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カテゴリ:男と女の世迷い言(創作)
☆☆ これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡み合い。ドロドロしたお話しです。☆☆
「ラブリ、花嫁さんがいるよ。」 「ウィニ、花婿さんもいるわよ。なんでみんな、新郎新婦がいると、花嫁さんのことばかり言うのかしら。」 「俺とラブリが一緒にいても、みんなもちあげるのはラブリのことばかりじゃん。当然だよ、レディは女性であるだけで『華』なんだから。」 私をもちあげた人なんか、いたっけ? みんな、私をいき遅れの女性芸人のように面白おかしくからかって笑ってるだけなのに。 私だって傷つくんだってこと、わかってない人達ばかりじゃん。 「女性はそれだけで『華』」なんて言葉、私の前で使わないでほしいな。 「観光ガイドの撮影じゃないの?きっとモデルさんよ。」 「そうかなあ。それにしたらスタッフが足りないんじゃない?」 「観光ガイドでないなら、結婚式場のパンフ?実際の花嫁さんがみんな美人とは限らないでしょ。」 「ラブリ、少し休む?」 理由はわからないが、ラブリが少しご機嫌斜めであることにやっと気づいて、ウィニーが言った。 「ううん、時間がもったいないわ。夕方にはもうこっちを出なきゃならないんでしょ?休むのはお昼になってからにしましょうよ。」 川添に倉敷の街を楽しみながら、ラブリーは片っ端からお土産屋を覗いて廻った。 女性は、どこにでもあるような店だろうが、とにかく立ち寄り、買いもしなくても見て回るのが好きだ。 ラブリーも然り。 二つ三つ手に取りあれこれ見比べお買い上げかと思いきや、全部棚に戻す。 やれやれ。 だが、目をキラキラさせながら「あれもカワイイ、これもカワイイ」とはしゃいでいるラブリーをみていると癒される。 お尻がプリプリしてるのはいいが、気持ちがプリプリしてるのは御免だ。 「ねえ、右手を上げている猫と左手の猫って、違うの?」 「どっちかが金運で、どっちかが人寄せだったかと…」 カウンターごしに二人のやり取りを聞いていた店員が、まったりとした口調で教えてくれた。 「右手をあげている猫が金運で、左手が人を招くんですわ。両手をあげたものもありますが、欲張り過ぎやと言う人もおりますわ。」 「両手をあげてたら、お手上げ状態ってわけね。じゃ、右手と左手と2匹ずつちょうだい。」 備前焼きの小さな招き猫を4コ、お買い上げ。 倉敷の美観地区を2周目で… 「ねえ、行ったり来たりだけじゃなくて、あの橋、渡りたい。」 ラブリーは美観地区の真ん中にある橋を指して言った。 「さっき、花嫁さんが写真撮ってた橋だね?」 「花婿さんもいたわよ。」 …いけね… 橋を渡って、またお土産屋さん。 数軒先に蕎麦屋があった。 「ウィニ、お腹すいた?」 「うーむ、腹はそこそこだけど、蕎麦屋なら地酒もあるんじゃないかと…」 「しょーがないなあ、じゃおそばにしようか、今日のランチ。」 地酒を期待して蕎麦屋に入ったが、地酒はなかった。 ビールもビンビールしかなかった。 「どこか、行きたい店、あった?」 「昨日のレストラン。」 「あそこでランチでもよかったね。あそこのコーヒーは美味しい。」 「後でコーヒー飲みに行こう?」 「そうだね。」 ウィニーは、卵焼きとカツ煮を肴にビールで喉を潤した。 ラブリーはコーラで。 そろそろ食事に移ろうかとメニューを見る。 内容は東京の蕎麦屋と変わらなかった。 「特別に倉敷のおソバみたいなの、ないわね。天ザルにする。」 「俺は辛味ソバ。」 「辛味ソバって言えばさあ、おばちゃん、あなたと付き合って初めて辛味ソバを食べたんだって?」 「え?そう?」 「うん。あの人のブログに書いてあった。知らなかったって。」 「あぁ、その日記は読んだ記憶がないけど、そういえば、食べた時にそんなことを言ってたような気がする。」 「50過ぎるまで、何を召し上がってたのかしら?」 「だね。蕎麦屋に行ったことがないわけでもないのに。うん、ここの辛味大根、ちょうどいい辛さだよ。食べてごらん。」 ラブリーはウィニーの辛味ソバを一口食べてみた。 「あら、辛いというより爽やかな感じね。辛さの後味がすっきりしてるわ。」 「うまいね。あの人は口コミにいろんな書き込みをしてるけど、もともとグルメじゃないんだよ。高級感があって雰囲気がよけりゃ、それでいいんだ。」 「じゃあ、高級なところばかり行ったの?」 「いいや、そんなとこ、連れていく必要もなかったし。ラブリはあの人のブログしか読んだことないだろ?ニックネームで検索して、いろんな書き込みを読んでごらん。全然グルメじゃないから。」 「でも書き込みするなら食べに行かなきゃならないわよね?いろんなもの、食べ慣れてるんじゃないの?」 「ハハハハハ…」 ウィニーの笑いが止まらない。 「俺んちのさぁ、ハハ…家の近くの普通の焼鳥屋に行ったことがあるんだけど、ハハ…」 「洒落たとこ?」 「全然洒落てない。だって街道より向こうだよ。洒落た店があるわきゃない。」 「街道の手前なら、洒落てて美味しいお店がいっぱいあるのに。」 「駅寄りに連れて来たら、知り合いに見られるだろ。いやだね。それに街道より駅側は高い。たかが焼鳥屋でも、一万じゃ足りなくなる。」 「ふーん。それで?」 「どうってことない店なのに、感激して、口コミしてた。」 「その店、美味しいんでしょ?」 「味は並だな。」 「店も洒落てない?」 「デート向きじゃあない。」 「なんて書いてあったの?」 「検索してみなさいよ。俺は忘れちゃった。なんだこりゃ、と思ったのは覚えてる。」 ラブリーはバッグからスマホを出した。 Safariにおばちゃんのニックネームを打ち込む。 たくさん出てきた。 「その、グルメのとこ。」 「あぁ、ここ?2008年?ずいぶん前ね。」 たいしたことは書いてなかった。 「何と言ってもおいしい」の繰り返し。 要は書くべきことがなかったのだろう。 「なんでこの程度のこと、わざわざ口コミしたのかしら?」 「俺の前でいい子ぶりたかったんだろ。」 それまで可笑しそうに笑っていたウィニーが、不機嫌な顔になって言った。 これ以上、この人の話題はしないほうがいい。 「書いてあるのを読めば、確かにこの人、グルメじゃないわね。他にも素敵なレストランとか行ってるけど、的確なことは書かれていない。」 「できないことは手を出さなきゃいいのに、自分は健在だってことを、世に知らしめたいのさ。だから、いまだに同じニックネームで書き込みしてるんだよ。」 「さ、もう行こう。夕方までしか時間ないのよ。倉敷のお散歩よ。」 [つづく] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年08月30日 00時12分47秒
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