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カテゴリ:博士課程
昔、朝日新聞社から『動物たちの地球』という週間百科が出ていました。
そのとある号で、 「他の脊椎動物では受精を必要としない単為発生が可能なのに、哺乳類だけは単為発生が出来ない。それは遺伝的刷り込み(ジェノミックインプリンティング)によるものである。キメラ胚の研究により、父親由来の遺伝子は胎盤を成長させ、体を大きく成長させようとし、母親由来の遺伝子は組織を作り上げようと作用することが分かった。」 といった内容の記事がありました。 私はこれに衝撃を受け、発生学の研究を志すようになりました。 学部の卒業研究では、母親由来の遺伝子しかないはずなのに、体の組織よりも胎盤が成長してしまう不思議なマウスの系統を扱い、修士ではホメオボックス遺伝子を扱いました。 これらのものは、今まで私の中ではバラバラの点に過ぎませんでした。 しかし、山中教授がiPS細胞を開発したニュースが流れ、その後ふと読んだこの本で、再び衝撃を受けました。 iPS細胞ヒトはどこまで再生できるか? 修士課程を修了し、長いことこの世界から遠ざかっていましたが、その間に研究がかなり進み、知見が増えていることにまず驚きました。 遺伝的刷り込みはDNAがメチル化されることであり、エピジェネティックスという名前がついていること。 iPS細胞の開発とは、そのメチル化を振り出しに戻すと言う作業であると言うこと。 その瞬間、かつて私が学部と修士で行ってきた研究が、一本の線で結ばれました。 「やはり博士号は自分のやりたい研究で取りたい。そのためには○○教室ではなく(当時私は○○研究室でパートをしており、○○研究室で学位を取ることを勧められていました)、△△教室で取りたい。」 なかなか思いを表立って言うことはできませんでしたが、ようやく念願かないました。 この本には、今現在おかれている日本の科学研究の問題についても書かれています。 基礎研究が実社会に反映されるまでには長い年月が必要であること。研究費とその分配の仕方、使用する際の問題点。研究費の申請に関する問題点。ポスドク難民の問題。省庁の縦割りによる弊害。 (事業仕分け以前に書かれた本ですので、仕分け問題については書かれておりません。) そして、再生医療に関する種々の問題が最後に書かれています。 倫理的な問題、技術的な問題、特許問題。 実際、これらの問題のいくつかは、私自身目の当りにしています。 今の日本の科学研究の現状を知りたい人には、この本の後半部分をお勧めします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年10月11日 10時35分53秒
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