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《櫻井ジャーナル》

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2021.05.23
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 APやアル・ジャジーラが入っていたガザのビルをイスラエル軍が破壊した4日後の5月19日、​APはひとりのジャーナリストを解雇​した。スタンフォード大学を昨年卒業、5月3日からAPの編集部で働き始めたばかりのエミリー・ワイルダーだ。ソーシャル・メディアに関する会社のガイドラインに違反したという理由だが、具体的に何が問題だったのかをAPは明らかにしていないという。

 この人物はユダヤ系なのだが、学生時代からイスラエルによるパレスチナ人弾圧に批判的で、入社後もメディアの姿勢も批判していた。「パレスチナ」ではなく「イスラエル」、「包囲攻撃」や「占領」ではなく「戦争」というという表現を使うこともおかしいとしていた。西側の有力メディアはアメリカによる侵略や虐殺などでも同じようなことを行っているが、今回はイスラエルが問題になっている。

 マス・メディアはこの世に出現して以来、プロパガンダ機関としての要素はあった。機関紙/誌は勿論、商業紙/誌がスポンサーの意向から逸れた「報道」は行わないようにしてきたことは否定できない。つまり私的権力のプロパガンダ機関だ。

 それでも1970年代まではメディアの所有に制限があり、まだ気骨あるジャーナリストが活動する余地はあった。そうした余地が急速になくなり始めたのは新自由主義が広がり始めた1980年代からだ。

 そうした気骨あるジャーナリストのひとりでAPの記者だったロバート・パリーは1985年にブライアン・バーガーとイラン・コントラ事件に関する記事を書いている。CIAに支援されたニカラグアの反革命ゲリラ「コントラ」による麻薬取引や住民虐殺を明らかにする内容だった。

 コントラの活動はCIAの秘密工作の一環で、アメリカ人も参加していた。その活動の実態に失望したジャック・テレルなる人物がパリーに情報を提供、さらにコスタリカの刑務所で拘束されていたふたりの傭兵、イギリス人のピーター・グリベリーとアメリカ人のスティーブン・カーからコスタリカにあるジョン・ハルというアメリカ人の牧場がコントラ支援の秘密基地として機能しているということを聞かされている。

 このハルはCIAと深い関係にあり、NSC(国家安全保障会議)から毎月1万ドルを受け取っていたとされていた。ふたりの傭兵はコントラ支援工作に関わっていたフランシスコ・チャンスのマイアミにある自宅で大量のコカインを見たとも話している。こうした工作の一端は後にジョン・ケリー上院議員を委員長とする委員会でも明らかにされた。

 パリーとバーガーが取材の結果を原稿にしたのは1985年のことだが、AP本社の編集者はふたりの記事を拒絶、お蔵入りになりかけた。それが「ミス」でスペイン語に翻訳され、ワールド・サービスで配信されてしまったのである。(Robert Parry, "Lost History," The Media Consortium, 1999)

 イスラエル問題と同じように、CIAと麻薬取引の問題も西側ではタブーだ。1996年8月にはサンノゼ・マーキュリー・ニューズ紙のゲイリー・ウェッブもこの問題を取り上げたが、有力メディア、例えばロサンゼルス・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、あるいは有力ネットワーク局は沈黙しただけでなく、ウェッブを激しく攻撃した。

 ウェッブの記事が出た後、1998年1月と10月にCIAの内部でIG(監察総監)レポートが出されたのだが、それはウェッブの記事の正しさを確認するものだった。

 この内部調査が行われる切っ掛けはマイケル・ルッパートなる人物の質問。この人物は1973年から78年にかけてロサンゼルス市警察の捜査官を務めていたが、その時代にCIAの麻薬取引に気づいて捜査、それが原因で退職せざるを得なくなったという経験を持っている。

 そのルッパートは1996年11月、ロサンゼルスの高校で開かれた集会でCIA長官だったジョン・ドッチに対し、警察官だった時代の経験に基づいて質問、内部調査を約束させたのだ。そしてIGレポートにつながり、ウェッブやパリーらの記事が正しいと確認されたのだ。

 しかし、有力メディアはウェッブ、ルッパート、パリーをその後も拒否し続け、自分たちの「報道」について訂正も謝罪もしていない。そしてウェッブやルッパートは自殺に追い込まれた。






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最終更新日  2021.05.23 00:00:09



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