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アメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めたスコット・リッターの自宅をFBIと州警察の捜査官が8月7日に家宅捜索した。「FARA(外国エージェント制限法)」に違反した容疑だとされているが、具体的に何が問題なのか不明で、彼のようにネオコンが主導する政策に批判的な人びとへの恫喝だと見られている。 リッターが後に公開した令状のコピーには電子機器を持ち出すことだけが許されているのだが、家宅捜索した捜査官はリッターがUNSCOMの主に査察官として活動していた当時の国連ファイルの箱も持ち出したという。 リッターの場合、FARAの規制対象ではないように思えるのだが、明らかに外国のために活動している強力なロビー団体でも規制されたいこともある。イスラエルのために活動しているAIPACだ。ジョン・F・ケネディ政権までは登録を求められていたが、その後問題にされなくなった。AIPACの前身であるAZCPA(アメリカ・シオニスト広報委員会)はAZC(アメリカ・シオニスト評議会)のロビー活動部門として設立されたが、1954年に別れたという。 その前、6月3日にリッターはニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で国境警備隊員にパスポートを押収されている。SPIEF(サンクトペテルブルク国際経済フォーラム)のパネル・ディスカッションへ参加するため、トルコ航空機に搭乗するところだった。その際、リッターは令状を見ることができず、預かり証も渡されなかったという。リッターによると、パスポートの押収は国務省の要請だった。 アメリカ主導軍がイラクを先制攻撃する際、アメリカの政府や有力メディアはイラクが大量破壊兵器を保有、今にもアメリカを核攻撃するかのように主張していたが、リッターはそれをUNSCOMの主任査察官として否定、アメリカの支配層から敵視されるようになった。最近ではウクライナアメリカ政府が実行したクーデター、そのクーデターで誕生したネオ・ナチ体制への批判、あるいはイスラエルによるガザでの虐殺批判もアメリカ政府を怒らせている。その政府を操っているのはシティやウォール街を拠点としてきた強大な私的権力だ。その私的権力は1991年12月にソ連が消滅した直後、自分たちが世界の覇者になったと考えた。 彼らの手先であるネオコンは1992年2月、DPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成する。その時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツ。このウォルフォウィッツが中心になってDPG草案は書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 その後、彼らは世界制覇の「詰め」に入り、ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクを先制攻撃するのだが、思惑通りには進まない。しかも潰したはずのロシアが復活、強力なライバルとして登場し、中国と戦略的同盟関係を結んだ。覇者になったはずの私的権力は窮地に陥った。 追い詰められた私的権力は情報統制を強化している。WikiLeaksの象徴的な存在だったジュリアン・アッサンジに対する弾圧はその一貫だった。彼は2019年4月11日にロンドンのエクアドル大使館内でロンドン警視庁の捜査官に逮捕され、イギリス版グアンタナモ刑務所と言われているベルマーシュ刑務所に収監されていた。 世界を支配するために反民主主義的なことを行ってきたアメリカの支配層にとってWikiLeaksは目障りな存在だった。そのアッサンジを拘束することによってWikiLeaksの活動を抑え込み、さらに内部告発を抑え込み、記者や編集者を尻込みさせようとしたのだろう。長期にわたる拘束の後、アッサンジはアメリカ当局と司法取引で合意し、釈放されたのだが、言論統制は強化されている。 アッサンジはオーストラリア人で、ヨーロッパで活動していた。その彼をアメリカ政府は配下の政府を利用して逮捕、拘束した。アメリカ政府が行ったことは言論弾圧のための不法監禁であり、拷問とも言える。 欧米の私的権力に弾圧されたジャーナリストはアッサンジのほかにも少なくない。例えば、ウクライナ東部のドンバスではドイツ人ジャーナリストのアリナ・リップ、フランス人ジャーナリストのアン-ローレ・ボンネル、カナダ人ジャーナリストのエバ・バートレット、フランスの有力メディアTF1やRFIのスタッフ、またロシアやイタリア人の記者らが取材していたが、彼らに対する西側政府の弾圧は厳しく、ドイツ人ジャーナリストのパトリック・バーブは職を失い、アリナ・リップは銀行口座を接収された。 ウクライナに住みながら同国のクーデター体制を取材していたチリ系アメリカ人ジャーナリストのゴンサロ・リラの場合、2023年5月にウクライナの治安機関(SBU)に逮捕され、収監されていたウクライナの刑務所で死亡した。10月中旬に左右の肺が肺炎を起こし、気胸、そして重度の浮腫を患ったのだが、刑務所は適切な治療を施さなかった。拷問の結果だともされている。 情報統制のため、西側の私的権力は1970年台から有力メディア支配を強化している。1980年代には「規制緩和」で有力メディアの大株主は集中、メディアの大半を少数のグループが支配している。2019年ではCOMCAST(NBCなど)、ディズニー(ABC、FOXなど)、CPB(NPR、PBSなど)、Verizon(Yahooニュース、ハッフィントン・ポスト)、ナショナル・アミューズメンツ(VIACOM、CBS、MTVなど)、AT&T(CNN、TIME、ワーナー・ブラザーズなど)、グーグル、ニューズ・コープ(FOXニュース、ウォール・ストリート・ジャーナルなど)というようになっている。 またユーチューブ、フェイスブック、X(ツイッター)などの検閲も強化されている。こうした検閲を「民間企業だから」という理由で容認することはできない。尊重すべきは「民間企業」のカネ儲けではなく「言論の自由」だ。「民間企業」のカネ儲けが言論の自由を危うくするならば、そうした分野を「民営化」してはならないということである。 フランクリン・ルーズベルトは1938年4月29日、ファシズムを次のように定義している:「人びとが私的権力を容認し、その私的権力が民主主義国家そのものよりも強くなるようなことがあれば、民主主義国家の自由は安全でない。個人、集団、あるいはその他の支配力を持つ私的権力による政府の所有は本質的にファシズムである。」 ********************************************** お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.08.15 00:00:13
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