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テーマ:ニュース(99717)
カテゴリ:経済
後期高齢者医療制度による年金からの保険料天引きが、今日から始まる。保険料額は都道府県ごとに定めており、月額にして最大2500円ほども開きがあるが、これらをおしなべた平均で約6000円というから、年金以外に収入のないお年寄りには結構な負担だ。 この新たな負担に加え、高齢を理由に受けられる医療サービスも制限される。制度導入の意図は言うまでもなく医療費の抑制だ。どうせまもなく死ぬのだから、そんなのに金を使うのはもったいない。平たく言えば、75歳を過ぎたらもう労働力にもならんし、お国の迷惑にならないよう、できるだけ早く死んで欲しいって制度なのであって、まあ、「ウバ捨て山よりひどい」というお年寄りの嘆きや怒りも、うべなるかなである。 今日の保険や年金の制度は、他の多くの福祉制度、労働者や女性の権利などと同様、20世紀初頭に国家として成立した社会主義ソビエトに端を発している。周知の通り、ソビエト連邦はその後、スターリンが無茶苦茶にしてとんでもない官僚覇権国家に変質してしまったが、医療や教育が基本的に無償であったり、老後もとりあえず飢え死にだけはしない体制は維持され、これが世界の貧しい人々を社会主義に引きつけていたことは事実で、これが世界の資本主義国において社会変革をめざす労働運動の大きなエネルギー源ともなっていた。 これに対抗することを余儀なくされた資本主義国の支配層は、まず盛り上がる労働運動を懐柔する必要から、次々に社会主義に準ずる福祉制度を「やむなく」導入する。しかし、やがてその効能にも気づくのだ。ケインズのきわめて精緻に論証された有効需要の経済理論が、福祉への費用を出し渋る資本家階級を説き伏せたのだった。公共事業や福祉への投資は、有効需要を新たに創出することで企業の売上向上と利益確保にリターンされる・・・ その後、年金などの福祉制度は、近代経済学の用語でビルトイン・スタビライザーと呼ばれるようになる。ビルトインは組み込まれること、スタビライザーは船舶や航空機に装備されている自動安定化装置だ。つまり、例えば年金や失業保険があることで、資本主義経済の宿命である恐慌といった極端な不況になっても一定水準の内需は維持され、資本主義体制自体が壊滅することはない。そうした安全装置が資本主義経済に組み込まれたということだ。これで資本主義は安泰、万歳!! しかし、グローバリゼーションと規制緩和は、こうして積み上げられた福祉の到達点を切り捨て、労働者の権利を次々に奪っている。その思想的背景にある市場万能論=新自由主義(ネオリベラリズム)はケインズ主義以前の古い古い理論、つまり社会主義登場以前の経済学だ。社会主義体制の崩壊がケインズ主義のような気遣いを無用にし、資本が生来の暴力的本質をむき出しにしたというのがコトの本質だが、その結果としてビルトイン・スタビライザーも必然的に機能不全に陥る。 恐慌回避装置を失って暴走する新自由主義に未来はあるか。福祉を切り捨てて内需を針金のように細らせ外需に依存しきってきた日本経済は、ますます米国経済など外需の変動の荒波をモロにかぶる構造となっている。そうした日本経済はこれから、サブプライムローンの破綻を震源とする米国住宅バブルの崩壊により、福祉切り捨てのツケを支払わされることになるだろう。目先の利益しか見ない新自由主義政策は、結局、かえって高くつく公算が大きい。
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