|
カテゴリ:想書、看書而想
いや、もうちょっと書きたいことがあったので。
![]() <日本語版> 金庸の主要長編作品の年譜ですが、作中の時系列も合わせて。 書劍恩仇録(1955年) 清前期 既読 碧血劍(1956年) ? 未読 雪山飛狐(1957年) 清(『飛狐外伝』の後) 既読 射〔周鳥〕英雄傳(1957年)南宋(『天龍八部』の後) ドラマ版見た。 神〔周鳥〕侠侶(1959年) 南宋(『射〔周鳥〕』の後) 未読 飛狐外傳(1960年)清(『書剣』の後、『外伝』の前) 既読 倚天屠龍記(1961年) 元 ドラマ版見た。 連城訣(1963年) ? 未読 天龍八部(1963年)北宋 既読 侠客行(1965年)? 既読 笑傲江湖(1967年)たぶん明 小説・マンガ・ドラマ 鹿鼎記(1969年)清 未読 という感じですが、読んでいなくて内容も良くわからないのは『碧血剣』と『連城訣』だけです。 その他の作品を見渡してみて、歴史が絡んでくる要素が強いのは『書剣』『射〔周鳥〕』『神〔周鳥〕』『倚天』『天龍』。 ということで、金庸の「歴史系」では『天龍八部』は最後に書かれた作品で、かつ時代背景的には最も古いと言うことになります。つまり『天龍八部』は金庸の「歴史系」武侠小説の中では最も重要な作品であると思います。民族と国家の興亡を描く、というヤツですね。 で、「何で宋からなのかなー」「唐や漢でも書けるじゃん?」「五代十国とか舞台だったら勉強にもなるよねー」とか思ったのですが。 これはあくまでも、私見ですが。 宋代は朱熹が「朱子学」を唱えている時期なんですね。 (まあ朱熹は南宋の人なので、北宋時代を描いている『天龍八部』をどうとらえるか微妙ですが。しかし歴史観は後世に作られるものなので、金庸の考える「歴史」というヤツもその後世の見方を基準にむにゃむにゃ・・・) この朱子学というか性理学と言うヤツ?私は儒教は全然詳しくないので良くわかりませんが、本当の意味はどうあれ、その歴史環境に沿って「華夷秩序」「異民族排斥」を強く主張する学問、らしいです。つまり中華的ナショナリズムの源泉みたいなものでしょうか?唐代とか考えてみるとけーっこう異民族が王権に食い込んでいますからね。安録山とか。 (ちなみに韓国の儒教というのはこの性理学。事大主義や外国人差別などもここにつなげようとすればつなげられますね) つまり中国においてことさらに民族意識が強調され始めたのが南宋時代なんですね。と言っても北宋も南宋も趙匡胤が開いた同じ王朝なわけですし、異民族の国家が漢民族国家を取り巻き圧迫していると言う状況は北宋時代から続いているわけです。 でも、これ以前の五代十国は、まあもう王朝がころころ変わるし、漢民族とか異民族とか割り切れないような時代だったんだと思います。 だから「民族と国家」というテーマをとる場合はやはり宋代がベストだったと言うことなのかも知れません。 それにしても重いテーマだな。金庸の武侠小説が「娯楽の域を超えた」と言われるゆえんでしょう。 しかし、やはり小説そのものの面白さを考えた時にむやみにイデオロギーを絡めようとするとストーリーに断続が出来ちゃうんですよね。 『天龍八部』でもアクションシーンとして最も盛り上がったところが少林寺決戦。その後、段譽の出生の秘密と、段譽の父・段正淳とその妻達の愛憎劇の結末、辺りが叙情面での盛り上がりになると思います。だから段譽が大理王になって終わっても別にいいはずなんですよ。あるいは喬峰と阿紫との関係性についてじっくり書いても良かった。 でもこの後に南宋の政治状況の変化とか、遼による南伐計画とか急に国家レベルの話が入ってきちゃうんですよねー。まあね、喬峰の義を表すシーンではあるし、民族と国家の対立について考えるためには必要な部分ではあるんですがね。 ま、極個人的な意見です。 その『天龍八部』の後に書かれた『笑傲江湖』では珍しく国家・民族・時代背景なんかは出てこず、エンターテイメントとしての完成度は非常に高い。また後の『六鼎記』はコメディタッチの小説だったりします。 この『天龍八部』を書いた後、金庸にどんな心境の変化があったのか分かりませんが、ある意味「書くべきことは書ききった」感じだったのかもしれませんね。だから「歴史系武侠小説家」だった金庸は、エンターテイメントとしての『笑傲江湖』と『六鼎記』を書いて潔く筆を折ったのかもしれませんね。 以前、金庸について書いた記事で「私は金庸は小説家としてちょっと・・・」って書いたんですけど、いろいろ考えてみるとこれはこれで一つの行き方かなーとかも思ってきました。 でも古龍の方が好きだけど。 ・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・@・ 金庸は断筆後、新聞社「明報」を立ち上げました。 小説家としては活動を停止したけれど、言論人としてやるべきことはやっている。 天安門事件では真っ向から共産党を批判したとか。 その「明報」。 最近たまに読んでいますが、結構大陸関係の記事が充実しています。 20日に南の方でまた暴動があったそうですよ。2万人が公安当局と衝突したとか。土地の強制収用が原因かな?新華社通信では絶対に載せられない記事ですね。 台湾の新聞に引用されている大陸のネガティブな事件もこの明報からの引用が多いみたいですよ。 さすが武侠小説家が作った新聞社、権力にも臆しません。 覚悟が違いますね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.06.25 10:16:52
[想書、看書而想] カテゴリの最新記事
|