カテゴリ:つぶやき
私には、おばあちゃんが一人います。
他の祖父母は全員他界してしまったのですが、母方のおばあちゃんはまだ元気で、今は施設で暮らしています。 そして、おばあちゃんは認知症です。 今日はまず、そのおばあちゃんがまだ自宅で暮らすことができていた頃の出来事をお話しさせてください。 ・・・・・・ …それは、おばあちゃんの認知症の症状が少しずつ悪化し始めた頃のことだったのですが。 その頃はまだ、おばあちゃんは自分の家族のことだけは覚えていてくれたんです。 首都圏に住む私は、数ヶ月に一度ぐらいのペースではありましたが、折を見て、東北地方の田舎町に暮らすこの祖母のもとを両親とともに訪ねては、家事を手伝ったり、話し相手になったりして過ごしていました。 そんなある日の朝食後、家族みんなで他愛ないおしゃべりをしていたときのことでした。 それまでおばあちゃんは、私のことを自分の孫だと認識していたはずなのに… 本当に突然、まるでおばあちゃんの頭の中の糸が一本プツンと切れてしまったかのように、私のことが誰だかわからなくなってしまったのです。 他の家族のことはわかるのに、私のことだけがわからない…おばあちゃんは私に対して急に敬語を使い始め、他人行儀に振る舞い始めたのです。 家族みんなでどんなに思い出させようとしても、どうしても私のことだけがわからない…そんな感じでした。 ・・・・・・ おばあちゃんには、私を含め5人の孫がいるのですが、その孫たちの中でも、私のことだけをすっぽりと忘れてしまったのでした。 …ものすごく、ショックでした。 何の前触れもなく、おばあちゃんの頭の中から「私」という存在が消えてしまったのだという事実が衝撃的すぎて…。 私はそっと席を立ち、誰もいない部屋に行き、気持ちを切り替えようとメイクでもすることにしました。 …けれども、周りに誰もいないその部屋に行くと涙があふれてきました。どうしてもこらえきれず、ファンデーションを塗っては、あふれてくる涙をふくという…そんな動作を繰り返し、化粧にならないような化粧を必死でしていました。 …どうして、私のことを忘れちゃったの? 認知症という病気が原因なのだということを頭ではわかっていても、寂しくて悲しくて、やりきれない気持ちでいっぱいでした。 ・・・・・・ …その後、おばあちゃんの認知症は悪化する一方で、孫である私はおばあちゃんにとって、「家に勝手に上り込み、家の中を引っかき回して去って行く謎の女」…みたいな扱いになってしまいました。 (実際は、祖母の面倒を見てはいるが家事が苦手な伯父と、家事のことなんてすっかり忘れてしまった祖母の2人によって荒れ果ててしまった家の掃除などをして、祖母が少しでもきれいな環境で快適に過ごせるよう努力していただけなのですが。) だから、そんな「謎の女」である私に対し、おばあちゃんはいじわるなことまで言うようになってしまいました。 …これは、病気がさせていることなのだから仕方ない。 そう思おうとはするのですが、やっぱりどうしてもやりきれなくて、陰で怒ったり、泣いたりしてしまうこともありました。 ・・・・・・ …働き者で、気配り上手で、いつでも優しかったおばあちゃん。 大好きだったおばあちゃん。 いったいどこへ行ってしまったの? そう思うと、悲しくて、悔しかった。 …でも、もし仮におばあちゃんが認知症になっていなくて、そして今のことを知ったら? きっと今の状況を私以上に悲しく、悔しく感じるのは、おばあちゃん自身にちがいない…そんなふうに思いました。 すべては病気のせいなのですから…。 ・・・・・・ 話は転じて、数日前のことです。 その日は私が20代から治療を続けてきた病気の通院の日でした。 病院からの帰り道に、雨がしとしと降る中を家へと向かって歩いていたら、なんだかとても寂しい気持ちになりました。 そしてふと、大学時代の友だちのTちゃんのことを思い出しました。 (Tちゃん、どうしてるかな…?) そして、元気だった頃のTちゃんと自分のことを思い出しました。 ああ、会いたいなあ、と思いました。 あの頃のTちゃんに。 …そしてたぶん、元気いっぱいで毎日を過ごすことができていた、あの頃の自分にも。 ・・・・・・ 大学時代の友だちのTちゃんから、突然の電話があったのは、昨年の暮れのことでした。 Tちゃんは大学時代の4年間をずっと同じゼミで過ごした女の子で、たぶん私が大学時代にいちばん親しくしていた友だちでした。 大学時代のことを思い出すとき、そこには必ずTちゃんの姿がありました。 大学を卒業してからは、20代の頃は時々会ったりしていたのですが、30代以降は年に数回メールや電話で近況報告をしあったり、バースデーカードや年賀状を交わしたりするだけのつきあいとなっていました。 けれどもその間も、Tちゃんの優しさや誠実さに助けてもらったことは何度もありました。 だからTちゃんは、いつだって私の大切な友だちでした。 ・・・・・・ ところが。 電話で久しぶりに話したTちゃんは、あきらかに様子がおかしくなっていました。 受話器の向こう側でTちゃんが矢継ぎ早に語り始めた話は、まったく現実味がなく、支離滅裂な内容だったのです。 そしてそんな支離滅裂な話を、こちらに話す隙を与えないほど絶え間なく、ノンストップで話し続けるのでした。 Tちゃんが息継ぎをするタイミングを見計らってなんとか話に割り込み、Tちゃんの話を確認したり整理しようとしたりもしたのですが、そう試みる私からの問いかけに対しては、まったく見当違いな返答が返ってくるのでした。 ・・・・・・ …結局40分もの間、私はTちゃんの話を聞き続けました。 「いったいTちゃんはどうしてしまったのだろう…?」 そんな困惑の中で話を聞き続けてきた私がただひとつだけわかったのは、Tちゃんがものすごい不安にとらわれているということでした。 だから、何とか最後に、 「あまり思いつめすぎないようにね…リラックスして、一人で抱え込みすぎないようにね!」 というようなことを伝えました。 するとTちゃんは、 「bonaちゃんと話せてよかった。やっぱりbonaちゃんは優しいね。これからもずっと友達でいてね。ありがとう。」 というようなことを言い、消え入るように電話を切ってしまったのです。 ・・・・・・ 電話が切れた後、私は事態を飲み込みきれぬまま、しばらく茫然としていました。 そして、ある考えが頭をよぎりました。 Tちゃんは、大学時代を共に過ごしたあのTちゃんではなくなってしまったのでは…と。 そう思うと、どうしてもこらえきれなくて、目から涙があふれてきました。 悲しくて、悔しくて、切なくて。 いろんな気持ちがまざった涙でした。 ・・・・・・ その後私は、電話で接したTちゃんの様子から考えられ得る病気をネットで調べてみました。 そして、あくまで推測にすぎないのですが、あるひとつの病気にたどりつきました。 Tちゃんが抱えているであろうその病と、その重さを思い、いたたまれない気持ちになりました。 ・・・・・・ 大学時代に、他愛ない話をして大笑いしたり、お互いの悩みを分かち合ったり、励まし合ったりしたこと。 楽しくてキラキラした大学時代の思い出の中にいるTちゃんは、私の心の中では今でもこんなにも元気なのに…。 時計の針を巻き戻して、今すぐにでも、あの頃のTちゃんに会いたい! とても強くそう思いました。 ・・・・・・ その一方で私は、Tちゃんのこの一件でとても考えさせられました。 そして、「ずっと続くものなんて、何もないんだな」と思いました。 年月を経ていく間に、いろいろなことが、だんだんと変わっていきます。 だから「同じままでいてくれるものなんて、何もないんだ」、と。 ・・・・・・ 私たちの多くは、今日という一日を、数ある中の平凡な一日に過ぎないと思って暮らしているのではないでしょうか。 でも、そんな平凡な一日にだって、そっと隠れている幸せがあるんですよね。 ささいなことであっても何かおもしろいことがあって、家族や友だちと笑い合ったこと、とか。 みんなと食べたごはんがおいしかったこと、とか。 楽しいことについてでも、つらいことについてでも、信頼できる家族や仲間といろいろな話をしたこと、とか。 …そんな小さな出来事ですら、後から考えるととても貴重な、キラキラと輝く思い出になるんだ。 だからこそ、今日という一日を、今という一瞬一瞬を大切にしないと。 今のTちゃんのこと―そして大学時代にTちゃんと過ごした日々のことを振り返って、私はそんなふうに思ったのです。 ・・・・・・ 今のTちゃんの目には、世界が少しだけ違って見えているようでした。 そこはTちゃんを脅かすものが多い、混沌とした世界。 でもTちゃんはその世界で、不安と闘いながらもなんとか頑張って生きていこうとしていました。 そんなTちゃんの変化を目の当たりにし、Tちゃんを失ってしまったような気さえしてしまい、最初はショックで泣いてしまったけれど… よくよく考えてみれば、今のTちゃんも、Tちゃんであることに変わりはないのです。 だから私は、Tちゃんの古くからの友だちとして、Tちゃんをそっと見守っていこうと思います。 いつかまた、うんと年を取ってからでもいいから、大学時代のあの頃のように、ささいなことで一緒に笑いあったりできるような…そんな日が来てくれることを願いながら。 Tちゃんの未来が、少しでも明るいものになりますように。 Tちゃん、がんばれー!! にほんブログ村のランキングに参加しております 応援のクリックをしていただけましたら幸いです! ★おすすめ記事一覧★ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.04.11 23:40:02
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