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カテゴリ:竹之上 次男
今年で11回目を迎えた『兵庫ダービー』は、好天に恵まれた姫路競馬場(2000m)で行われ、田中学騎手が騎乗した3番人気のハイパーフォルテ(牡3・平松厩舎)が3馬身差で快勝しました。
2着には8番人気のフウリンカザン(牡3・中塚厩舎)が直線で素晴らしい追い込みを見せて波乱を演出。 断然の1番人気(1.2倍)に支持されたフィオーレハーバー(牡3・平松厩舎)は、残念ながら3着に敗れ、二冠達成はなりませんでした。 スタートは、どの馬も出遅れることなく綺麗な飛び出し。 腰痛で戦線離脱の木村騎手から手綱を託された板野騎手も、フィオーレハーバーに好スタートを切らせます。 スピード上位のタガノパンデミック、オキナワノペガサスが併せ馬のかたちでペースを上げて行きます。 それを見ながら離れた3番手に位置したフィオーレハーバー。 折り合いもついていましたし、位置取りとしては申し分ないところでした。 ハイパーフォルテはその直後につけて、フィオーレをマークする様相。 レースは向正面からスタートして、馬場を一周。再び向正面に入ります。 ここで田中騎手のハイパーと、2番人気のホワイトランナーに騎乗した川原騎手が動き始めます。 「きょうは(末脚をなくして)差されてもいいぐらいの強気で行きました」 その言葉通り、田中騎手は積極果敢なレースぶりで前との差を詰めて行きます。 それに呼応するようにフィオーレも動き、先行2頭を飲み込んで行きます。 人気どころが前に並んで、いよいよ直線勝負! 満を持して抜け出しを計ったフィオーレハーバーでしたが、いつものような反応が見られません。 それを外からハイパーフォルテが並んで抜け出し、さらに突き放していきます。 2番手争いは熾烈を極め、フィオーレの外からホワイトランナー、内ではタガノパンデミックが渋太く粘り、タガノバロットも迫って来ます。 ところが、後ろから2頭目の位置取りでじっくり脚をためていたフウリンカザン(大山騎手)の末脚が爆発します。 大外から一気の伸び脚で、2着争いに決着をつけます。 それらを尻目に、ハイパーフォルテは3馬身差をつけて快勝し、重賞レース5度目の挑戦にして、悲願のタイトル奪取に成功します。 しかも、それが世代の頂点を決める『兵庫ダービー』であるという、なんとも劇的な結末となりました。 「この馬には、いつも他の馬のお尻ばっかり見せてたんで、きょうは気持ちいい世界が見えたと思います」 “ダービージョッキー”になるには、“慣れ”も武器になる! という意味合いのことを、先週の下原騎手のところで書かせてもらいました。 田中騎手は、過去にダービーを2度制していて、やっぱり“慣れ”も必要だったんですね。 「いや、ぼくは運だけです」 そう謙遜する田中騎手ですが、初めてのダービーは緊張で眠れなかったそうです。 だから、今回のダービーの味はまた、ひと味もふた味も違うのではないでしょうか。 「今回は1番人気じゃなかったですし、挑戦者っていう立場が続いてましたので、気楽に乗れたのが良かったんじゃないですか」 うむ、やっぱり“慣れ”がそういう気持ちにさせてるんだなと、納得です。 ![]() 一方、3着に敗れたフィオーレハーバーですが、板野騎手は何ら責められることはない騎乗ぶりでした。 いつもなら、並ばれてからもうひと伸びするのがこの馬の特徴。 それが発揮できないぐらい、この日のハイパーフォルテは強かったということです。 ダービーで大本命に推される馬に1週間前に騎乗依頼を受けるという、とてつもないプレッシャーに押し潰されそうになりながら、よく頑張ったと褒められるものだったと思います。 そして、2着に食い込んだフウリンカザンの大山騎手は、重賞レースで人気薄の馬に騎乗して、ちょいちょいこんなことをやってのけるのですよ。 姫路開催になって、勝ち鞍が思うように伸びず、2着ばかりが増えていました。 レース前に大山騎手は自嘲気味に、 「ぼくの2着流しですよ」と笑っていましたが、まさか本当に2着になるとは…。 フウリンカザンという馬は、安定味があり堅実なタイプ。 それでも3歳になってからは、重賞では大きく敗れるようになり、成長度に疑問符がつけられていました。 そんな状況で、初騎乗した大山騎手の大胆なレースぶりが功を奏したわけです。 これが彼の魅力ですね。 これからも、大きいレースで穴馬に騎乗するときは、要チェックですよ。 9月からの南関参戦でも、どうぞご期待ください! 〓Weeklyトピックス〓 ★ダービーがハイペースになった理由 この日の馬場は、先週と比べると軽くなっていて、前残りの競馬が多く見られました。 実は、このことが『兵庫ダービー』でのハイペースの流れをつくることとなります。 レース前に平松調教師と話す機会がありました。 「きょうは前残りが多いやろ、せやから(田中)学が前に行ってもいいですかって言うてきよってん」 差し馬タイプのハイパーフォルテですが、あまりゆっくり構えていると、前をつかまえ切れないレースになると、田中騎手は不安を抱いたようです。 それは『兵庫ダービー』の直前に行われた10Rで、さらに現実味を帯びてきます。 逃げを打ったのはスペラーレ。騎乗していたのは、田中騎手でした。 馬場を確かめるような逃げ。 絶妙なペース配分で、他馬を引きつけておきながら、最後は3馬身突き放して快勝します。 これで田中騎手は、馬場の軽さ、前に行く有利さに確信を持ちます。 そして、それを追って及ばなかった騎手たちも、同じように感じたことでしょう。 このレースで2番手のまま2着に粘った永島騎手は、ダービーでも先行馬オキナワノペガサスに騎乗して、逃げ馬をピッタリマークして2番手につけます。 逃げを主張するタガノパンデミックに楽をさせたくないという思いがはたらいたとも考えられます。 その10Rで、1番人気のキヨミラクルで前の各馬をつかまえ切れなかった有馬騎手も、積極策に打って出ます。 他に板野、下原、坂本、大山騎手も、10Rで感じた馬場の状況とペースを意識していたに違いありません。 あまりゆっくり構えていられないなと、思ったことでしょう。 否っ、大山騎手だけ、末脚をためにためますが…。 あれ?ちょっと待って! 田中騎手は逃げてないやん! 「行こうと思ったんですけど、みんなが速かったですね(照)」 他の馬に前に行かせて、最後は美味しいところを持っていく競馬ですやん。 結局、田中騎手に他の騎手が翻弄されてしまったのでした。 とまぁ、ぼくの想像がほとんどなので、今度それぞれの騎手に取材をして、確認をとってみます。 ★ダービー馬誕生の、陰の立役者! 「潤一に任せるようになってから、馬がものすごく落ち着くようになったんや」 ダービーの装鞍時に、平松調教師に聞いた言葉です。 ハイパーフォルテに落ち着きが出た理由は、平岩潤一騎手の貢献度が大であるということなのです。 平岩騎手は、ダービー馬のハイパーフォルテも2歳王者のフィオーレハーバーも、元々主戦騎手を務めていたのです。 師匠の平松師も、 「潤一に大きいところを獲らせてやりたい。どちらに乗るかも決めさせたい」 と主戦継続の気持ちではあったのですが、残念ながらどちらにもダービーでは騎乗することは叶いませんでした。 そんな競馬界の厳しさを感じながら、平岩騎手は黙々と厩舎の仕事に打ち込みます。 ダービーを勝利した馬上から、田中騎手が駆け寄ったオーナーに、 「潤一と一緒に獲れました!」 と何より最初にそう言ったことで、すごく救われたような気がしました。 平岩騎手の頑張りが実を結んだ瞬間でした。 次は、大きいところでの勝利を、馬上で味わってもらいましょう。 7月1日(木)園田競馬場では、重賞レースの『園田フレンドリーカップ』が行われます。 ピースプロテクター(セ7・平松厩舎)で臨む平岩騎手。 彼を囲む輪は、きっと大きいことでしょう。 そんな想像をしています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年06月05日 22時39分29秒
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