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カテゴリ:坂田 博昭
初めてばんえい記念を見るために、帯広競馬場に出かけてまいりました。 圧倒的に賑わう場内。 集まったお客さん方の声に耳を傾けると、特に子供連れや少々年配の(失礼!)女性中心に、明らかに現地の方と思われるところから、 「馬が大きい」「かわいい」 「坂を登るところが凄い」 といった、ばんえい競馬観戦初心者と思われる発言が、そこかしこで聞かれました。 年に一度の大きな「お祭り」のようなものだと聞いていたので、地元の方はいつもそれなりに集まるものだと思っていたのですが、意外とそういうものでもないみたい。 前向きに考えれば、それだけ今回「いいお客さんの集まり方」をしていたのかも知れませんし、今後に向けてまだまだ「余地がある」と見ることも出来るのかも知れません。
初めてじかに見たばんえい記念。一言で言えば、「世の中にこんなものがあったのか…」という、とてつもない衝撃を受けた経験でした。 レース直前、発走を待ちわびるお客さん。
1~2障害の中間。1トンのそりを引き、他馬との間合い、自らの呼吸を測りながら、慎重に「刻み」つつ歩を進めるこの部分は、ばんえい記念では言わば「静」の部分。このあとに続く試練ステージとは対照的な、文字通りのプロローグの役割を果たします。 勝負所の第2障害からは、ばんえい競馬が元来持つ激しさの極み。 この辺りまで来ると、観衆のテンションも最高潮となります。至る所から上がる声援。その中にいると更に一層見ている私たちの血流も、奔流となっていきます。 実は、今改めてこうして思い出そうとしても、この辺のことがよく思い出せません。ただ馬を追いながら、こうしてカメラのシャッターを押しながら、馬と一緒にゴールを目指していたのかも知れません。何かを叫んでいたような気もしますが、何を叫んでいたのか今となっては全くわかりません。 ゴール前は一騎打ち。第2障害を先頭で降りたニシキダイジン(4番)は、大きく息を入れることなく、ジリジリと着実に歩を進めていきます。一方、僅かに遅れて坂を下ったカネサブラック(9番)は、サッと進んでは息を入れ、また進むという繰り返し。現実に先頭は一歩ごとに入れ替わりましたし、見ていてどちらが戦いをリードしているのか全くわからぬ、これ以上ない激闘となりました。 ゴール直前で止まり、息を入れるカネサブラック。ニシキダイジンは少しずつ歩を進めるものの交わしきってゴールに飛び込むには至らず、松田道明ジョッキーが意を決したように最後の力を振り絞るようカネサブラックを激しく促すと、ソリは吸い込まれるようにゴールラインの向こう側へと入っていきました。 長く続いた戦いが、結末を迎えた瞬間。 重さ1トンのソリ。この重さこそが、ばんえい記念というタイトル自体の「重さ」です。 最後の馬がゴールする時に、場内に渦巻いた拍手の音を、私は生涯忘れることはないでしょう。
勝利ジョッキーインタビューで松田ジョッキーは、「最後に一言」を求められ、「他の馬たちも負けてしまったわけだけど、一生懸命頑張った。それをわかって欲しい」という趣旨のことを話しました。 それは恐らく、このレースで敗れた他の9頭だけではなく、1年間このばんえい競馬で戦ってきた全ての馬たちと、全ての人々に対する感謝と敬意の言葉だったのだと思います。勝者のみが語ることが出来るその言葉は、ばんえいのソリの1トン以上の重さを以て、私たちに伝わってきました。 本当ならば、日曜日は仕事で東京にいなければいけないところ。ばんえい記念を見ることは「老後の楽しみ」と思っておりましたが、思わぬ形でこうしてレースの現場に居合わせることが出来ました。 一体何がそんな風に引き合わせてくれたのか。何がこんな感動を味わわせてくれたのか。とても不思議な気持ちがしています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年03月29日 01時16分20秒
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