◯1 ビルの七階
赤坂にあるホテルの全景が輝き始めた夕方。ラウンジでは賑やかな人々あふれている。 バーでは静かに酒を交わす人々。入ってきてカウンターに座る菊池和彦。キョロキョロあたりを見まわしたが知り合いは誰もいない。立ち上がると注いだ生ビールのグラスをおぼんにのせて近づいて来た小平真一。 菊池の前にグラスを置く。「おいおい」「今日もビールじゃないんですか?」「これから知ってる奴のところへ君を連れて行くんだぞ」「最後の仕事になるかもしれません。先生にお出ししたくて」「恋人みたいだな」 ため息まじりに「こんないい恋人は他にいないよ」「ありがとうございます」 おいしそうにビールを飲みだす菊池。近づいて来た南順平。「菊池先生。いらっしゃいませ」 お辞儀しながら「いよいよ。今日なんです」「君には恋人よりオヤジがいるな」「ハイ オヤジの 小平さんのおかげで」「それより順平ここでウロウロしないで早く準備しなさい」「ああ 新しい店の話か」「知らないお客さまが早くいらしたりすると 早く帰りなさい」 お辞儀しながら慌てて離れていく南。南の後ろ姿を見送りながら「君に来てほしいんだな。新しい店。帰りに寄って欲しいんだろ」「······」「入院。延ばすか」「いいんです」「あいつにとってはオヤジだからな」「着替えてきます」 と離れていく。グラスにまだたくさんあったビールを見つめている菊池。 夕方赤坂のホテルの正面から慌てて出て来た南順平。 赤坂見附駅入口の傍らにタクシー乗り場。通り過ぎた南。タクシーを待っていた若い二人。米原紗喜と紗喜を抱き寄せている神崎昌也。コートを羽織っている。南は二人のそばを通り過ぎて振り向いて口笛で「ヒューヒュー」と叫ぶ。離れていく南と二人。 雑居ビルが並んでいる赤坂の道。その中の小さなビルの前でタバコを吸っている桐生亨。彼に近づいた南。「よろしければ一杯いかがですか? 実は今日が開店なんです。七階は遠いでしょうか?」「君が七階の? 今上まで行ってきた。しまってたけど前と同じセブンか」「昔はオヤジが」「オヤシ?」「本当の父ではないんですが」「あぁ そうか」タバコの吸い殻を落として踏む。「また今度にする」 と去っていく。見送る南。◯1 ビルの七階