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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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April 12, 2013
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 今年楽しみにしている公演の一つ、フェニーチェ歌劇場の「オテロ」を観に、大阪まで行ってきました。

 フェスティバルホールの改装オープン記念という、メモリアルな出来事でもあったからです。

 中之島タワーに誕生したフェスティバルホール。ホールへの入り口には赤い絨毯が敷かれた大理石の階段が続き、贅沢な気分にしてくれます。チケットのもぎりを抜けた先、さらに上の階にあるホールへのアプローチは、エスカレーター。照明付きのトンネルを抜けるような設計で、これまたちょっと異次元の気分です。

 ホワイエは前のフェスティバルホールよりは広いようですが、ちょっと暗いのが玉にきず、でしょうか。

 場内は素敵です。広々と明るく、舞台も、少なくとも私がかけた一階前方の席からはとてもよく見えました。ステージの照明もくっきりしているので、ヴェネツィアで観たときよりも細かいところがよく見えたほど。演出の工夫(パントマイムが演じる嫉妬という悪魔がオテロに取り憑く部分など)も、現地よりよく分かったなあ、と思ってしまいました。

 今回の「オテロ」、以前も書きましたがフェニーチェの今シーズンのオープニングを飾った新制作。ヴェルディを得意とするチョンミョンフンの指揮はもともと期待されていましたが、ロッシーニ歌いからヴェルディ晩年の「オテロ」に到達したクンデのタイトルロール、新人ながら大抜擢されたデスデモナ役、リア・クロチェットなど、キャストは「冒険」といっていいものでした。オテロ役といえば、ヴェリズモに向いたテノールか、下手をすればヘルデンテノール、つまりやたら重い声の歌手が歌うことが通り相場になっていますから、ロッシーニテノールのクンデの起用は衝撃的でした。その現地公演が大成功だったことは、以前のブログにも書いた通りです。

 では、今回は?

 素晴らしかった。本当に。

  個人的にはやはりまず「声」と指揮に満足。ロッシーニのセリア(いわゆる「バリテノール」と呼ばれるタイプ)からフランスオペラを経てヴェルディ後期にたどりついたクンデのオテロは、ベルカント歌手にふさわしく、明るく輝かしく、精度の高い歌唱。まさに黄金の声、と呼びたくなります。デルモナコのようにヴェリズモ的なオテロとはかけ離れ、ドミンゴのように精度はありながら感情に揺さぶられることもなく、よりクリアで、澄んでいて、「声」を聴く醍醐味を味あわせてくれる。いえ、それはもちろんオテロの狂乱をあらわす表現力にも不足はありません。

 相手役のクロチェット。パワフルです。ちょっと独特な、個性的な、輝きと曇りが同居したような声。かなり強烈。でもすごく安定していて、安心して聴ける。うーん、技術的には、今の歌手のほうが、いわゆるイタリアオペラの「黄金時代」の歌手より上の部分があるのじゃないか、と思ってしまいます。

 ヤーゴ役のルーチョ・ガッロは持ち味の(声も含めた)演技で勝負。彼の場合は声の精度よりむしろそちらです。でもヤーゴは演技力はとても大事な役ですから、不満はありません。「クレード」の悪魔的なるものの強調も、ぴたりと決まっていました。 

 そして、指揮です。やっぱり。さりげなく声をサポートしているようでいて、ドラマの要所要所をきちっと抑えている。第3幕のオテロの絶望の悲痛。第4幕のデスデモナのはりつめた不安。彼女死を前にした2人の間に漂う、容赦ない空気。それを無駄なく、雄弁に、美しく!描いてゆく手腕は卓越しています。あくまでドラマを大切に、奉仕する、その姿勢につくづく共感してしまいました。第4幕でずっと心の奥が泣いていたのは、「オテロ」では珍しい体験なのですが、それはひとえに彼の音楽がドラマに寄り添い、音の奥にまで食い入っていたからだと思います。

 フェニーチェのオーケストラは、たとえば、ドイツ系の重厚なオーケストラ、あるいはその手のオケによる「オテロ」を聞き慣れているひとには物足りないかもしれない。でもねえ、これくらいでもドラマは十分に伝わるのです。「オテロ」は重厚でなくては、という先入観はそろそろなくしてもいい。やっぱりヴェルディはすっきりした潔さが音楽にふさわしい。力で押さない好ましさというのがあります。 

 公演が終わっても、身体のなかに音楽が残り、響き、新しい涙を身体のなかにためてくれ続けていたのは、指揮の力によるところが一番だったと感じました。 

 フランチェスコ・ミケーリの演出の美しさも、新しいホールの空間に映えていました。「ヴェネツィアの獅子(オテロ)」を象徴する獅子座が、藍色の夜空をバックに映し出されるのが視覚面での重要なモティフですが、フェスティバルホールの鮮度の高い照明で、その美しさが現地よりくっきりと感じられたのは思いがけない利点でした。

 フェニーチェ歌劇場「オテロ」、日曜日は名古屋、そして来週は東京公演です。

  http://www.asahi.com/fenice2013/ 






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最終更新日  April 15, 2013 11:45:31 PM


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