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カテゴリ:SS
挿入曲のイメージとこんな場面があったら映画がもっと面白かったんじゃないかなあと思ってSS書きました。
小坂りゆさんの歌声と森さんの演技がとてもすてきな挿入曲PV。このPVが入ってるならDVD欲しいです。 公開終了しましたので反転から普通に戻しました。 仮面ライダーTHE NEXT SS 「Platinum Smile~プラチナ・スマイル~」 (私はショッカーの一員として生きるしかない) 風見はワイングラスをくゆらしながら、見るとも無くテレビ画面に映し出されるアイドルChiharu(ちはる)のPVを眺めていた。輝くような笑顔は妹というより誰に対してもわけへだてない国民的アイドルの顔。自分にだけ見せる甘えやすねた表情、欲しがっていた時計をプレゼントした時の宝物のような笑顔、長い間見ることの無かった泣き顔がその後ろに隠されているとは思えない。立ち上がり、そっと画面に触れてみてもビリッと電流の刺激があるかないかのまがいものの箱。その箱の中で再生を繰り替えす笑顔、仕草、歌声。 (仕方が無い。もう、ちはるはいないのだから) あの日、たまたま会社に来合わせていたために換気口から送り込まれたナノマシンに侵食されたちはる。他の社員のように即座に死ぬこともなく自分や秘書のように偉大なるショッカーの改造人間として生まれ変わることもできなかった哀れな妹。病院の屋上から飛び降り、心ともしかしたら壊れた体だけを残しさ迷う哀れな残骸。 手の中でワイングラスが砕けた。慎重に振舞っているつもりでも体から溢れ沸き起こる高揚感と選ばれた誇りが指先に力を加えてしまう。砕けたガラスの破片も今の自分にとっては瞬時に修復される傷しか与えない。もしかしたらナノマシンをちはるも吸っていたかもしれないのに、あの女の子に言われるまでまるで考えもしなかった。テレビに映し出されるChiharuの笑顔に、昂ぶる快感に、乾いた心が満たされるような陶酔感を覚えてきたのだ。 最後にChiharuが自分に送り返してきた時計の意味など考えることも無かった。そして今あの時計すら、ちはるの友達の少女の手に渡してしまった。 風見はリモコンに手をのばしテレビを止めようとした。 (もう必要ない。もう必要ないものだ) 「あら、また見ていらっしゃるの?」 テラスの窓を開き、チェーンソーリザードが入ってきた。しなやかな豹のように歩き、黒革のぴっちりと肌に張り付いた服を誇らしげに着こなしている。風見の頬になめらかな白い顔を寄せ、後ろから甘えるように腕をからめてきた。知的で穏やかだった秘書の頃の面影はもうどこにも無い。 「うるさいわね。また同じことばを叫んでいるわね」 くすくすと艶やかに笑う女の手を風見はつかんだ。 「何か聞こえるのか?」 顔をしかめた美しい顔が、次の瞬間輝いた。 「あなたは聞こえていらっしゃらなかったの?こんなにはっきり聞こえているのに」 そして、さらに風見に体をこすりつけた。 「な~んだ。秘書の頃はあなたがちはるさんにだけ向ける笑顔が羨ましくて仕方なかったけれど、あなたにとって彼女もその程度の存在だったのね」 「何を言っている?」 「では見えるようにしてあげるわ」 グロテスクな仮面をはめるとチェーンソーを構えた。 「このチェーンソーに映るものをよくご覧になって」 嬉しげな笑い声。テレビのまとう熱がチェーンソーにからみつき銀色の曲がった鏡に包帯だらけの醜い少女を映し出していた。 「ちはる!!」 風見が喉の奥から搾り出すような声を上げた時、チェーンソーが空を斬り少女の幻影が粉々に消えた。 「どうして変な声が聞こえて、こんなものが見えるのか、それはきっと私がちはるさんのことをいつも妬んでいたから。あなたの笑顔もあなたの心も一番に占めて、あんなに可愛らしい優しい子なのに引き剥がしてやりたくて仕方なかったから。Chiharuに会いたくてたまらないファンのように彼女のことが頭にこびりついて離れない、彼女を見ずにはいられなかったから。そしてちはるさんの体を改造したナノマシンが彼女がぶつかって顔を火傷した時に電圧で変質して電波を通して働きかける力を持ったから。こんな弱弱しい触手しか持たない哀れな失敗作でもね」 彼女の唇がゆっくりと風見に触れた。 「でもあなたにとってパートナーは私。同じ偉大なるショッカーの一員としてこの快楽を共にするのは私。そして新たなるナノマシンによって選ばれた仲間達を率いましょう」 笑い声が刃のように目の奥を突き刺す。 テレビが割れ、はじけとんだ破片の中、風見はチェーンソーリザードを突き飛ばした。ベルトが回り、体が変化した。 バイクに向かい風見は駆けた。 『あなたに届け!プラチナ・スマイル』 陳腐なあおり文句の雑誌が目の前を踊り千切れ飛んでいった。人間の心を失ったチェーンソーリザードの自分を呼ぶ叫び声が聞こえた。 (ちはる!!お前の叫びを聞き取れなかった!!!) まだ自分にはちはるの声は聞こえない。それでも兄として、妹が一番に自分に向けてくれていた笑顔に向かって駆けた。その笑顔にどれだけいやされたか。どれだけ感謝したか。何一つ自分は返せていない。 バイクは慟哭のような唸りをあげ駆けた。 今自分にできることを。今やらなければいけないこと。それだけを目指して。 END お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.02.22 08:41:20
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