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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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July 7, 2015
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 今回のイタリアツアーのハイライトのひとつは、ヴェローナ音楽祭での「アイーダ」です。

 北イタリアのヴェローナで、ローマ帝国時代の闘技場を会場に開催される野外オペラフェスティバル。 収容人員は15000人くらいという、野外オペラフェスティバルでも最大の規模を誇ります。ヴェルディ生誕100年の1913年に始まり、あまり途切れることなくほぼ毎年開催されているという長い歴史も特筆もの。6月半ばから9月初めまで、5つくらいの演目が50回前後上演され、ファンだけでなく観光客も大勢押しかけます。開演は21時前後で、始まるときはまだ明るいのですが、公演が進むにつれて夜が更け、月が浮かんだりするのは野外オペラの醍醐味。幕間に売られるスプマンテやプロセッコ(スパークリングワイン)のグラスには音楽祭のシンボルマークである古代劇場がデザインされ、年号も入って、持ち帰ることができます。ここにしかないお土産ですね。

 「アイーダ」は、ヴェローナ音楽祭の看板演目。1913年、オープニングの時の演目も「アイーダ」で、以来、ヴェローナで一番上演回数の多い演目です(2位は「ナブッコ」、3位は「カルメン」)。「アイーダ」は、スペクタクルばかりが強調されますが、心理劇という面も強い作品。それでも、ヴェローナで見る「凱旋の場」は格別です。

 ヴェローナの「アイーダ」は、これまで4つのプロダクションを体験しました。イタリアのベテラン、ピッツィ、1913年の演出を再現したデ=ボジオ、生誕200年の2013年に新制作され、工事現場の「アイーダ」で話題を呼んだデ・パウルス、そして巨匠ゼッフィレッリ。どれもそれぞれ面白かったですが(いま思い返すと、青と黒と銀を基調にモダンなデザインだったピッツィのものもとても美しかったと思います)、はじめてヴェローナで「アイーダ」を見る、という方にオススメなのは、やはりゼッフィレッリです。巨大な舞台の中央に黄金のピラミッドを置き、幕が変わるごとにピラミッドが回転して、それぞれの面にくっついたいろんなもの〜ツタンカーメンのお面とかスフィンクスとか〜を見せてくれる。そして、極彩色で登場するさまざまな小道具。私たちが思い描く夢のエジプトが、真夏の夜の夢を演出してくれるのです。

 今回のツアーに「アイーダ」を入れたのは、まずはゼッフィレッリのプロダクションだからということがありました。(2013年のツアーに入れ、ツアーメンバーの間で評価が割れたデ・パウルスの演出だったらきっと避けたと思います。)そして、これが「アイーダ」初挑戦だというバッティストーニの指揮。歌手もそれなりのレベルのひとが揃っていたので、ツアーのハイライトにしていい公演だと思えました。

  さて、その「アイーダ」、公演もさることながら、前後のハプニングもとても楽しめた一夜となりました。

 まずは開演前の通り雨。ヴェローナは雨が少ない場所だから野外オペラフェスティバルを始めたといわれますが、とくに近年は気候が不安定なことも少なくありません。けれど、いわゆる通り雨が多いため、開演前や上演中に降られても、開演をのばしたり休憩を入れたりしてなんとか公演をおこなうケースがほとんどです。

 今回も、21時の開演を前にして、雨がきたのが20時ごろ。私たちはとりあえず会場まで移動しましたが、場内には座って雨宿りできるところがほとんどないので、会場の外にひろがるブラ広場の一角で待つことに。そうしたら、たまたま雨宿りをした建物が博物館で、万博に呼応してワインと食の展覧会をやっており、臨時のワインバーが出ていました。こうなったら開演前にいっぱい。しかもグラス3.5ユーロとコスパも抜群。しかもしかも、めいめいワインを頼んで、腰を落ち着けたら、おつまみがサービスで出てきたではないですか。地方名産のハムやチーズの盛り合わせ。開演前の腹ごしらえは、これでばっちりでした。 

 1時間近く遅れて始まった公演は、雨にもたたられず、しっかり最後まで観劇することができました。舞台の端にある機材が、なかに残っている雨水のおかげで雑音を発したり、寒さに悩まされたりということはありましたが、過ぎてしまえばそれも思い出です。

 ゼッフィレッリの演出はヴェローナでは大人気で、「アイーダ」以外にも「カルメン」「トロヴァトーレ」「蝶々夫人」「トゥーランドット」などを見ましたが、彼のプロダクションの素晴らしいところは、広大な闘技場=アレーナの舞台をくまなく生かすところです。とにかく広い舞台なので、持て余して散漫になるプロダクションが結構あるのですが、ゼッフィレッリは装置のスケールの大きさ、群衆の動かし方などでその広さを感じさせず、しかも広さを生かす。それがすごいと感じます。

 今回は割と前の席だったので、群衆の表情付けなどもよく見られたのですが、最大の発見は、凱旋の場で、群衆とエジプト軍側が一部対立していたこと。権力と民衆の関係が描かれていて、ああこんなことも考えてやっていたのだと感じ入ってしまいました。

  音楽的には、指揮のバッティストーニが終始主導権を握っていた公演でした。主導権といってもムーティのように有無を言わさず引っ張るのではなく、歌手たちを歌わせよう、巻き込もうとしていくタイプなので、聴いていて気持ちがいい。そこも人気(観客にも演奏家サイドからも評判がいい)の理由だと感じます。のびやかな歌、しなやかなテンポ感。そして今回の発見は、弦楽器中心の柔らかで繊細な部分〜前奏曲とか第3幕の情景描写など〜の美しさでした。バッティストーニはどちらかというと近代もの〜世紀末から20世紀初め〜くらいが一番得意なのではないかと思いますが、そんな彼ならではの、1871年に初演された「アイーダ」の響きの新しさをよく捉えていたと思います。

  歌手陣はそれなりに名前が通ったひとばかりだったのですが、そして懸命にバッティストーニの棒に応えようとしてはいたのですが、なかなか‥。うーん、ヴェルディ歌手は今ほんとうに難しいです。歌手を聴くならヴェルディよりロッシーニの時代ですね。

 さて、終演後はファンの方々とバッティストーニに会いに。開演前のハプニング飲み会に続き、ここでまた、忘れがたいハプニングがありました。今回のメンバーのなかに、トスカニーニの大ファンがいらして、トスカニーニの遺品などをコレクションしているのですが、バッティストーニが「トスカニーニの再来」と謳われていることもあり、また日本で何度もバッティストーニの演奏に接して彼のファンになったこともあり、貴重なコレクションから数点を、プレゼントに持参したのです。そのなかには、トスカニーニの自筆のサイン入り写真(とても貴重なものだそう)、プライベートなトスカニーニの写真(プライベートな写真もとても少ないのだとか)、そして秘書をつとめていたトスカニーニの息子が、父の言葉を代筆した、あるピアニストに宛てた手紙などがありました。

 手紙の内容は、芸術家であるための心得といったらいいでしょうか。「芸術家はとても厳しい仕事。あらゆることを犠牲にしなければならない。とにかく勤勉でなければならない。トップに上り詰めたらなおさら、勤勉でなければならない。何度勉強した作品でも、一から勉強し直さなければならない」といったようなこと。その方が、この手紙を、これから羽ばたいていく若い指揮者に贈ったのは、とても納得がいったのでした。

 「これは、プレゼント以上のもの」。バッティストーニはそういって大喜び。正直なところ、贈り手の方や私たちが思っている以上に喜んでくれました。そして、「何度も欲しいと頼まれたけれどことわってきた。けれど今日初めて、僕の指揮棒をプレゼントします」と、贈り手のT氏に持っていた指揮棒をプレゼントしたのです。国境を越えて、愛好家と演奏家の気持ちが交わった一瞬でした。

  いろいろなハプニングに彩られたヴェローナの一夜。やっぱり、旅はやめられません。

  

 






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最終更新日  July 7, 2015 02:58:28 PM


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