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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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March 7, 2022
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カテゴリ:音楽
今回は、アントネッロという団体の、ヘンデル「ジューリオ・チェーザレ」の感想を書きたいと思います。

 「アントネッロ」は、リコーダーと指揮の濱田芳通さんが主催する団体で、とても独創性の高いステージで知られます。昨年の暮れも、アドリブも豊かで劇的なヘンデル「メサイア」が話題になりました。

 今回の「ジューリオ・チェーザレ」は、ヘンデルの一番人気のオペラ。タイトルロールはあのローマ将軍シーザーで、オペラの主軸はシーザーとクレオパトラが出会って結ばれるまでです。

 と言っても、バロックオペラというのは、色んな意味ではちゃめちゃです。

 ストーリーが史実とずれているのは当然だし(まあバロックオペラだけではありませんが)、音楽も、歌も楽器も即興に任せられる部分が大きいので、とても自由。とはいえ、当時の「ルール」を知らないと、「即興」することはできません。あくまで、当時の演奏習慣(即興や装飾を含めて)や楽器のことなどいろいろな知識がないと、ふさわしい「遊び」はできない。とても高度なはちゃめちゃなのです。

 そして何より、うまい歌手、うまい奏者が揃わないと、面白くありません。

 今回の「ジューリオ・チェーザレ」、とてもユニークで、でも筋が通って、遊び心満載で、とことんオリジナルな公演でした。アントネッロでしかできない「チェーザレ」であり、歌手も楽器奏者も十分実力があり、つまりはどこに出しても恥ずかしくない公演だったと思います。ヨーロッパでやっても受けるのではないでしょうか。

 濱田さんのスタンスは、このオペラは「最高のコミックオペラ」。確かに。バロックオペラというのはそういうところがあるのですが、バロックオペラの最高傑作の一つである「ジューリオ」には、それを突き詰めた部分があるかもしれません。シリアスとコメディは表裏、紙一重。そうやってみると、それぞれの人物の幅がとても豊かになります。みな、表裏がある。例えば侍女や軍人といった使用人たちは、主君に不満タラタラだったりするわけです。

 でも、多分、そんな人間的な演出は、このオペラに向いている。バロックオペラって、多分とても猥雑なものだったから。劇場も社交場だったし、観客も遊びに来ていたわけですから。そして本当に劇場自体が猥雑な場所だったと思う。

 アントネッロ版「チェーザレ」(演出は中村敬一氏)は、その辺をユーモラスに切り取ります。このオペラは3幕なのですが、今回はそれを2幕構成にし(ですので、カットはかなりあります。全曲やると4時間超ですから仕方のないところ)、1幕の終わりに、三人の使用人たちの寸劇を置いて、本音を吐かせる場面を作りました。酒を飲みながら不満タラタラ、そして、オペラ初演当時のイングランドの様子やヘンデル自身のことも含めて、状況を笑い飛ばす。抱腹絶倒とはこのことです。

 また、ヘンデルに扮したダンサー(聖和笙さん)が、序曲をはじめ要の部分で登場し、ヘンデルの本意?を時々伝えていたのも面白かった。他のキャストはローマ風の衣装なのに、彼だけかつらとバロック衣装。踊るのはバロックの宮廷舞踏風ダンス。視覚的にもスパイスです。

 キャストも目を見張る充実。歌に演技に、伸びやかに個性を発揮していました。日本人にはコメディは難しいのでは、と思っていたのですが、演出と音楽の力もあるのでしょうか。

 まず光っていたのが、実質的な主役であるクレオパトラ役の中山美紀さん。この役はアリアも名曲が目白押しで、いろいろな表情が求められるのですが、音楽が求めるまま、時に愛らしく、時に大胆に奔放に、チャーミングに歌い演じて客席を魅了していました。まろやかな声、高音域の美しさは特筆ものです。

 流石の貫禄、は侍女ニレーノ役の弥勒忠史さん。声は通りの良さも含めて圧倒的。演技も舞台を支配してしまう力があります。もっと聴きたい、というのは贅沢な悩みでしょうか。

 抜群のスター性を感じたのは、アキッラ役黒田ゆう(すみません変換できません)貴さん。話題の新人バリトン、スターバリトン黒田博さんの息子さんでもあります。何より舞台映えがする(長身のイケメン)。そして表情が豊か。客席からはっきり見える表情の豊かさ。天性のものでしょうか。すごい武器ですね。声も張りのある美声で、これからどんどん人気が出てくることでしょう(兵庫芸文の「メリー・ウィドー」ダニロも良かった)。

 トロメーオ役中嶋俊晴さんもスモーキーでまろやかな美声、悪役の演技も堂にいったもの。コルネーリア役田中展子さんには品格と女性らしい魅力があり、セスト役小沼俊太郎さんも若々しくフレッシュな声が役柄にピタリ。チェーザレ役坂下忠弘さんはノーブルな英雄でした。クーリオ役松井永太郎さんも安定の美声。

 一つ不満だったのは、チェーザレやセストはカウンターテナーかメゾゾプラノで聴きたかったな、ということ。声域的には問題がないのでしょうが、これらの役がバリトンやテノールだと、役柄の非日常性が薄れてしまう気がしました。わたし自身がそういう配役で聴き慣れているせいかもしれませんが。

 アントネッロの音楽は、グルーヴが効いて刺激的。ノリノリです。ロックかジャズか、本当に新しくて新鮮。飛び入りのパーカッションもアドリブ満載で、それこそ一歩間違えれば悪ふざけですが、バロックオペラは多分それでいい。だからこそ、今復活して、いろんな演奏や演出が試みられ、それを受け入れる幅があるのだと思うのです。ヘンデルだって、普通の?演出なんてほとんど見たことがありません。けれど、はまっている率は高い。それが、幅があると思う理由です。

 大道具としては、舞台前面に数段設けられた階段と、背後、パイプオルガンを中心に映し出された映像が主役。映像はとても効果的でしたし、最初や最後などにハノーヴァー朝(ヘンデルが仕えたゲオルク1世=ジョージ1世の家)の紋章が投影されたのも面白く見ました。

 ここでしか見られないオペラ。それを成功させた意義は、とても大きいと思います。それもまた、アントネッロのこれまでの蓄積と、バロックオペラの近年の復活の延長線上にあるものですが、びわ湖の「パルジファル」同様、この舞台が日本で実現したことは快挙です。





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最終更新日  March 7, 2022 12:43:06 PM


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