーヒーをゆっくり味わって飲む事…。

いつからか、
この缶コーヒーを買う時には、
僕は決まった台詞を言うようになった。

120円を自販機に入れる。
そして押す瞬間。

《120万円!缶コーヒー!勿体無いけど、
 戴きます。》

そう言ってから飲むと格別に美味しい!

そんな倖せを噛み締めながら、
僕は缶コーヒーを飲んだ。

時計を見ると、
夜10時を廻っていた。
さすがにほとんど人は通らなくなった。

寒さはどんどん増して、
イメージトレーニングでいくらカバーしようとしても、

ううう!
と思わず声を出して足をガタガタ揺らしたくなる程の寒さだった。
去年の今日とは似ても似つかない。
去年キャバレーの司会と、カプセルホテルのフロントのバイトを、
掛け持ちでこなしていた僕は、
年末の一大イベントの司会で、ダラダラ汗を掻いて喋っていた。
そして終わると駆け足で駅に向かい、
フロントに変身する。
年末年始のカプセルホテルの人の混みようは、
半端じゃなかった。
年末も、お正月も僕にはもちろんなかった。
こんな今…年末を、とても感じる…。

もし…、もしあのまま続けていたら…!?

《ヤバイ!》
スクっと僕は自分の思考の流れを変える為に、
ベンチから腰を上げた。

その時だった。
前方にある大きな桜の樹が、
風もないのに、
ざ~っと音を立てて揺れた。

~流星…ノートを取りなさい。~

これだけ同じ体験を繰り返していても、
この体験は一回一回心ではリセットされているように、
まずは冷静な自分にシフトしようとする心が反応する。

僕は周りをしっかりと見回した。
誰も居ない。

誰一人今通っていない。

そしてまた、
その確認作業を待ってくれていたかのように、
同じメッセージが繰り返された。

~流星…ノートを取りなさい。~

もう恐怖感は感じなかった。

それは決してこの現象に、
慣れたと言う事じゃない。
そして、神経が図太くなったわけでもない。
むしろ常に情緒不安定で、
心の奥の方では常に神経がピリピリしてる。

ただ、
今もし大地震が起きたとしても、
僕はきっと、そのまま、穏やかにゆっくりと目を閉じるだろう…。

怖いもの…。

僕にとって今怖いものは、
お化けでもない、
死でもない。
そして今の現実の生活でもない…。
本当に怖いものは、
僕の中にある…。

【生きて行かなくてはならない】僕の、
頭のてっぺんから、足の爪の先まで、
ぎっしり詰まった、それでも埋まり切れないでいる位の、
大きな大きな罪の意識…。

そこに触れると自分が冷静でいられなくなる事を、
僕はもう知っている。
歩けなくなる。
一歩も前に進めなくなる…。

家族、助けてくれた友達…、
ごめんなさい…ごめんなさい…と何十回繰り返しても、
それは終わらない。

唯一の薬は【働く事】…。

前に進む為の今…。
その焦点を揺らさない事が、
今は唯一の生きている事の意味。

そんな中でどうしても消えないこの不思議な現象…。
自分の中にあるひとつの事して、
もう飲み込んで生きて行くしかない。
僕はそんな言葉でしか答えを持てなかった。

身体がガタガタする程の寒さだったのに、
気のせいか、
少し身体がポカポカさえして来た。

目の前の樹から、
絶対に暖かいエネルギーが僕に届いてる。

仕事場の近くの公園を選んだ僕には、
まだ出勤の時間までは三時間近くあった。

今日は最後だ…。
ほんとに優しいオーナーのお陰で、
日払いを承諾して貰い、
精一杯の節約の中で、
少しの蓄えが手元に残った。
これを半分でも母に渡したい。
どの位気持ちが伝わるか解らないけど、
安心や僕の覚悟が、ちょっとでも母の心に届けばいい。

そして帰りの航空券のチケットも買った。
年末を避けて、元旦の午後の便にした。
丸三日位ほぼ睡眠がまともに取れていない為に、
時々ふらっとするけど、
明日の朝…いや、昼頃まで続くだろうか…、
気力で頑張るしかない。

だからと言って、この中途半端な時間、
ベンチで仮眠を取るのも爆睡でもしたら怖いし、
何を言われるか解らないけど、
それまでこの声に付き合おうと僕は思った。

僕にとって、
夢から醒めた時のような、
一瞬とも言えるような時間でもあり、
とても、
長い長い時を越えたような気もした三時間が、
ここから始まった…。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.





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Last updated  2006/12/16 02:08:57 AM



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