カテゴリ:音楽
オーストリア生まれのバリトン、マルクス・ウェルバといえば、サントリーホールのホール・オペラのシリーズ「モーツァルト&ダ・ポンテ三部作」でおなじみ。
とくに昨年の「ドン・ジョヴァンニ」のタイトルロールは、スタイリッシュで素敵でした。 なので、オペラ歌手という先入観があったのですが、昨夜「歌曲の夕べ」を聴いて、印象が変わりました。 プログラムにある真鍋圭子氏のエッセイによると、ウェルバが本来一番好きな世界はリートだったのだそうです。 なるほど、それを納得させるできばえでした。 シューベルトのイタリア語歌曲、ベートーヴェンの「はるかなる恋人に」、そして「詩人の恋」というプログラムだったのですが、イタリア語歌曲のオペラを思わせる息遣いから、「詩人の恋」の、文字通り各曲を1編1編の詩として描く力まで、とにかく表現が広い。 とくに「詩人の恋」は見事でした。どれもこれも、詩の表情、世界が立ちあがってくるのです。曲ごとに切り替わるその世界の広さ。 ニコラ・ルイゾッティのピアノもそれに負けない雄弁さで、2人の息がぴたりと合い、音楽の絵画を作り上げていました。 ルイゾッティはリートリサイタルの伴奏をするのは初めて!だそうですが、それはそれは真摯な取り組みで、シューマンの世界への共感が伝わってきました。 イタリア人ピアニストと、オーストリアといってもイタリアにごく近い歌手の組み合わせとあって、それなりに明るい色調ではありましたが。 面白かったのは、終演後に行われた「ミート・ザ・アーティスト」と題された聴衆との交流会。 真鍋氏の通訳&司会で、2人のおしゃべりと質疑応答が行われました。 ウェルバは、若いころからリートに親しんでいたことを披露し、(最初に先生の前で歌ったリートが「冬の旅」の「からす」!だそうです)、「詩人の恋」は精神的にとても大変な作品、詩人が苦しんでいるのが伝わり、その気持ちに悩む、エネルギーがとても必要だが、アーティストとしては最高、と語っていました。いいリート歌手が少ない現在、ぜひこれからも彼のリートを聴いてみたいものです。 ルイゾツティは、コンサートでリートの伴奏をするのははじめて、もちろん好きで個人的には弾いていたが、まさかこんなことをするとは思わなかった、と会場を笑わせました。 面白かったのは、質疑応答でまっさきに手を挙げた江川しょう子さん(すみません、字が出ません)の質問への回答。 江川さんが、「イタリア語の歌の伴奏をするときと、ドイツ語の歌の伴奏をするときは違いますか?」と質問したのに対し、 「全然違う」とここでもまず笑わせ、 「ドイツ人は内向的で、イタリア人はエモーショナルです」といいました。 「シューマンはとくに内向的。理想の、見たこともない恋人に恋をして悩むんですから。 イタリア人はそうじゃない。実在のひとに恋をして悩むんです」 えらくわかりやすいたとえで。会場はどっと沸いていました。 「テンポが速いのではないですか?」という質問には、 「楽譜に書いた通りにやっているつもりなのですが。私たちが間違っているかもしれませんが・・・」 と真摯な答えが返りました。 「ウェルバと一緒に取り組んでいて、いろいろ議論もしました。作曲家が言いたいことがつかめたと思った時は、とてもうれしい」 「音楽をやっている時は、音楽のことしか考えない」 どうも、こういう言葉に弱いんですね、私。 ウェルバ&ルイゾッティ。3月のサントリーホール・ホールオペラ「コジ・ファン・トウッテ」も楽しみです。 http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/sponsor/hallopera2009/index.html お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
February 27, 2010 02:52:34 PM
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