12国記新作「落照の獄」
「yom yom vol.10号」大好きな作家、小野不由美さんの12国記シリーズ番外編「落照の獄」が yomyom vol.10 に掲載されました。大学1年生の時に出会い、早〇年・・・・・。最近は番外編の発表が多く、本編の発刊が待たれるところですが、それでも12国記の世界に触れることができるのは、ファンとしては大きな喜びです。この新作については「やはり本編が見たい」という声も大きいようですが、個人的に今回の新作はとっても面白かったと思います。前作の「丕緒の鳥」よりもあたしは好きだな~。どちらもいち官吏の視点から描かれたものであって、王も麒麟も出てこない。お馴染みのメインキャストの面々がチラとも出てこないけれど、逆に言えば、それだけ12国記にはリアリティー感ある厚い世界観を描き出すことができる稀有の作品じゃないかなと。ところで、何であたしはこんなに「12国記」が好きなんだろう?古代中国風異世界ファンタジーという分類を与えられつつも、その内容は目を覆いたくなるような厳しい現実が描かれています。そこが、従来の「逃避」的な存在としてのファンタジーと一線を画していて、何の力もない主人公が、異世界に行った途端魔法を使えたり、メシアとしてちやほやされるような「お決まり」はありません。従来は、「ここではないどこか」である理想郷への逃避が、ファンタジーの役割なんでしょうね。もちろん、その「逃避」が悪いとは思わないし、その「逃避」が必要な時間が人には必要だと思う。それでも、その「逃避」した世界はどこか輪郭がぼんやりとしていて現実感がない分、読み終わった後に現実に戻ると何か寂しい気持ちに・・・・。ところが、12国記にはその「甘さ」がないのです。「甘い」と思って読み始めると、冷や水を浴びせられます。それでいて、そこには必ず「救い」があることがやはり物語的であり、読者の「救い」となっているように感じます。厳しい現実の中で倒れ、踏みつけられていく人々を描きながら、最後に示される救いによって物語は決して残酷な破綻をしない。それは恐らく、作者の精神性によるものかもしれないけれどそこはかと漂うその「青臭さ」にあたしは救われるのかもしれません。正しいことを正しいと言う文章には説教じみた恥ずかしさがあるけれども、それをやはり求める自分がいるんよね・・・。だから、あたしは何年たってもこの厳しくて青臭い12国記を待ち続けるんだろうなあ・・・