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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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March 3, 2021
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カテゴリ:音楽
本日(3月2日)、新国立劇場、オペラ公演のシーズンラインナップが発表になりました。
記者会見に参加してきましたが、大変素晴らしいラインナップだと感じています。何より、「国立のオペラ劇場に求められるもの」がそろってきた、という印象です。

 ラインナップはこちらから。​

 新国立劇場 オペラ 新シーズンラインナップ

 何が素晴らしいかというと、まず演目のバランスです。
 1998年に誕生して20数年。新国立劇場のこれまでのラインナップは、必ずしもバランスのとれたものとは言えませんでした。同じ作品(その中には比較的マイナーなものも)が繰り返し新制作されることが目立つ一方で(「指環」二回、「アラべラ」二回、「ナブッコ」二回など)、レパートリーがなかなか増えない。19世紀ドイツ、イタリア中心で、昨今流行りのベルカントやバロック、国立のオペラハウスならあるべきロシアものやフランスものが極端に少ない。20数年経ってベッリーニが1曲もなく、ロシアオペラの金字塔である「ボリス・ゴドウノフ」もまだ。(後者2点は今回も「まだ」でしたが、「ボリス」に関しては予定があるようです)20世紀ものも少ない。何より、持っているプロダクションが少ない(らしい。大野さんが繰り返しおっしゃってます)。
 2018年に指揮者の大野和士さんがオペラ部門の監督に就任されて以来、そんな状況は変わりつつあります。「国立のオペラハウス」としての目配りが、格段に違ってきたと感じるのです。ようやく、という感じですが、とても嬉しい。(これまでの芸術監督だと、故若杉弘さんの監督時代はかなりバランスが取れていたと思います。若杉さんも大野さんも、海外のいい劇場でポストを持たれた経験が物を言っていると感じます)。

 大野さんはかねがね、「ベルカント、フランスもの、20世紀、同時代もの、バロック、ロシアもの」といったレパートリーが少ない、増やすべきだ、と唱えておられましたし、実際、これまでのシーズンもその路線は明確でした。また日本人作品、特に新作委嘱にも力を注がれ、昨秋の藤倉大氏の新作オペラ「アルマゲドンの夢」は、作品、上演レベルともに素晴らしい公演でした。ようやく、新国立劇場が、ヨーロッパの第一線の劇場と同等になったと感じたものです。

 今回のラインナップ、個人的には「きたきた!」と小躍りしたい気分です。これまでほんとに僅かだったベルカントで幕を開け、これもほんとに僅かだったフランスものでシーズンを閉じるのですから。しかも2作とも、指折りの名作です。これまでも上演はありましたが、一回限りだったり中劇場だったり。そういうレベルの作品ではなくて、常にレパートリーにあるべき作品なのです。しかもキャストも素晴らしい。

 シーズンの開幕は、ロッシーニの「チェネレントラ」。ロッシーニの大傑作。「人をホロリとさせる」(大野さん)近代人、ロッシーニの面目躍如の作品。そして指揮者がすごい。今、ベルカントをふらせたら当代屈指のマウリツィオ・ベニーニです。日本にはそんなにきていませんが、Met ライブビューイングのベルカントものでもおなじみ(いつも名演!)。私もモンテカルロの「スティッフェーリオ」、マドリードの「海賊」(ベッリーニ)などでその名技に揺さぶられてきました。歌手も、日本が生んだロッシーニスターの脇園彩さん、昨年の「セビリアの理髪師」の名演が記憶に新しいルネ・バルベラ、 ベテランのアレッサンドロ・コルベッリなど贅沢です。
 そしてクロージングを飾るのは、ドビュッシーの、そしてオペラ史上の大傑作、「ペレアスとメリザンド」。オペラハウスにはなくてはならない作品です。大野さんが指揮し、エクサンプロヴァンス音楽祭で絶賛されたというケイテイ・ミッチェルの演出(こういうのは、大野さんでなければ実現できないでしょう)、歌手には大ベテランのロラン・ナウリ、注目のベルナール・リヒターなど。ああ、待ち遠しい。

 「ペレアス」の前に上演される、グルック「オルフェオとエウリディーチェ」も注目です。大野さんによれば、今回のラインナップはこの作品から始まったそう。グルックは18世紀の「オペラ改革者」、言葉と音楽の融合を試みた作曲家として知られますが、その影響は同時代よりむしろ19世紀に強く、ワーグナーも大いに影響を受けた。そしてそのワーグナーの克服から始まったのがドビュッシー。。。というように、ストーリーのあるラインナップなのでした。
 そしてこの演目、バロックに強く、マルチタレントとして注目の鈴木優人さんの指揮、ダンスの天才、勅使河原三郎さんの演出。グルックはバレエも重要ですし、才人二人のコラボから何が生まれるか、注目です。
 もう一つの新制作は、今年中止になり、延期された「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。時期が変わったのにもかかわらず、当初予定のキャストが揃ったとのことで、大野さん、嬉しそうでした。新制作は以上4つです。

 再演は定番ものばかりで、残念ながらロシアものだ、日本人作品だ、と言ったものは見当たらないのですが、今回は、昨年の前半にコロナで中止に追い込まれたもの(「マイスタージンガー」など)の調整という面もあり、当初の計画がかなり混乱してしまっているということ。致し方のないことと思います。それでも、「キタキタ」というワクワクは120%味わえた気分です。

 再演6演目、「蝶々夫人」「さまよえるオランダ人」「愛の妙薬」「魔笛」「椿姫」「ばらの騎士」は、目玉のキャストという点では不足はありません。

 「蝶々夫人」は、実力派の国際的ソプラノ、中村恵理さんのタイトルロールに、注目のテノール、ガンチの顔合わせが目を引きますし、「オランダ人」はなんと、巨匠ジェームズ・コンロンのタクト。大野さんが口説いたようです。オランダ人役のシリンスも楽しみです。「愛の妙薬」は、ちょっと前の「ドン・ジョヴァンニ」で客席を熱狂させたベルカントテノール、フランシスコ・ガテルの再登場。イタリアの注目新鋭、フランチェスコ・ランツィロッタの指揮も嬉しい(彼のベルカントものは素晴らしいです)。ドゥルカマーラにこれもベテランのデ・カンディア。ほんと、いいです。
 「椿姫」は、世界のヴィオレッタ、アニタ・ハルティヒに注目でしょう。ウィーンをはじめ各地でヴィオレッタを歌っている名花です。「ばらの騎士」は、ウィーンでをこの作品を得意にしているウィーンっ子、サッシャ・ゲッツェルの指揮に加え、なんとドイツの大ソプラノ、アンネッテ・ダッシュが元帥夫人!大変楽しみです。
 「魔笛」はオール日本人キャスト。(以前も「魔笛」はこういうことがありました。日本人キャストでやりやすい作品でしょう)いいと思います。鈴木准、砂川涼子ら日本を代表する名手たちが登場します。
 日本人キャストについて、大野さん、このコロナ禍で日本人が多く新国立劇場の舞台に立つようになり、改めてその能力の高さに気づいたとか。日本人は「譜読み、ソルフェージュ能力がとても高い」のだそうです。そして「層が厚くなっている」。これからも、積極的な起用が期待できそうです。
 
 かつて(まだ新国立劇場ができる前に)日本のオペラシーンを牽引した海外のオペラハウスの引っ越し公演も、これからはなかなか難しい時代になりそう。新国立劇場が、日本のオペラ界を牽引してゆく存在であるべきなのは明らかです。そのような観点からも、大野さんのバランス感覚や人脈は貴重です。新国立劇場がリードし、可能な限り全方位に展開して、それ以外のカンパニーや劇場が独自の色を出していく。これからの日本のオペラ界は、そうなってゆくと思うし、そうなるべきだと考えています。





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最終更新日  March 3, 2021 04:23:08 PM


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