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カテゴリ:本日のスイーツ!
「だからまあ、今は一応、平和協定中。つまり、今のところは、仲良くしてましょう、でもいつかは判らないぞ、ってとこか」
「今のところは、か。でも何で? そもそも何で戦争やってる―――やってたのさ」 ふうむ、と奴は顎に指を立てた。 「ファルハイトとは、まあ単純に、資源の取り合い。まずですな、俺等のソグレヤと、向こうファルハイトとの星間ライン上に、小惑星群があります」 まるで教師の口調だ、とオレは思った。 「うん」 「で、その位置が、実に微妙で、うちからも向こうからも、そう変わりません。だいたいああいうのの所有権は、距離で決まるからな」 「…うん」 「ところが、その中で一番大きな小惑星―――それがトレモロって言うんだけど、そこにレアメタルの『キール』の鉱床があった訳だ。ただその『キール』ってのが、何って言うかな…ほんっとうに、レアだったんだよ」 「本当にレア?」 「そう。珍しいんだ。高エネルギー物質でな…うーん…」 奴はオレに判りやすい言葉をひたすら捜しているようだった。 「最初に見つけたのは、こっち。ソグレヤだったんだ」 「うん」 「だけど、その研究がずいぶんともたもたしてなあ…そんなこんなしているうちに、向こうさんの方が、かぎつけたって訳だ」 「へえ…」 「こっちは先に見つけた、あっちは国力が大きい、ってな訳で、結局まあ真ん中にライン引いて、今のとこはこれで勘弁、ということになったけど、…戦争ってのは嫌だよなあ」 「うん」 オレはしみじみうなづいた。あの時施設を焼いたのは、ファルハイトの空襲だった。 「俺まで徴兵されたんだから、こっちの国力の無さってのも判るだろ?」 「あんたも戦場に出たのかよ!」 「まーな。五体満足で生き残れたのが御の字ってとこかな」 確かに、と思った。ロブの気持ちも何となくどんよりとしている。 「弟はその時戦死したしよ。まったく、兵器のために戦争して死ぬなんて、馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ」 「それさあ、兵器にすると、そんな凄いの?」 「らしいぜ。あー確か、デビア郊外の兵器工場で、実験とかやってたらしいがな」 …デビア郊外の工場と言えば、カストロバーニの持っていた奴だ。 「あれって、兵器工場だったのか…」 「何お前、知ってんの?」 「だってデビアにある工場って、だいたいあいつのじゃん。そりゃあ、だいたいの工場に奴の息が掛かってんのは知ってたけどさあ、兵器もかあ…」 「おいおい、マフィアが兵器持ってなくてどうするよ。それにな、お前が前に当たったあの爆破事件」 「え」 って言うと、ここに来る原因となったアレか。 「あれもな、あの『キール』入りの弾丸だったって言うぜ?」 「えーっ! 弾丸?! …すごい威力じゃん」 「だろ? となれば、自分達が兵器として使うだけでなく、兵器として売り出すってのもありだよな」 うん、とオレはうなづいた。 「はいそこで、銀河系中で、現在色んな星が戦争中だ、ということにつながります」 また教師口調だ。 「あのなシャノ、その戦争自体が始まったのは、凄い昔なんだ」 「え、そうなの?」 「そう。お前は聞いたことない?」 考えてみる。 聞いたことはある。ここだけでなく、遠くで戦争が起きている、とは。 シスター・フランシスは、何処の戦争も早く終わって、平和が来て欲しい、と言っていた。 ストリート・ギャング時代、ファルハイトの攻撃はもう無くなっていたけど、大人の話に耳を傾けていた時、それはそれで、何かややこしい話をしていた様な気がする。 でもそれは、あくまで切れ切れの話で、オレの中ではつながらず、現実感の無いものだった。 遠い何処かで、戦争が起こってる。そんな感じで。 「始まったのは、もう何百年も昔だぜ」 「何百年も!」 「それも、何がきっかけだったかも、今じゃ判らない。ただ、それがどんどん飛び火して、何となく、全部の星系が、そういうムードになってしまったんだ」 「そういうもの? …戦争ってムードでやるものかよ」 オレにはさっぱり想像がつかなかった。 「…たった、数百年ってとこなのにな。人間が最初の惑星を捨ててから…」 奴はつぶやいた。 「ただ、その中で、何か最近、無茶苦茶強い軍があるらしい」 「無茶苦茶…強い?」 「そう。ま、俺も新聞や、ニュースや…まあそんなとこからしか聞かないし、実際どうなのかは知らないけどな。凄く少ない人数なのに、滅茶苦茶強くて、あちこちの星系を手に納めている軍があるらしい」 「嘘だろ! だって、前オレ、デビアで色々やってた時さあ、まずケンカに勝ちたかったら、ヘイタイを揃えろ、って言われたぜ? ヘイタイと、武器。まず数だって」 「ああ、それは正しい。それは正攻法」 ロブはぴっ、と人差し指を立てる。画家なのに、そんなことにも真面目に答えた。何でそんなことに真面目に答えるのか、ちょっと不思議な気はしたが、その時のオレは、深く考えはしなかった。 「少ない、強い軍が大兵力の軍を倒していくってのは、結構痛快なものがあるがな。だがそんなこと、まず普通はある訳ない。だから、もしかしたら、何処かの宣伝作戦かもしれないし…」 「…何かよく判らないよ」 すまんすまん、と奴は笑った。 「ついつい、お前相手ってこと忘れそうになる」 「どーせオレじゃ、話にならないよ。でもさ、その強い連中って、何って星系の何って奴等なんだ?」 オレは訊ねた。あくまでそれは、ただの興味だった。 「何っていう星系の出身かは忘れたがな…そうそう、『天使種』って呼ばれているらしい」 「…『天使種』? すげえそれって、皮肉な名前じゃねえの?」 「ああ? そんなことないぜ。昔の宗教では、戦う天使だってちゃんと存在した」 また雑学王は、そんなことまで。 「…でもシスターは、天使サマって言うのは、人を助けるもんだ、って言ってたけど?」 「うん、だけど、助けるために戦う、っていうのもあるんだぜ。あと裁くためと」 「ふーん」 何となく、釈然としなかったが、とりあえずその時、オレはそう答えた。 「で、何でそいつら、そんな強い訳?」 「あー…何でも、撃たれても切られても死なない、とか言ってたなあ。あと、歳を取らないとか何とか、…何かここまで来ると、冗談としか思えないけどな」 「…へえ」 撃たれても、切られても、死なない… 「気になるか?」 「まさか」 ならいい、と奴はオレの背中をぽん、と叩いた。 「で、その強い強い『天使種』の軍に対抗するためには、やっぱり正攻法的には、強い兵器が必要ってことになるだろ。そうすると、『キール』の需要も高くなるって訳だ」 「なるほど」 強い敵には強い武器。それは判る。 「…だけど、そうすると、今度はトレモロのラインが今、問題になっていたりするんだよ」 「ラインが?」 「ああ。今は単に場所的に半々でラインを引いてるんだがな、埋蔵量的にそれはどうか、ということで問題を起こそうとしているらしいんだ」 「…馬鹿馬鹿しい…それで、戦争?」 思わずオレはひざを抱えた。 「ああ、馬鹿馬鹿しいよな。全く」 奴はそういうオレの頭をぽん、と叩く。 「ま、喋りすぎて喉も乾いたし、茶でも入れてくれよ。あ、そう言えば、冷蔵庫の上に、買ってきたクッキーがあるぜ? お前の好きな、チョコチップ」 「え、本当?」 慌ててオレは立ち上がる。今のオレには、遠い問題よりは、目先のお茶と、奴との時間の方が大切だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.07.11 06:45:48
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