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ソクラテスの妻用事

ソクラテスの妻用事

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2022年04月19日
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カテゴリ:ブログ冒険小説

ブログ冒険小説『闇を行け!』14

大きいサイズのウクライナの国旗 


ウクライナの栄光は滅びず 自由も然り
運命は再び我等に微笑まん
朝日に散る霧の如く 敵は消え失せよう
我等が自由の土地を自らの手で治めるのだ

自由のために身も心も捧げよう

今こそコサック民族の血を示す時ぞ!
​​
(ウクライナ国歌『ウクライナの栄光は滅びず』・訳詞より)


(主な登場人物​​)​​​

 

・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大の考古学教授。
・十鳥良平(とっとり りょうへい)元検察庁検事正。前職は札幌の私大法学部教授。現在、札幌の弁護士。

・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学教授。海人の妻。
・役立有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥法律事務所の弁護士。
・君 道憲(クン・ドホン)日本名は――君 道憲(きみ みちのり)
・武本 信俊(ムボン・シジュン) 君の甥 韓国38度線付近の住民 
・ムボンの父 通称は「親父(アボジ)」
・ムボンの母 通称は「ママ」


(14)

 夜10時。クンを先頭にして4人はトウモロコシ畑を下って行った。
 基地内は数か所だけ、か細く灯っている。暗視ゴーグルを着けた4人は、鉄条網に沿い、畑の出入り口、鉄条網の切れている個所を探して行く。
 クンが右手で示した。出入り口を見つけたのだ。ムボンがクンの後ろに行き、片膝をつき、消音装置付きのスナイパー銃で援護姿勢をとる。
 クンが地雷探知機で慎重に地面を探り進む。前方の建物、メンテナンス車庫まで20mだが、地雷探知機を中央部、それから左右に振った時、イヤホンにキーンと音が鳴った。探知機の液晶画面が赤く光り、メーターの針が大きく振れた。再度、探知機を左右の地面に当てる。イヤホンが鳴る。
 クンが後ろに手で知らせた――中央部の左右に地雷有り! そこで待機してくれ!
 クンがスプレーをポケットから取り出し、中央部左右に「安全線」を破線状に噴射していく。クンが建物の壁に到達すると、付近を探知機で確認する。地雷無し! と合図すると、暗視ゴーグルで「安全線」を見つつ、ムボンら3人がクンのいるところまで進んだ。
 クンがマイクに告げた。
「ここからは無線を使う。行動開始だ」
 ムボンが建物の表に出て、基地内の監視塔と監視要員をスナイパー銃のスコープで探す。監視塔は無かったが、薄い灯りの下、外に向かって、入り口左右に立哨の兵士2人を見つけた。
「クン兄。立哨2人。俺も行く。俺が戻るまで役立さんと先生は待機してくれ」
 クンとムボンがトラックと戦車の陰を進んで行く。2人は立哨兵士の10mまで進むと、隙を覗い方膝をつき暗視ゴーグルを顎下に降ろし、目出し帽を整えた。
 立哨の兵士2人が基地外を、手を後ろに組みのんびりと立っている。今だ!
「行くぞ」とクンがマイクに言うと同時に、10mを忍び足で急いだ。隣にムボンも続いく。立哨の兵士の背後から、クンとムボンがライフル銃を振り上げ、銃床で兵士の後頭部を強打した。不意打ちを食らった立哨の兵士2人は、横にどっと崩れた。
 クンとムボンは、兵士を引きづり物陰に隠す。
「立哨2人を気絶させた。明日朝まで起きないはずだ。俺は分隊指揮所に行く。ムボンと役立さんは兵舎を頼む。先生は、そこで待機してくれ」クンがマイクに告げた。
「了解」役立と海人が答えた。
 クンとムボンは、忍び足を早くし、二方向に別れて行った。

 クンが指揮所のドアを開け、内部に入った。消灯していたので暗かったが、暗視ゴーグルで先を探りつつ進む。人気は無い! 次の部屋のドアを開けた。分隊長の執務室だ。中央のデスク上に『南進命令書』を置いた。デスク上の電話機の配線を抜き取る。無線は? 壁側のデスクにあった。手袋で被せ、銃床で数度叩いた。
「無線を無力化した。‶将軍様への伝言″を置いた。俺は先生のところに行き、トラックを確保する」クンがマイクに言った。
「了解」海人が答えたが、ムボンらから返事は無かった。兵舎に入ったな、とクンは確認できた。

 クンと役立が兵舎のドアを開け、そっと内部に入った。暗視ゴーグルでは、左右の蚕棚に兵士たちが寝ていた。ムボンと役立が左右に別れ、片っ端から兵士の頭部を銃床で叩いて行く。11人の兵士を熟睡させるのに、一発強打! で20秒も掛からなかった。そして猿ぐつわをかませ、パンツ一枚にし、両手を後ろ手に結束バンドで縛り、両足もきつく結束し、うつ伏せにしていく。
 10分かかった。暗闇だから、こう無機質に書けるが、実際はホラー映画のようで、ホラーの主人公がムボンと役立だったのだ
「奴ら11人を黙らせた。今行く」ムボンがマイクに告げた。
「了解。トラックのエンジンをかける。先生と一緒だ」クンが答えた。
「クン兄。俺はこれから戦車とトラックに時限装置をつけに行く。役立さんが見張りに就く」
「了解」クンが答えた。
 10分後、トラックに全員が乗った。運転席にはクンが。助手席にはムボンが。2人は北朝鮮兵の軍服に着替えていた。
「さあ~脱出開始だ!」クンが声を張り上げた。
「了解した!」皆が答えた。
 トラックは暗夜にライトを照射し、基地を出て、道を左折した。脱出のトンネルまで東へ35km。時速60kmで急いだ。
 後部の幌内部にいる海人がマイクで訊いた。
「皆のリュックの武器類は持ち帰るのかな?」
「いつもの予定変更です。逃走に備えるため、リュックに納まっていますよ」クンが答えた。

 渓谷源流の水音(みずおと)は、静寂な夜を遮るほど大きくなかった。また慣れもあったのだろう。洞窟内にいる親父、十鳥には、人の気配と別物となり、まさに自然界が奏でる音として寂の中に溶け込んでいた。
 親父の鼻に、工作員の息が放つキムチの匂いがした。奴は2m先に来た、と親父は計った。またキムチの匂いがきつくなると、工作員が布を擦るかすかな音がした。
 工作員が携帯ライトで洞窟内を照らした、その刹那、親父が携帯ライトの手元目がけてライフル銃を打ち下ろした。骨が折れる音とともに、ギャア~! と工作員が悲鳴をあげた。親父が床に落ちた携帯ライトで、工作員を照射した。工作員の驚愕した顔が浮ぶなり、親父が工作員の両足の脛を靴底で蹴った。グワッ! と唸り声をあげ、うつ伏せに倒れた。床に顔をしたたか打った工作員が、グアャ~! と叫び、悶絶した。
「十鳥さん。奴が気絶しましたよ」と親父が言って、工作員の服を剥いでいく。そして猿ぐつわをかませ、全裸にさせた。親父が工作員の急所を念入りにライトを当て、パンツの裏側も見て触った。
「何で奴を全裸にし、パンツの裏側を触るんだ?」十鳥は愚問だと思っていたが、つい訊いたのだ。何かのノンフィクション・スパイ小説で読んだことがあったが、実際を見るのは初めてだったからだ。俺は敵のパンツを触らないのだ!
「十鳥さん。ランタンを点けても良いですよ。そうすると全裸にし、パンツの裏を手で触った理由が分かります」
 ランタンを点けた十鳥が、床の工作員を見た。傍に、工作員の服、下着、持ち物類が丁寧に並べられている。
「理由が分からないが……」十鳥が呟いた。
「ほら、靴とベルトを見てください」と親父が言って、ベルトのバックルをこじ開けた。するとバックル内に青い錠剤5粒が見えた。
「おお、それは青酸カリのようだな?」十鳥が訊いた。
「そうです。自殺用です」親父がそう答えて、靴を手に持った。靴底二つの踵(かかと)に力を入れて捻ると、一つの踵、そこには丸い電池みたいのがあった。
「ほら、これは発信器ですよ」と言って、親父がパンツをつまんで裏側を見せた。
「ほら、ここの布が2重になっているでしょう」親父が布を裂いた。
「ありゃあ、ビニールのメモじゃないか」十鳥があんぐりと口を開けた。
「たぶん、ここに工作員が秘匿したい内容が書かれているはずだ。十鳥さん」

「親父殿。よーく理解したよ」十鳥が言って、全裸の工作員を一瞥した。
「十鳥さん。奴を結束バンドで縛ってください。両手を後ろに。両足も。私はこれから、奴の仲間を捕まえに行きます」
「了解したぞ。奴がゾンビにならないように、十字架の前でがっちりと縛り、悔い改めの洗礼をするよ」そう十鳥が言って、親父を見た。が、親父の姿は無かった。
「ゾンビは、親父かも知れない……」

「ママ。洞窟で工作員を捕獲した。私はこれから車の仲間を捕まえに行く」断崖の階段を登りながら、ヘッドライトを点けた親父がマイクに言った。
「分かったわ。私たちはモニター画面で監視しているわ」
「車の奴を捕まえるが、私は山側から車に行く」
「分かったわ。気をつけてね」

 この一時間後、親父は仲間の車の背後にいた。そして山側の助手席窓から覗いた。
 運転席だけに明るさがあった。仲間がタブレットをいじっていた。追跡アプリか!
 親父が、どうする? と自問した。答えが出た――こいつは必ず車から外に出る。そこを襲うのだ――親父は息を潜め、運転席側に回った。渓谷下からの激流音が周りに響いていた。
「親父さんが、しゃがんで運転席側にいます」榊原がママに言った。ママがモニター画面を観た。
「ママより。モニター画面に見えていますよ。運転席がやけに明るいですね」
 親父からの返事を求めた訳じゃなかったが、榊原がママに言った。
「あの明るさは、ノートPCのような……」
「そうかもね。仲間は寝ていないのね。だから親父は、しゃがんで待っているんだわ。外に出て来るのを」ママが言った。そしてやや間をおいて、榊原に告げた。
「私が誘い出してみるわ。先生から親父にそう言ってください。それとモニターの監視をお願いするわ」そう言うなり、ママが部屋を出て行った。
「親父さん。ママが車の仲間を外に出るようにすると言い、今行きました」榊原が言うと、イヤホンが2度トントンと鳴った。親父がマイクを叩いて答えたのだ。了解!

 30分後、ママが山側から車の横に回った。車が5m下に見える位置にいた。
「今投げるよ」ママがマイクに囁いた。
 短い枯れ木に布を巻いて、車のフロント目がけて投げた。フロントガラスに当たり、バンパーの前に転がった。
 車の男が反応し、ドアを開けて外に出て来た。その一瞬、親父がライフル銃の銃床で男の後頭部を一撃した。男が道路に大の字になって崩れた。親父が素早く猿ぐつわをかませ、後ろ手に結束バンドで縛り、足首と太腿を4本の結束バンドで固めた。
「おい、ママ来て良いぞ」マイクに言った。ママが山側の藪から道路に降りて来た。
「上手くいったわね」
「これも共同作業と言うのだな」
 この後、仲間の男を車のトランクに放り込むと、親父がマイクに告げた。
「先生よ。仲間を捕まえ、トランクに確保した。十鳥さんに伝えて――」親父がそう言うと、ママに告げた。
「ママ。俺はまた洞窟に戻る。予定では4人が脱出する頃だ」
「分かったわ。4人の無事の帰還を家で待っているわ。榊原先生とね」
 親父が闇の中を洞窟に向かって、走って行った。後ろから、ママも家へと走った。
 

(続く)

このブログ冒険小説はフィクションであるが、事実も織り込み描いている。






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最終更新日  2022年04月21日 08時01分19秒
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