貴志祐介 『新世界より』
【内容】1000年後の日本。伝説。消える子供たち。子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。ここは汚れなき理想郷のはずだった。いつわりの共同体が隠しているものとは。何も知らずに育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。著者頂点をきわめる、3年半ぶり書下ろし長編小説<上巻>人類が手にしたのは神の力か、悪魔の力か。八丁標(はっちょうじめ)の外に出てはいけない悪鬼(あっき)と業魔(ごうま)から町を守るために、大人たちが作った忌まわしい伝説。いま伝説が、「実体」となって町に迫る。見せかけの平和がいま崩れる。新しい秩序とは、おびただしい流血でしか生まれないのか。少女は、決死の冒険に身を投じる。空前絶後のエンターテインメント、ついに佳境<下巻>図書館での予約まつこと、2ヶ月でしたが、ようやくゲット読めました。いやー、期待以上でした!1000年後の未来。文明はリセットされ機械文明も情報化社会も崩壊した日本が舞台。人口は極端に減り、日本列島には5~6万ほどの人口、いくつか集落で点在し、人々は寄り添うように暮らしていた。子ども達は、町の外には決して出てはいけないと言いつけられていた。町と外界とを隔てる八丁標(はっちょうはじめ)と呼ばれる注連縄の外には、恐ろしい化け物がいるのだと。バケネズミやミノシロモドキ、ネコダマシに風船犬。味のあるネーミングの生き物達、都市伝説、牧歌的風景があいまって、独特な世界観です。人々には“呪力”があり、誰もが使える能力です。子供たちは、思春期頃にその力に開眼します。人々にとって、”呪力”こそが自衛手段であり、最強の攻撃手段です。「和貴園」(小学校)に通う少女、渡辺早季は、同級生たちに遅ればせながら呪力を開眼します。通過儀礼を無事終え、晴れて「全人学級」に入学した早季。呪力の修行、幼馴染への恋、そして胸おどる冒険の数々。漠然と、呪力を開眼しない子どもはどうなるのか、呪力を持たない人々はどこにいるのか?という疑問が漂いますが、のちの結末へとその謎が、いくつかの伏線とともに明らかになります。やがて、こどもたちは知る。理想郷のように思えた世界に隠された真実。大昔に日本を滅ぼした災害の正体。そして、誰もが恐れる都市伝説“悪鬼”“業魔”が実在することを。「夏のキャンプ」の冒険で、どんな質問にも答えられる”移動図書館”と出会う。それまでは、子ども達の間の噂でしかなかったことが次々に明らかになり、早季たちは衝撃を受ける。これまで知らされなかった人類の本当の歴史。この世界では、大人は町の半数以上が「教育」に携わっていて、子ども達は徹底的に観察・管理されている。でも、その大人たちの涙ぐましい努力や徹底管理も、小さなほころびや、予測のつかない突然変異で、崩れ去る危険をはらんでいる。「教育」というと、魔法学校で魔法を学ぶ「ハリー・ポッター」では「アバダ・ケダブラ」(死の呪文)に、特に抑制を効かせてません。 そういう他者へ死や苦痛を与える恐ろしい術には、常人はあたりまえに抑制が働くように書かれています。ヴォルデモート卿のような邪悪な人物だけの専売特許で、常人がそんな術を扱うのは有り得ないことみたいに問題視されていません。キングの本でも常々描かれますが、なによりも恐ろしいのは人間そのものでしたね。大友克洋さんの『童夢』『AKIRA」、恩田陸さんの『常野物語』のような、日本的背景や特色のある、未来 超能力 ファンタジー。キングの『ザ・スタンド』や、マキャモンの『スワン・ソング』等の海外SF色を期待すると裏切られるでしょう。もっとずっと牧歌的でした。特に上巻は、昭和の田舎か?というような子ども時代の風景です。貴志祐介さんの新たな代表作ですね。好き嫌いは分かれているようで賛否両論、「いまいち」という評価もあるようですが、私個人には「ピカイチ」でした。貴志さんの本では「迷宮のクリムゾン」が一番好きでしたが、これからは本作が、一番の座に輝くでしょう。「硝子のハンマー」はいまひとつでしたが、本作は、とにかくエンタテインメントとして驚異のハイレベルだと思います。二日ほどで一気読み、朝寝坊して、家族に迷惑をかけてしまいました。(汗)ただいま、またも二度読みの最中です。クリムゾンの迷宮 天使の囀り 光の帝国 ~常野物語~大友克洋の記念碑的作品『アキラ』AKIRA #1~#6 童夢-大友克洋-