コンドルの系譜 第九話(1079) 碧海の彼方
トゥパク・アマルは、若者二人を優美な仕草で食卓の方へ手招きする。「アンドレス、ロレンソ、誠にご苦労であった。さあ、そなたたちも、こちらに来て食事を摂りなさい。ずいぶん空腹であろう」「ありがとうございます!」長時間に渡って生死を賭けた作戦遂行に挑んでいた間も、その後の対応に追われていた間も、無我夢中で空腹のことなど忘れていたが、今、美味しそうに並べられた料理を前にして、アンドレスもロレンソも、自分たちが死ぬほど腹ペコだったことを痛感していた。二人とも食卓ごと抱え込んで一気に胃袋に流し込んでしまいたいほどの激しい食欲を覚えていたが、それでも、ロレンソは、トゥパク・アマルの隣に座しているアパサに気付いて、深く真摯な礼を払った。その様子に目を留めたトゥパク・アマルが、「そういえば、ロレンソ、そなたもアパサ殿とは初対面であったな」と微笑んで、二人をそれぞれに紹介する。「アパサ殿、こちらはアンドレスの学生時代からの朋友で、反乱幕明け初期よりインカ軍に参戦し、今では、わたしの重側近の一人でもある連隊長のロレンソです。ロレンソ、こちらは、そなたもよく知っての通り、わたしの一番の同盟者であるラ・プラタ副王領の豪族アパサ殿だ」トゥパク・アマルの言葉に、今一度、ロレンソはアパサに丁寧な礼を深々と払った。「アパサ様、お初にお目にかかれて誠に光栄です」アンドレスと同年齢にしては、ぐっと大人びた風貌と、涼やかで怜悧な眼差しを宿したロレンソをひとしきり眺めやったあと、アパサは、アンドレスにも目を向けて、口を開いた。「アンドレスと同い年には見えねえなあ。ロレンソ、おまえ、ガキの頃からの付き合いじゃ、アンドレスの尻拭いに、ずいぶん色々と苦労させられてきたんじゃないのか?まぁ、それに懲りず、今後ともアンドレスのことを宜しく頼む」急に自分の保護者然とした口ぶりになっているアパサの言葉に――しかも、指摘が図星であっただけに…、アンドレスは口に詰め込んでいたフライを吹き出しそうになった。一方、そんなアンドレスをよそに、ロレンソは、「いえ、滅相もありません。アンドレス様に助けられているのは、いつもわたしの方なのです」と、沈着な、それでいて若者らしい笑顔で明るく応じている。そのようなやり取りをトゥパク・アマルやビルカパサも穏やかな表情で見守っており、若い二人が座に加わって、晩餐の間に、再び和やかな空気が流れ出したようだった。◇◆◇◆◇お知らせ◇◆◇◆◇いつもご覧くださいまして本当にありがとうございます!温かい応援やコメントをくださる皆さまには重ねて深くお礼申し上げます。パソコンの調子が不調のため、今週末頃から修理にだす予定です。戻りがいつになるかまだ分からないのですが、念のため来週の更新はお休みさせて頂ければと思いますm(_ _)m日毎に秋の深まりゆく日々、気温も低くなってきておりますので、どうか皆さま、ご体調にお気を付けてお過ごしくださいませ。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫(インカ軍)隣国「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。 ≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)