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「うわぁ・・・きれい・・・」
あまねはうっとりと辺りを見回す。さっきまでのもやもやした胸の内がさ~っと晴れてくる。 すると美しい笛の音が聞こえてきた。振り向くと紫藤が吹いている。 笛の音はうっとりするほど綺麗で、幻想的だ。 まるで幻想の世界にいるような錯覚をしてしまいそうになる。 さぁ~っとかぜが吹くと、花びらが舞い、月見草の草原の中心に何かが見えてくる。 男の人だ。 半透明で今にも消え入りそうだ。 上を向き悲しそうな表情・・・誰かを待っているような・・・ それを見るとなぜか涙があふれてくる。 いつの間にかあまねの身体に重なって女の人の体がある。 この涙と感情はこの女性のものだ。 あまねの意識はあり、その女の人の意識も同時に自分の中にある。 不思議な感覚。 月見草の中心にいる男の人のもとへそっと近寄っていく。 その間も紫藤は笛を吹いている。 その男の人はあまねのほうに気がつき、優しい笑顔を向けると近づいてきて抱きしめる。 男の人にふれると感情と光景が流れ込んでくる。 ずーっと待っていたのだ。このひとはここで・・・ 二人は恋に落ち、幸せな時を送っていた。 結婚をしようとしたが、身分が違うがために反対され、男は別の人との縁談を進められた。 家を捨て、添い遂げようと女の人と約束をした場所はここだった。約束の時間に遅れてしまい、女の人が勘違いをして自ら命を絶った後、それを嘆いて二人の愛し合った思い出のあるこの地で・・・後を追った・・・ あまねは気がつくと歌っていた。 ふたりのために。ようやく結ばれた魂たちのために。とんとんと、つま先で大地をたたく。 大地からの光りが、あまねに届く。自分を光りで満たし、自分の中を通して二つの魂を祝福するがごとく、波紋を広げるがごとくあたりに伝えてゆく。 紫藤はその光景を見て驚き、目を細めるが、笛を吹くのはやめなかった。 二人は光になり、絡み合うように漂っていたが、やがてひとつとなり、その光りはキラキラと上空へ登っていく。 それはそれは美しい光景。 光がすべて消え、紫藤の笛の音も終わりを迎える。あまねは力を出し切りほっとしたのか、足の力が抜けその場に座り込む。 「あまねさん!」 紫藤が近寄りあまねの身体を支える。 「あは・・・ごめんなさい・・・力が抜けちゃった・・・」 「それにしてもすごく綺麗な笛の音。紫藤さん・・・紫藤さんもなくなった人たちを光りに帰すお仕事をされているんですね・・・」 「なんのことでしょう?・・・」 紫藤は少し微笑んで、あまねを草の上に座らせ、肩の上に付いた月見草の花びらを払う。 「はぐらかさなくても・・・私が自分でやると言ったからここへつれてきてくれたんでしょ?笛で場を作ってくれた。そんなこと普通の人はできないもの」 あまねは紫藤のさりげない心遣いや、笛の音が場を作ったり光を降ろしやすくしているのも気が付いた。 「神社の裏であなたに助けてもらったとき・・・あそこに女の人がいた。私は別のことを考えていたから気がつかなかった・・・紫藤さんわかってらしたのね。どうやったらその女のひとが完全に昇華できるかも」 「私を買いかぶりすぎですよ・・・あなたを慰めようと花の咲く綺麗な場所へご案内しただけで・・・」 「・・・・そういうことにしておいてあげる」 にこっと笑顔を紫藤に向ける。あまねは泣いて感情を出し切ったことと、月見草の幻想的な風景とで少し元気を取り戻してきた。 「ありがとう・・・ほんとに綺麗・・・このまま・・・ここにいたい・・・」 これから神社に帰るのかと思うと気が重かった。 心の底に封印してきた思いを龍宮にぶつけてしまった。 家族のような思い・・・それがいつの頃からか少しづつ変わって行った。 龍神なので恋愛という感情などないだろうし、いつも子ども扱いで、自分の感情が愛なのか自分でもわからなかったから心の奥底に閉じ込めてきたのだ。 でも今日すべてを吐き出してみて自分の思いがわかってしまった。 それと同時に、あの水鏡に映った女のひとにはかなわないことも悟ってしまった。 これ以上心が傷つかないように思いを断ち切らなければ立って歩くこともできそうにない。 「いつでもご案内しますよ。今度一緒に笛でも吹きませんか?」 「私の笛なんか下手すぎて紫藤さんに聞かせられませんよ。その代わり・・・その笛の音で舞わせていただけますか?」 「もちろん」 お互い顔を見合わせてにっこりと微笑む。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.06.25 01:36:33
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