この数週間
死は誰にでも訪れるそれは避けられない自然の摂理当然わかっていたでもあまりにも突然すぎる子が親よりも先に逝くなんて親が幼子を残して逝くなんてあって欲しくなかったウィルと離婚して二度目の独立記念日日本のカレンダーではごくごく一般的な月曜日でも私にはこの7月4日はとても特別な日だった数年前のこの日私たち二人はNYにいたホテルの一室でちょっと値が張るシャンパンをあけ大好きなチーズケーキを楽しみながら窓の外に広がる花火を満喫していたウィルはそのたくましい腕で私を後ろから抱きしめ私はウィルの口元へ甘いチーズケーキともっと甘いキスを交互に運んでいた花火の音が一瞬静かになった時私を抱きしめていた腕がふっ、とほどかれたウィルの向かう先を目で追おうと振り向いた私を彼は思わぬカタチでそこに留めた彼の向かった先それはなぜか私の目の前大柄の彼がそこに立ってはせっかくの花火が見えやしないそう思った次の瞬間ウィルはそこにひざまずいたえ?徐ろに私の手をとり大きくひとつ深呼吸したそしてあのパッチリとした瞳で私を見上げたのだ予期していなかった状況に言葉もなく立ち尽くすだけの私そんな私をよそにウィルはそれを始めたその一言一言をゆっくりとゆっくりと進めるウィルそしてとうとう彼はお決まりの台詞を発したそして沈黙達成感に満ちたウィルの顔その笑顔が私の返事を私から発せられるその返事を待っているまだ沈黙あ、私が答える番か・・・呼吸することさえ忘れていた私が我に返りようやく発した返事はタイミングのいいことに再開された花火の音で消されてしまった「何?何だって?」と聞く彼の耳元で「もちろんって言ったの」そう囁きキスをしたウィルにプロポーズされた7月4日 独立記念日あの夜ウィルと見た花火はその後も毎年思い出された結婚記念日並にあの日は私にとっては大切な日だったウィルと離婚して二度目のその日仕事から帰りゆったりとバスタブにつかり目を閉じるといつのまにか瞼のスクリーンにそれが映し出された耳の奥に残っているあの音と共に私の心を揺さぶるあの7月4日の情景それに完全に浸っている時だった扉の向こうで私の携帯がなったこんな時間に誰だろう?ローブをさっと羽織り少し濡れたままの手で携帯の着信を確認する「通知不可能」海外?留守電には何も残っていない誰だろう?そう思っているとまた携帯がなる「通知不可能」デスクの上の世界時計に目をやるこの時間ならアメリカからかな「もしもし」「moshi moshi」その聞き覚えのある声に私は一瞬持っていた携帯を落としそうになった出逢いが突然であるように別れも突然やってくる心の準備があるないに関わらずそれは突然やってきた「姉さん夫婦が事故に遭って・・・」久しぶりに聞くウィルの声が震えていることに私は嫌でも気がついた言葉にならない声受話器の向こうのウィルの姿が手に取るようにわかった「わかった。明日こっちを発つから。」そう言って電話を切りもろもろの準備に取り掛かったまずは職場へ上司に連絡を取り急にも関わらず長期の休みをいただけた次に元職場へ連絡元上司に事情を話し翌日の便の席を確保していただいたドラム乾燥まで使って洗濯物を手早く済ませ冷蔵庫を整理し指定日以外だったがゴミを出したスーツケースを引っ張り出し荷物をまとめ義姉夫妻との写真を見たり彼らからのカードや手紙メールを読んでいたら一睡もすることなく夜が明けたスーツケースを転がしながらオープンと同時に百貨店へブラックフォーマルを購入しNEXに乗って成田へと向かったもうこの頃には腫れ上がった瞼でサングラスをはずせないほどだったこの状況で元同僚に逢うのはかなり辛かったので駆け込みチェックインにすべく時間を見計らい挨拶もそこそこに搭乗口へと向かった元上司が好意で用意してくれたFシートに腰掛けると昨夜の疲れからか私はその飛行機が到着するまで目を覚ますことはなかった