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カテゴリ:国際私法は国境を越えない?
たとえば、日本を旅行中のA国人甲が、A国在住のA国人乙に対して、日本から電話を掛けて乙を騙し、金員をA国所在のA国法人である銀行丙の甲名義口座に振り込ませたとします。
「日本国内」(刑法1条)とは犯罪構成要素の一部でも国内で行われれば該当することから、甲に対しても「日本刑法」の詐欺罪の適用が問題となるわけです。そこで、この場合に、乙が振り込んだ金員が「乙の財物」であるか否かを判断するには、どうしたらいいんでしょうか。 犯罪類型に民事的要素を含む場合に、さらに渉外的要素が加わったらどうなるか、という問題です。 日本刑法における財物性の判断なんだから、純国内事件と同じように日本刑法独自の立場から考えればいいってするのが一番単純だろうし、私法・公法二分論や公法の属地性などからすれば、それ以外の立場はありえないってことになるんでしょう。 しかし、結論としてそれでいいのかってことです。上記事例では、日本とのかかわりはたまたま甲が日本を旅行中だったっていうだけで、極めて日本との密接関係性が薄いわけです。にもかかわらず、純国内事件と同じ処理で済ましていいのかどうか(現実問題として、検挙されないとか起訴されないとか、そういうことになるんでしょうが)。 もちろん、日本の裁判所がA国刑法そのものを適用するのはありえないのでしょうが、財物性の判断にあたって、A国法における所有権概念や占有概念を参照するということは考えられないのでしょうか。おもいっきり民事の事案ですが、日本民法では自筆証書遺言の方式として署名押印が要求されるのに、遺言者が外国人であることから署名のみで有効とした最判昭和49年12月24日と同じノリで。 たとえば誰に占有があるか、という判断をする際の考慮要素は各国共通であるわけではなく、主観的要素を重視する国や、逆に客観的要素を重視する国などがありうるわけです。この場合でも、日本における占有概念に従って、淡々と刑法の適用をすればいいってことになるんでしょうか。 いわゆる刑法独自説では「日本刑法」、民法従属説では「日本民法」によって占有概念を決すべきとされるところ、「A国法」によるべき(密接関係地法従属説?)、とする道がありうるのかどうか。 さっきから「A国法における」占有概念といってますが、日本でも独自説と従属説の対立があるように、A国刑法上もこのような対立があった場合はどうなるのでしょうか。占有概念を「A国法」によるべきだとして、それは「A国刑法」における独自の占有概念であるのか(独自説)、それとも「A国民法」における占有概念であるのか(従属説)。 より込み入った話をすれば、独自説×従属説のどちらを採用するのかを、A国法によるかどうかの判断と並行して「日本刑法の解釈問題」として態度決定してしまうのか(日本刑法上の独自説・従属説に従う)、それとも、「A国法」によるかどうかが決まった後で、「A国刑法の解釈問題」として独自説×従属説のどちらが採用されているかを探求していくのか(A国刑法上の独自説・従属説に従う)。 まあ、今しばらくは(今後永久に?)、「刑法は公法だから」という理由で、こういう余計な問題は考える必要はないとされていくんでしょうね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年03月19日 21時16分59秒
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