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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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April 16, 2019
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これは、今までにないタイプの「スター」誕生です。
 METライブビューイング、「連隊の娘」のプリティ・イェンデ(マリー役、ソプラノ)。アフリカのズールー族出身。超絶技巧とキラキラした明るい声、そしてチャーミングな存在感。そう、すごくチャーミングなんです。光の束のように明るい。人を惹きつける。
 明るくてポジティヴというのは、多くのスターに共通する要素でしょう。ネトレプコも、ダムラウもディドナートも、そういう面を感じます。ダムラウなど、インタビューで、歌うのが好きで嬉しくて仕方ない、という気持ちをにじませているし、ネトレプコも、大抵の場合、明るくてユーモラスな受け答えを忘れません。
 けれどイェンデの「明るさ」は桁が違う。いつも笑顔で、もうほんとに生き生きとして、ヴィヴィッドで、眩しい。
 歌がうまく、演技がうまい(イェンデ、身体能力が高い!)。一流のオペラ歌手になるには必須ですが、昨今はそれに加えて「美貌」も重要です。ネトレプコ、ゲオルギューがいい例ですね。イェンデは、少なくとも彼女たちのような「美女」ではありません。アフリカ出身は、やはりまだまだオペラ界では珍しいし、ナオミ・キャンベルのような美女ではない。でも、ひきつけるんです。それがすごい。その元になっているのは、繰り返しですがイェンデの「明るさ」です。こんなスター、今までいたでしょうか。
 声もほんとうに素晴らしい。高音域は輝くばかりで、軽やかで、即興も自由自在。飛び抜けて「うまい」です。そして演技の自由さといったら。「そこまでやるの?」と言いたくなるくらい、大胆です。舞台度胸がある。METの大舞台を飛びまわり、駆け回る。上背もわりとあるので、その点でも目を惹きます。
 METの「連隊の娘」はL・ペリ演出の名舞台。以前上映された時は、フローレス&デセイという黄金コンビで、これもしびれました。これ以上のコンビは考えられない、と思ったものです。けれど今回、実は「見どころレポート」を書くために、事前に映像をみる機会をいただいたのですが、今回の主演の2人、テノールのカマレナとイェンデも、全然別のタイプですが完璧だ、と思いました。まさに世代交代。生命力と明るさがあるのです。
 以前のキャストのデセイも、演技力、歌の力で抜きん出ていましたが、彼女はちょっと「いっちゃっている」ところがあるんですね。そこも魅力なのですが、イェンデの生命力を目の辺りにすると、ハッピーエンドのオペラ・コミックのヒロインとして、とても魅力的なのを認めざるをえません。
 
 イェンデ、実は先月、パリのオペラ座で、同じドニゼッティのオペラ・ブッファ「ドン・パスクワーレ」を見たばかり。相手役は今回と同じカマレナでした。そこでも彼女が一番光っていたし、人を惹きつけるオーラはまぶしいくらい感じられましたが、「連隊の娘」のマリーはさらにはまり役。以前、METLVでは「愛の妙薬」に登場していましたが、その時に感じた、黒人ならではの声の「くせ」のようなものも、今回はほぼ払拭された感じです。このひと、これからすごいことになるのではないでしょうか。大スターになる予感がします。
 相手役のカマレナ、ハイCを連発するアリア、「友よ、なんと楽しい日」をアンコール。聴衆総立ち!劇の途中にして総立ち、というのはめったにお目にかかれません。これは歌う前から客席が期待していたみたい、というのは、たぶん、今回の公演ではいつもアンコールしているんですね。だからでしょう。期待感も反応もすごかった。客席が超満員だったのはそのせいもあるのではないでしょうか。
 たしかに、今、高音がこれだけくっきりと魅力的で、正確に「張れる」テノールは他にいなさそうです。とはいえ、「声」じたいの魅力でいうと、前のキャストフローレスのほうが上だとは思う。フローレスみたいに一声でわかり、ぎゅっ、と惹きつける輝かしい声、その天性は残念ながらカマレナにはないかもしれない。けれどそこまで求めるのは贅沢というものです。フローレスかカマレナか、なんていうのは、ものすごーく高いレベルで比べている訳ですから。
  
 ベルケンフイールド侯爵夫人役のステファニー・ブライズも快演。ドスのきいた美声もですが、とくにせりふの部分のお芝居が素晴らしい。第2幕冒頭の、ハリウッド女優K・ターナーとのやりとり、嫌味なおばあさんふたりの丁々発止は最高でした。
 ターナー、当然でしょうがこれがオペラ初出演とか。インタビューで感想をきかれて「オペラは演劇と正反対ですべてが過剰なの。でもとても楽しかった。みんな才人ばかり!」と言っていたのが印象的でした。
 いやほんとに「才人ばかり」の舞台だったと思います。各人のインタビューでもすごくそれを感じました。METLVのインタビューはいつもエンタメとしてもとても面白いけど、やはりキャストの知性とか性格とか見えるから、頭がいいひとの話は面白い。今回はみんな頭がいい!と思わせてくれる歌手揃いで、インタビューのN・シエラも臨機応変で、様々な質問を繰り出していて素晴らしかった。彼女はこの時期にMETで「リゴレット」のジルダを歌っていたらしいのですが、それ、見たかったなあ。
 
 古楽も得意なE・マッツォーラの指揮も、生き生きと音を鳴らしつつ茶目っ気たっぷり。舞台とのコミュニケーションもすごくて、第2幕冒頭のK・ターナーの一人芝居でも女優の彼女と「対話」していました。ほんとに一体感のある舞台でした。一夜あけてもこんなに興奮しているのは、息の合ったチームに遭遇した快さもあると思う
 
 カーテンコールの喝采は、今シーズンのMETLV随一でした。ネトレプコ、ラチヴェリシュヴィリ、ベチャワで沸いた「アドリアーナ」よりすごかったと思う。大げさに言っているのではありません。ほんとに、すごかった。カマレナが出てくるあたりから、上部座席から紙ひらが降り注ぎ、イェンデには花束がいくつも飛んでいました。こんなカーテンコール、見たことあったかな。
 繰り返しですが、サイトに「見どころレポート」を書かせていただいたので、映像は見てはいたのですが、悲しいかな、字幕なしだったので、作品の大きな魅力をしめるお芝居の部分がよく理解できず、インタビューも細かいところまでは読み取れず、うまく生かせなくて恥じ入っております。けれど、だからこそ、改めて字幕入りの大スクリーンで見てよかった。
 「連隊の娘」、ネトレプコだカウフマンだダムラウだのスター揃い、「カルメン」だ「椿姫」だ「アイーダ」だの人気演目揃いの今シーズンでは正直地味な感もあり。フローレス&デセイで見たからいいわ、という方もあるかもしれない。でも、これはお世辞抜きで、必見です。ぜひ見ていただきたいです。シーズン唯一のハッピーエンドものなのも貴重ですよ。
 https://www.shochiku.co.jp/met/





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最終更新日  April 16, 2019 09:27:50 AM


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