ウィニ!起きろ!! [5]
☆☆ これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡みあい。ドロドロしたお話しです。 ☆☆ちょうどラブリーが自宅に着いた時、ウィニーから着信があった。「あと30分休みたい。9時に起こして。」「了解。」送信。30分ならなんとか起きていられる。9時になって、ウィニーに発信。出ない。3回目のコールで応答があった。「10時…10時に起こして…」「あと1時間眠るのね?10時半には出るんでしょう?」「ああ。今日は穴は開けられない。責任重大だよ。必ず、起こして。」「わかった。10時ね。」「俺の信用がなくなっちゃうから、絶対。」「OK。寝て。」なんとかあと1時間、起きていなければ…。ラブリーは洗濯を始めた。ところが今どき、洗濯は機械がするもの。スイッチを入れたら、あとは何もすることはない。子供達はすでに出かけた後。子供達のベッドを整え、掃除機をかけた。ベランダに洗濯物を干した。あと5分ある。ギリギリまで寝かせてあげよう。気分転換に歯磨きをして時間を潰し、10時ジャストに、また電話した。出ない。何度も何度も。全く応答なし。返ってくるのは、留守番サービスの声ばかり。イライラしてきた。10時20分。起こしに行くなら、今すぐ家を出ないと間に合わない。バッグとコートをつかみスニーカーをつっかけて、部屋を飛び出した。忘年会の服のまんま。スニーカーは似合わないが、悠長にブーツを履いているヒマなどない。駅へ走った。歩いても2、3分だが、信号待ち1回の時間も惜しい。改札階からホームへのエスカレーターも駆け上がった。ちょうど滑り込んできた上り電車に乗った。車中で電話はできないから、メールをしてみる。「電車乗ったよ。そっちに行く。ほんとは起きてるなら、返事して!部屋まで行っちゃうよ!来られちゃマズイなら返事して!」相変わらず、返事はない。駅に着いて、また電話する。留守番サービス。この時間、タクシーを利用する人はいない。すぐにタクシーに飛び乗った。「まっすぐ行って街道を越えて、2個目の信号を左に。」ウィニーがいつも運転手に伝える道順を繰り返す。もう、ラブリーも暗記している道順だ。もう一度メールをする。「タクシー乗ったよ。そっちに行くよ。起きるなら今のうち。」私を困らせようとして寝たフリを決め込んでいるのなら、サッサと返信した方が身のため。授業に穴を開けて、責任を私に持ってこようとしてる?私と手を切るために?結局、おばちゃんが大事だから…。何度も電話する。応答するのは、留守番サービスばかり。いつもウィニーがタクシーを降りる四つ角に来た。「運転手さん、あっちの方にタクシー会社ある?」「ええ、ありますよ。すぐのところ。」「そこ、行って。」目当てのタクシー会社の前にアパートらしき建物が2軒。ウィニーは、目の前にタクシー会社があり朝うるさいと、言っていた。どっちだろ?「1人、呼んで来るから待ってて。そのあとで京成の駅まで行ってほしいの。」そう言ってタクシーを飛び降りた。手始めに、タクシー会社の真っ正面にある方のアパート。階段の下に郵便受けが並んでいる。2人が借りている部屋の郵便受けには名前を出していないので、自宅にも名前を出していない可能性もある。もう片方のアパートの郵便受けも見て、ウィニーの名前が無ければ、無名の郵便受けを片っ端から開けて見なければならない。あまり明るい時にはしたくない作業だ。ウィニーの部屋は3階。そうだ!前、話してた!自分の部屋には上の階の張り出しがあるから、ベランダに雨は入らないって。2階には張り出しがないって。ここだ、このアパートだ!3階の郵便受け…あった!郵便受けにフルネームが書いてある。階段下にババアの自転車はない。出かけているのか、ほんとに別々に住んでいるのか…ババアがいても、構うものか!いたらいたで、こっちも言いたいことを言ってやる!階段を駆け上がった。郵便受けにあった部屋番号は、階段のすぐそば。ドアに片耳を押し付け、中の様子を伺う。人の声は聞こえない。ラブリーが一番遭遇したくなかった状況は避けられた。一番遭遇したくなかった状況…ウィニーがおばちゃんと朝ごはんを食べているシーン。右手で、立て続けにチャイムを押す。ドアも叩く。左手では携帯で発信。やっとウィニーが起きた。ちょうどその時、宅配のおじさんが小包を持って階段を上って行った。「起きた?ラブリだよ。下にタクシー待たしてるから、早く仕度して!」「えー?ホントに来たの?」「責任重大だって言ってたでしょ。もう10時半過ぎてる。下で待ってるから。駅まで送るわ。」階段を下りようとしたその時、上のほうからおじさんの声が聞こえた。「代々木さぁん、いませんかぁ?」え?ヨヨギ?でも、ヨヨギなんて名前、いくらでもある。おばちゃんとは限らない。タクシーに戻り、ウィニーの部屋の窓を見上げた。ウィニーの部屋から二階分上の階、5階の窓に…ネコ!!スモモ!あの女は5階にいるんだ!ラブリーはもう一度郵便受けのところに戻った。5階のその部屋のポストには、郵便物やチラシが溢れていた。ダイレクトメールが半分、飛び出している。あの女の名前がフルネームで印刷されていた。ふーん、そう。タクシーに戻り、もう一度、ウィニーの部屋のベランダを見上げた。あそこにおばちゃんの物も干してあるんだ…。私には立ち入れないところ。あの人は部屋では洗濯させてくれない。おばちゃんが洗濯するから。だからあの女は女房面してあぐらをかいている。ウィニーがタクシーに乗り込んできた。「助かったよ、ありがとう。」ウィニーはラブリーが家まで来たことを怒りもせずに、お礼を言った。「なんで、あなたの部屋だけ、ドアが違うの?」不思議なことに、ウィニーの部屋だけ、違うドアがついていたのだ。「引っ越して来た時から違ってたんだよ。目立っていいだろ?」「元ヨメがぶっ壊したんじゃないの?」「あいつはこの部屋、知らないもん。」「大学、間に合う?」「あぁ、間に合うよ。ありがとう。」ラブリーの方を見て微笑んだ。「ちゃんと、資料、持って来た?」「ぬかりなく。」「よかった。あとは電車で寝過ごさないようにね。」ウィニーを京成線の駅で降ろし、ラブリーは最初にタクシーに乗り込んだ駅へ戻った。駅からウィニーの部屋へ、そして京成線の駅を経由して戻って来るのに1,700円だった。電話で起きなければ1,700円かかるってことか。このくらいならいつでも起こしに来れる。おばちゃんの部屋がわかったことは、ウィニーには言わなかった。おばちゃんの知らないうちに、私はウィニーの部屋の前まで行った。堂々と。ざまあみろ!!あそこはもう、あんただけの聖域じゃない![つづく]