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ある内科医の独り言

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2004.08.20
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患者さんから色々とモノをいただくという話は以前にも書いた。前回は「モノ」を中心とした話を書いたが、中には「モノ」ではないものもいただいたりすることがある。

言葉や手紙がそうだったりするのだが、僕にとってこうした有形無形の頂き物はほかの何物にも代え難いすばらしい財産だ。最初の頃は笑顔を振りまく余裕があったものの仕事が忙しくなってくるとそれもなくなり、自分一人でいらいらしてきてしまう。八つ当たりなどはしていないはずだが、傍目にみれば「触らぬ神に祟りなし」状態になっていることは多い。そうしたときに患者さんからねぎらいの言葉を掛けてもらったりすると、先ほどまで頂点に上り詰めようとしていた真っ赤なマグマが一気にクールダウンし、波打ち際に打ち上げられたきれいな貝殻のように心を慰めてくれる。特に「いつもすみません」とか「時間外にご無理をいって済みません」など患者さんにへりくだられてしまうともうダメだ。間違いなく患者さんの思う壺にはまってしまう(笑)

手紙なんかもそうだ。特に手紙はあとで読み返しがきくので僕にとっての価値は高い。なんて書いてあるのかわからないような崩し字から、どうみても書家が書いたとしか思えないような達筆な文字までその人となりを表した手紙は読み返すだけで患者さんの背景まで思い起こされる。救急などで息を吹き返した人なんかからももらうことはあるのだが、手紙のほとんどは闘病期間の長い患者さんから送られる。

以前、市内の国道を走っていたときにたまたま目の前で事故が起こった。僕の2台前の乗用車が若い男性をはねてしまっていた。ドライバーはこれまた若い女性だったが動転していたためか全くしゃべることもできなかった。深夜だったこともあり多少酒臭い気もしたが、そんなことよりもはねられた男性が心配ですぐに駆け寄った。幸い大きな外傷はなかったものの意識はなかった。ざっとみた感じ気絶している感じだったが頸部の損傷があるかもしれないと思うと揺さぶったりすることはできず、とりあえず119番に電話し救急車を要請した。結局その少年は近くの総合病院に収容され事なきを得たようだった。その事故が起こってから約1週間後に自宅に手紙が届いていた。少年からだった。どこで僕の名前や住所を知ったのかはわからなかったが、短く「助けてもらってありがとう」と書かれていた。たいしたことはしなかったのにこうして手紙をもらうと、なんだか照れくさいような恥ずかしい気がした。

MasterCardのCMじゃないが、お金で買えない価値というのは心の奥底にまで染み渡ってくる。もちろんそうした価値には一定の基準はない。しかし喜怒哀楽という感情は誰もが共通して持っている基本的な感情に他ならない。心の琴線に触れることが少なくなったいま、こうした喜怒哀楽の「いい話」を色々と聞いてみたいと思うのだ。


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最終更新日  2004.08.20 16:43:30
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