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2012.05.31
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カテゴリ:健康・病気



■【388回】 患者が泣き、ヘルパーの目にも涙 [12/04/25]





■悲しみを共感する (その1)

認知症ケアの手法に関しては、これまでにも幾度となくお伝えしてきました。

シリーズ第138回『認知症の人との接し方(下)』においては「バリデーション療法」についてご紹介しました。具体的な手法のひとつとしてミラーリング(相手の動きや感情に合わせる)という手法がありましたね。

松本診療所ものわすれクリニックの松本一生院長(元大阪人間科学大学教授)は著書において(松本一生:喜怒哀楽でわかる認知症の人のこころ 中央法規, 東京, 2010, pp97-103)、支援者は時にその人に共感して悲しさに寄り添うことも必要であると述べています。一部改変してご紹介します。

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「一人暮らしの吉田政子さん(仮名 81歳・女性)は悲しい時でもその気持ちを口に出して言いません。彼女の世代は戦争を経験している人たちです。敗戦後の苦しい時代を愚痴1つこぼさず、一生懸命に生き抜いてきた人たちです。だからこそ、強く生きられるのかもしれません。

しかし、一見すると強そうな人でも、ほかの人と同じように心は揺れ動きます。吉田さんはそれをロに出して悲しむことができません。『悲しいからこそ笑っている』。これまで彼女を支えてきたのは、そのような思いだったのでしょう。

先日も、長い間親しくしてきたデイサービスの友人が、北関東の息子の家に引き取られていくことになりました。その友人とは、昭和30年頃から同じ地域で一緒に生活をしてきただけに、吉田さんにはこたえる出来事でした。

何とか笑顔を保ってデイサービスでは明るく別れたつもりでしたが、自宅に帰った後、悲しみがこみ上げてきました。次の日になって、何度も『あの人は息子さんのところに行って幸せになるんだ』と自分を納得させるようにつぶやいてみるのですが、どうしても涙が止まりません。

そうしているうちに、いつものホームヘルパーが来てくれました。

ホームヘルパーが吉田さんの家に入った時、彼女は泣いていました。その顔を見たとたん、ホームヘルパーの目にも涙があふれてきました。ホームヘルパーはとっさに、プロとしての対応に徹しようとしました。『プロが泣いてはいけない』と思ったのです。大きく元気な声を出して、吉田さんを激励しました。『大丈夫、大丈夫。私たちがついているから心配しなくてもいいですよ。今日もー緒に笑って過ごしましょう!』。ホームヘルパーはやや大げさなジェスチャーで吉田さんを抱きかかえようとしました。

2人で大声を上げて泣いた後、吉田さんのこころは不思議な開放感で満たされました。これまで「悲しみの感情を表に出してはいけない」と思って歯を食いしばってきましたが、とうとう悲しみを抑えられなくなった時に、ホームヘルパーと大声で泣くことによって、精神的な虚脱感、言い換えればカタルシスが起きたのです。

両腕に力を入れて手を突っ張った後に力を抜くと、手にだるいような虚脱感が出るのと同じように、突っ張っていたこころが解放された後に、ほっとした安堵感が出ることがあります。それが精神的なカタルシスです。吉田さんのように自分のこころを開放しにくい年代の人ほど、支援者は時にその人に共感して悲しさに寄り添うことが求められます。

ホームヘルパーは、プロ意識に徹していつも自分の感情をコントロールしようとしてきただけに、吉田さんとの経験が大きな影響を与えました。支援者として自分の感情に流されないようにしながらも、相手の悲しみに向き合い、こころが乱れたことを恥じることなく先の支援につないでいくことが大切です。」
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(つづく)














笠間 睦 (かさま・あつし)プロフィール




 1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックと関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務、診療情報部長を務める。認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成--こうした「全国初の業績」を3つ持つという。
 趣味はテニス。お酒も大好き。お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば・・・と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。









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最終更新日  2012.06.10 06:10:04
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