宿命の出会い、もしくは「まさか、またお前かよ!」事件
いよいよ花粉症の季節である。目が痒い、鼻水が止まらない。何度もティッシュを使っていると鼻の下が痛くなってくる。また昔のようにヒゲを鼻下に蓄えようかと真剣に考えたりする。しかしあれは摩耗対策にはなっても、結局ヒゲに花粉が溜まるので、逆効果にもなってしまう。とにかく日々、まことに鬱陶しい。(←漢字さえもうっとうしい)街には同病があふれ、怪しげな立体マスクをかけている姿を見ると、むしろ自分の症状を思い出してしまい、かえって苛々する。まあ、愚痴を言っていても仕方ないので、さぼっていたブログでも書くことにしよう。さて、最近は知己の噂話ばかり書いているが、自分の品性が下がっていくようで嫌になる。もう少し真面目な話題にしたいのであるが、みんなが面白がるので(内輪受けだが)、志には反するがもうしばらく悪口……もとい、噂話を続けてみよう。またまた広告代理店勤務の男の話である。「広告代理店って、変な人が多いの?」と質問される。はい、多いんです。というより、業界全体にヘンな方が多く生息しているのだ。私はそういう輩との付き合いを日々のシノギのために避けることができない。(誰だ、「類は友を呼ぶ」とか陰口をたたいているのは?)正直、朱に交わって紅くなるのが恐いと思う今日この頃である。私が欧米の純文学を耽読しているのは、自分本来の感性を一所懸命に保つためなのである。うはは。Y広のY室さん、と一応仮名にしておこう(笑)。Y室さんは関西弁である。本人は芦屋の生まれで他の関西弁とは品が違う、とのたまうが、東京生まれの私には芦屋弁も河内弁も岸和田弁も奈良弁も駅弁も十把一絡げ、すべて関西弁なのである。違いがわからない男なのだ。また、野郎が喋る関西弁を聞くと、どうしても893の香りがしてしまう。おまけにY室さん、目つきが悪い、顔が黒い、ファッションが危ない(笑)。まあ、どう甘く見積もってみてもその筋のヒトに見えてしまうのである。私はしばらく付き合って、彼にはそういう強面(こわもて)の部分は皆無で、どちらかというと軟派だとわかったのだが、最初の頃は一緒に飲み屋に入るのがイヤだった。私の行きつけの店でさえ、一瞬スタッフの空気に緊張の色が走るのを感じたのである。(まあ半分はその反応を楽しんでたけど……)口も悪い。なんだかんだといつも私や他の人を非難している。私のダンディさや、品の良さが気にくわないのか、バーなどで女の子に「こいつは浜松にウナギ女が居る」とか、どうにも意味不明の誹謗中傷をする。美しき女性を見れば、ほんとは好きなくせに、気持ちとは裏腹に批判的なことを言う。心はさびしき狩人の強がりなのである(笑)。反面、あまり美しくない女、かなり美に欠ける女には妙にやさしい。「醜女!」(←ブスと読む)などとは思っていても、逆に言えないのである。(まあ、これは一般的に男はみんなそうなのだが)以前、関西弁では女は口説けないと、大阪人に主張したことがある。「あんな茶化した言葉では女はなびかんよ」「東京の言葉はキザで気色悪いやんか」「バカヤロウ、キザだから女を口説けるんだい!」一方に、私が長く付き合っているカメラマンで仕事仲間のNさんがいる。沖縄出身で50代・独身。いつもニコニコと人当たりが良い。いわゆるスゴクいい人なのである。(つまり誰かとは正反対)唯一の欠点は、とてもとても若い女性を好むこと。若いというか、幼いというか……。しかし犯罪者ではないのでご心配なく。最近、年齢層の好みが若干上がってきたことは、好材料ではある。ある夏の夜、われわれ3人(Y室さん、Nさん、私)は仕事の打ち上げを兼ねて、Nさんの地元(湘南台)で寿司を食った。そこはNさん行きつけの店で、非常にうまいネタを安く食べさせてくれる(とくにアナゴのタレと塩の2種盛りは絶品であった)。Nさんは寿司屋の常連客から「ケンちゃん、ケンちゃん」と呼ばれ、地元でも人気がある。美味い寿司と焼酎で満腹になったところで、いよいよ深夜の部である。寿司屋のオヤジから女の子の居るスナックを紹介され、では繰り出そうということになった。女の子と聞いて、Y室さんの表情が心なしかほころんでいった。スナックは目と鼻の先にあった。店内は意外に広い。というより客がいないのでガラガラなのである。「いらっしゃ~い」と嬌声で迎えられ、その声音が少し若さに欠けたが、「まあ、いいか」という気分で入店する。われわれはさりげなく互いの間を空けてボックスに座り、すき間にホステスたちが入ってきた。Y室さんのそばには小太りであまり美しくもなく若くもない女。Nさんの隣にはちょっと細すぎる若い女(……良かった、若くて)。私の相手は、昔は美人であったろう年増のママという構図になった。Y室さんの人相を見て、やはり鉄砲玉は(死んでも怪我しても今後の営業的ダメージが少ない)小太り女の役目であろうという、店側の暗黙の了解は納得できる。無口なNさんは、やはり店で一番若いという(推定28歳)北京語なまりの強いお姐さんをはべらせ、彼女の両手の指の間をしきりに愛撫し続けるというわけのわからない行為を楽しんでいる。私はときどき忙しく席を立つママを相手に、当たり障りのない話をしていた。Y室さんはといえば、え~と……醜女(←「しこめ」とも読む)を相手に(ほぼやけくそ気味に)はしゃいでいた。店で一番ひどいのを率先して相手にする。まさに代理店営業の鑑(かがみ)である。(「オレは営業やない、マーケティングや!」という本人の声がしているようだが、どっちでもいいじゃないか。)こういうときに関西弁は便利である。口説かなくていいので、すべてギャグで済ませられる。話も弾む。ところが相手の女性に「この人、あたしを気に入っている?(ハート)」と誤解される欠点がある。合コンでも気を付けねばならぬ点である(私は合コンしたことないけど)。ひとしきり飲んで、われわれは店を出た。そこでY室さんのひとこと。「森三中や!と思って、のけぞったワ」かのホステス評である。Y室さんはこういうネーミングがうまい。人の物真似もうまい。いつも他人を批判的に見ているからであろう。確かにお笑い芸人「森三中」のメンバーを3で割ったような容貌と体型であった。言い得て妙である。だが、その「森三中」から「また来てね」とY室さんに熱い視線が送られたのを、私は見逃していなかった(笑)。飲み直そうということになって、今度はNさんが行ったことのある店に向かった。「そこには若い子がいます」とNさんが、(^_^)←こういう顔で、保証する。人もまばらな街をちょっと歩き、なんだかやたらに暗い路地にその店はあった。入ってみると今度は狭く、暗い。カウンターの先客がNさんに挨拶する。知り合いらしい。湘南台は狭いのである。やはりボックスに座ると、なにやら大きな黒い影が現れた。ホステスらしい。体の厚みが尋常ではない。(出羽海部屋か? 春日野部屋か? いやいや、女子プロレスだろ)暗い店内で黒い服を着ているので、ホラー映画みたいである。そこまで肥えてると黒い服が逆効果ですよ、おね~さん。「○○ちゃんは?」とNさんが小声で尋ねると、「ごめんねぇ、今日は休みなのぉ」と太い声で答える。○○ちゃんとはNさんが言った「若い子」のことらしい。テンションは大いに下がる。すぐに帰るのも失礼なので、しばらく飲んで、われわれは引き上げた。この晩はこれで終わりである。翌日もいろいろあったのだが、ほぼ江ノ島観光と疲労の話なので、省略。とまあ、ここまでは前振りである。長いけど。さて、話のオチはこれからである。同じ夏の別の休日に、Y室さんとNさんは互いの家が近いこともあって、2人でまた江ノ島で遊んだらしい。いい歳した男2人で……(ヒマなんですね、2人とも)。前回で懲りているので(←省略部分の話です)、年齢を考慮して、あまり江ノ島の奥深く階段を登るのはやめ、適当なところで休憩し、焼きハマグリとビールでもということになった。江ノ島には飲食店が無数にある。どこを選んでも似たような景色・メニューであるが、前回の店は幸運にもお運びの従業員が若くてピチピチ奇麗な子ばかりであった。しかしかなり坂の上の方にあって、2人ともそこまで歩く気力はなかったようだ。まあ、ここらでいいだろうと……店に入って席に着いたとたんに、かれらの背後からかん高い声が上がった。「まぁ~、Yさんに、ケンちゃん、じゃないのぉ!」ギョッとして振り返る2人の目に映ったのは、小太りの体をプリプリと揺すりながら駆け寄る、あの「森三中」の姿であった。聞けば彼女、昼間はその店でバイトをし始めたばかりだと言う。なんという偶然。縁があるのねぇ、Y室さん。「世の中に星の数ほど店があるのに、どうしてお前がこの店にいるんだ!」と『カサブランカ』のボギーのようにY室さんがつぶやいたかどうかは定かではない。それはね、うふふふ、宿命なんだよ、Y室くん。2人がいつもより早めにハマグリを食い、早めにビールを飲んで、そそくさと店を後にしたのは、言うまでもない。その後、Y室さんが「森三中」と連絡を取り合っているのかどうか、……恐ろしくて私は聞けない。(なお、このテーマについてはY室さん本人に書いてもいいと了承を得ている。たぶん。)人気ブログランキングへ