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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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November 27, 2015
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 先日、ある雑誌のお手伝いで、イタリア人衣装デザイナー&装置家の、アレッサンドロ・チャンマルーギさんにインタビューする機会がありました。

  チャンマルーギさんは、新国や藤原歌劇団をはじめとするさまざまなプロダクションで、日本でもおなじみのアーティストです。ちなみに日本でのデビューは、アルベルト・ファッシーニが演出した新国立劇場の「リゴレット」だったそう。 

 私がチャンマルーギさんのことを知ったのは、びわ湖ホールで行われていた、ヴェルディオペラの日本初演シリーズを担当していらしたとき。公演前のプレトークにも出ていらして、トーク終了後は舞台に上がって衣装を間近に見る機会もいただいたりしました。色彩感にあふれ、重厚な衣装の数々に、やっぱりイタリアだなあ、とため息をついた覚えがあります。シンプルな舞台でも衣装で華やかにしてしまう。「エルナーニ」の最終幕で、幕があがった瞬間(結婚の祝いの場面)合唱団の衣装の渦巻く色彩に圧倒された記憶は今でも鮮やかです。

 さて、今回のインタビューは、おもに「衣装デザイナー」「舞台装置家」のお仕事について、だったので(イメージを作ってから、具体的な構想が決まるまでの準備段階がいかに大変か思い知らされました。実現のためのコスト〜材料費だけでなく必要な人件費までも〜も細かく計算しつくさなけばゴーサインが出ないのです)、「イタリアの美」ということについては、それほど突っ込むことができなかったのですが、それでもいくつか、うなずける言葉がきけました。

 ローマの美術学校に学び、前述のファッシーニや、ピエルルイジ・サマリターニらの助手を長年務めて経験を積んだチャンマルーギさん、やはり「美しさ」が大事、といいます。経済的に厳しいので、なかなか思うようにはいかないけれど、でも美しくなくては、という。同感です。(ドイツによくあるような、「白と黒のパネル」はちょっとねえ、という話で盛り上がってしまいました。。。)

  ちなみに彼がこの道を志したのは、子供のころ、両親に連れて行ってもらった「ボエーム」でのことだったそうで、その舞台を見て「装置や衣装を作る仕事をする」と決心したのだそう。「音楽家になろうとは思わなかったのですか?」ときいたら、小さいころから絵を描くのが好きだったそうで、納得しました。

 その「絵を描く」という行為のとき、チャンマルーギさんはルネッサンスの画家を手本にして、まねていたそうです。ラファエッロ、ボッティチェリ…「オペラだって、ルネッサンスの産物だからね」

 そういえば、そうかもしれない。

 音楽史ないしオペラ史の本には、オペラとともに「バロック時代が始まった」ようによく書かれています。でも、ルネッサンスの宮廷芸術の延長線上にあるのだから、たしかにルネッサンスの産物なのです。

 いろいろお話をうかがいながら、チャンマルーギさんが私淑したサマリターニの演出による、「リゴレット」の舞台が思い浮かびました。パルマの歌劇場のプロダクションで、この2月には二期会で上演された、伝統的で色彩的な舞台です。冒頭のシーンなど、あまりにも鮮やかで美しく、今でもありありと目に浮かぶ絵画的なプロダクション。

  その話をしましたら、

 「あれはまさにルネッサンスの色」

 だとチャンマルーギさんはいいました。ルネッサンス絵画がお手本だと。「私たちは、そういうものに囲まれているからね」

 たしかに。

 その翌日、オペラの公演を観るためにベルリンに飛びました。羽田発の深夜便ででたので、ベルリンに着いたのは朝早く。ホテルのチェックインの時間まで、時間をつぶしに古典絵画館へ。これがすごいコレクションで、半日ではとても足りない、という規模なのですが、ふだんの展示と並行して、特別展でボッティッチェリをとりあげていました。現代のデザインにも影響を与えているモダンさもある、という切り口もあったのですが、なんと彼もまた、長い間忘却の彼方だったのですね。再発見されたのは19世紀のことらしい。

 それはさておき、ある女性の横顔を描いた肖像画を見ていて思い当たりました。その女性がまとっている衣装の赤、これこそ、あの「リゴレット」の舞台で見た赤だ、と。

 ボッティッチェリの赤。 それは、スポットライトを浴びているようにあまりにも鮮やかでした。光を浴びて輝いている真紅といいたくなる赤。

 同じ美術館には、ラファエッロの赤もティツィアーノの赤もあったのですが、あの「リゴレット」の舞台の「赤」は、これ以外ではありえない、ように思われました。

 あのような舞台こそ、やはりイタリアの「美」なのです。音楽も美術も、イタリアの美しさがすべて詰まった総合芸術。それこそ、本来のイタリア・オペラというものでしょう。

 もちろん、アルプスの北で繰り広げられるイタリア・オペラを否定するつもりはありません。今回、ベルリンで見た「アイーダ」はまさに「アルプスの北」の典型でしたが、これはこれで面白かった。オペラの再生という意味では、このようなチャレンジは欠かせません。

 けれど、イタリアで作られるイタリア・オペラの舞台には、長い年月を生き延びてきたイタリアの「美」、古典的な「美」が凝縮されている。それは、古臭いの一言で片付けることができない、失われるにはあまりにも惜しい世界なのだ、ということも、改めて感じた今回の体験だったのでした。

 チャンマルーギさんのイタリアの美感満載の舞台、近々では藤原歌劇団の「仮面舞踏会」で体験できます。最終場では、楕円形のクーポラのような装置が圧巻です。

 https://www.jof.or.jp/performance/1512_maschera/  

  






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最終更新日  November 27, 2015 07:38:01 PM


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