カテゴリ:水のメモ
■31兆円の地方公務員人件費には無駄がある!
地方公務員の総人件費は2009年度で31兆円であった。 私が以前、地方公務員の人件費問題について調べていた頃、驚いたことが3つある。 1つは、高卒公務員の生涯賃金は4大卒(どころか6大卒・院卒)の生涯賃金より高いこと。 もう1つは、できない人ほど得をする「無能天国」というべき実態があるということだ。 どちらも、民間企業の感覚ではとても考えられず、とても驚いた。 そして、まるで社会主義の失敗部分だけを集約したような「悪平等」システムだ。 国民が公務員のあり方に関心をもつことは大切だと思う。 しかし、それが単なる公務員妬み、公務員バッシングに終わっていないだろうか? 今回は上記3点を中心に公務員人事システムの異常さを私なりに考えたい。 ■なぜ高卒公務員は院卒公務員より生涯賃金が高いのか? 公務員の職員比率は大卒:専門卒:高卒=5:1:1の比である。 大卒の中でも、特に院卒(6卒)は稀少な存在だろう。 院卒・6卒の公務員を採用するのは、高度な専門性を必要とする業務があるからだ。 たとえば、医師、歯科医師、獣医師だったり、法律の資格者などである。 彼らは専門業務にとどまることなく、事務処理能力も身につけて、ジェネラリストとして将来は課長、部長など指揮官になる。 たとえば医師なら市立病院長、保健所長。 獣医師なら動物センター長、農林部長。 法律職なら総務部長、法務部長、税務署長などになるだろう。 一方、高卒公務員で課長になる人はあまり多くなく、ほとんど係長どまりか万年主任も少なくない。 しかし、この2者の生涯賃金は、一般的にいって高卒>院卒であるという。 勤続年数が違うとはいえ、係長ましてや主任で終わった人の方が、課長で終わった人より生涯賃金が高いというのは、まず民間では考えにくい。 民間企業では、主任(ヒラ)と課長では天地ほどの職責の差があるからだ。 どうやら、これは公務員独特の「悪平等」の賃金体系に原因があるらしい。 ■高卒公務員と大卒(院卒)公務員の生涯賃金 過去の記事でも指摘したが、高卒の24歳と院卒(医師・歯科医師除く)の24歳はほぼ同じ給料で、さらに昇格しても給料がほとんど変わらない。 そうすると、勤続年数が長い分、高卒公務員が生涯賃金で有利になる。 ごく簡単なモデルで説明しよう。(参考:「平成20年地方公務員給与の実態」) ・高さん(高卒・無資格) 18~60歳の42年勤務。この間の平均年収は500万円。 高さんの生涯賃金:500万円×42年=2億1000万円 ・院さん(院卒・法律資格者) 24~60歳の36年勤務。この間の平均年収は550万円。 院さんの生涯賃金:550万円×36年=1億9800万円 院さんの方が生涯賃金が少ない。 高さんと院さんの平均年収に、ほとんど差がないことが重要なポイントだ。 これは一般的な民間企業では考えられない。 なぜ公務員では、高卒と院卒の給料に差がないのだろうか? ■地公の部長級とヒラの月給差はたった8万円!?そのカラクリとは・・・ 「平成20年地方公務員給与の実態」の中に興味深いデータがある。 大卒の部長級(勤続35年以上,50代後半)の平均月収は489,380円 高卒のその他職員=要するにヒラ(勤続35年以上,50代後半)の平均月収は409,810円 なんと、部長とヒラがたった8万円しか差がない!? というか、50代ヒラが41万円ももらっているのか!? これに対して 民間では大卒の部長級(57.2歳)の平均月収は654,200円 高卒の非役職(57.5歳)の平均月収は306,900円である。 ※平成20年賃金構造基本統計調査より 民間では同じ歳でも部長とヒラでは倍以上の差がある。 どう考えても、これが正常だろう。 しかし、「平成20年地方公務員給与の実態」から換算すると 30歳の高卒公務員の月給は約22万円⇔民間高卒は23万円 30歳の大卒公務員の月給は約23万円⇔民間大卒は28万円 40歳の高卒公務員の月給は約35万円⇔民間高卒は27万円 40歳の大卒公務員の月給は約38万円⇔民間大卒は41万円 50歳の高卒公務員の月給は約38万円⇔民間高卒は28万円 50歳の大卒公務員の月給は約41万円⇔民間大卒は46万円 グラフからも明らかなように、民間と比べ地公は、明らかに高卒が貰いすぎている。 一方、大卒の比較では全世代を通じて民間のほうが5万円ほど高く、まず妥当だろう。 普通、民間の感覚なら「昇格してるのならば月給5~10万円ぐらい差があるのでは?」とも考えるだろう。 だが、ここに公務員の「万年主任」のうま味がある。 それはヒラや主任は「残業代がつく」ということだ。 たとえば主任が一日1~2時間(月2-30時間)残業するだけで5万円前後になる。 さらに、課長などの役付の基本給と管理職手当が民間より安い(課長クラスで3~5万)。 そして管理職になったら残業代はつかない。 この残業代が付くか付かないかというトリックで、万年主任と課長の手取りに差がつかないのだ。 要するに「公務員は仕事の大変さと給料がリンクしていない」という結論になる。 ■「何もしない」「無能」が公務員では一番得をする いうまでもなく、公務員は非営利・中立が原則である。 積極的に経済利益を取りにいく機会が少ないということでもある。 公務員にとっての利益とは「公益」に他ならない。 つまり、地域や市民の利益を確保するということだ。 ところが、これが実践するとなると、なかなか難しいようだ。 例えば、消費生活センターのようにクレームや相談の電話を受け付ける課があったとしよう。 ここで、成功する方法は民間のように「クレーム対応技術」でも「専門知識」でもない。 役所で成功したいなら「電話を取らない」ことだ。 なぜなら、電話を取れば、怒りに狂った市民に対応しなければならない。 役所のいうことが正しくても、絶対納得しないモンスター市民もいる。 そうするとトラブルになるし、あること無いこと人事課に通報されるかもしれない。 かくして、電話を取った彼はマイナスの評価になる。 ところが、電話を取らない人、簡単な電話しか対応せず、難しいことは他人に回すということを続ける人はもめ事も少ない。 すなわち、マイナス評価はつかない。 かくして「何もしなかった人、無能で何もできなかった人」が一番持ち点が残るのである。 無能の烙印を押され、ヒラのままでも、結構な給料が減ることはないのだから、彼にとって問題はない。 気の毒なのは真面目に仕事をしてきた人だ。 真面目にやってストレスをため、ミスをして叱られ、それでも得るものは皆無に等しい。 さらに悪いことに、マイナスが少ないため、無能の人が昇格してしまうこともある。 他の職員は無能な上司が上に付いたら、さらに多くの負担を強いられる。 例えば無能な人間が課長になったら、その役割を係長や主任が代わりに負わなければならない。 まじめにやった結果が、出世が遅れ、出世しても給料は上がらず、役職以上の負担を強いられる。 これでは踏んだり蹴ったりだろう。 こういった事態は、公務員の徹底した減点評価法による弊害であることは疑いない。 だから公務員の多くが「事なかれ主義」「何もしないのがよいい仕事」になるのだと思う。 まさにお役所は「無能天国」なのである。 ■「無能天国」お役所にメスを入れ、10兆円の血税を取り戻せ! 私は役所になんでもかんでも「民間の感覚」を持ち込むべきだとは思わない。 民間の感覚が、巷で言われているほど優れているとも思わない。 民間のシステムはなるほど効率的かもしれないが、あくまで営利優先であるからだ。 これは時として「公益」と反することがある。 しかし、高卒ヒラが院卒部長より有利だったり、何もしない人が得をする「無能天国」の地方公務員はあまりに異常だ。 これを効率的にするだけで、かなりの税金を節約できるだろう。 とにかく、なにをさておいても「悪平等の徹底排除」が至上課題だ。 無能、無気力、軽い責任、単純労務に対しては低い評価と対価で十分。 逆に真に有能な人たちを活用するため、公益主義者で、責任感があり、専門技能・知識がある人には正当に評価と対価を与えるべきだろう。 もちろん、1年や2年で急に公務員人件費31兆円を減らすのは不可能だろう。 いまは、単純労務職(現業職)が構成する自治労が与党・民主党の支持団体だからなおさらだ。 しかし、日本の財源には限りがある。 子供の数も減って、将来的にはGDP、ひいては税収の減少も避けられない。 だから、来年とは言わないが、10年後には25兆円、20年後には20兆円というように段階的に公務員人件費を削減してゆけたらいい。 地公システムの改善で、無駄に支払われている10兆円の血税を取り戻し、もっと大切なことに使わなければならない。 一方で、高齢化社会、地域共同体(助け合い社会)の崩壊の時代を迎えて、役所はさらに効率的な組織にならなくてはならない。 人件費と組織効率化、これを同時にかなえるには、国民が賢明である必要があるだろう。 だから 「不当に高い給与を貰っているのは誰か?」 「なぜ、公務員は事なかれ主義なのか?」 「システムの問題点はどこにあるのか?」 「市民のためになる人を埋もれさせていないか?」 こういったことを深く考えずして 「オレたちの税金で給料をもらっているくせに!」 とか 「公務員の仕事なんてバカでもできる!」 などといった単細胞批判を繰り返しても全然生産的でない。 むしろ議論を混乱させ、時間稼ぎの余裕を与え、自治労など公務員組合への利敵行為になるだけろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[水のメモ] カテゴリの最新記事
|