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テーマ:醍醐山を愛する会(22)
カテゴリ:醍醐山を愛する会
(九)
若者が去ってから娘は、親にも大子の里人にも無口になった。娘の弧の思いがけぬ変わりぶりはほかでもなく、ひとえに若者への娘の限りない思慕と失望からであることを、長者夫婦は知っていた。 若者を忘れ得ないのは、夫婦とて同じ事だった。長者は、あの夜夢うつつに聞いた若者の言葉と、いとまごいに残した和歌とのつながりを一別以来考え続けていた。 若者が去って一月あまり、娘の無口は一段と深まり、めったに笑顔を見せぬようになり、またも何かの病にでもあるかのような血色のない顔色となった。 そのころようやく長者は、若者が残した和歌の意味を解き得たと思った。そして、あの若者は東雲の滝に棲む龍の化身だったという確信を持った。長者はそのことを誰にも語らなかったが、今の娘を再び救ってくれるのは、滝の龍神だけなのだと心に決めた。 そう思い定めた長者は、まだ一度も行ってみたことのない、美しい滝だと聞く東雲の滝の見物へと、妻と娘を誘った。 展望台からの冬景色:左から篠井山1394m・青笹山1558m・下十枚山1732m・十枚山1726m・大光山1661m・大笹ノ頭1672m・ワサビ沢の頭・バラの段1648m・安倍峠1488m・身延山1153m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.02.19 06:00:09
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