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2005.07.11
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カテゴリ:本日のスイーツ!
「だからまあ、今は一応、平和協定中。つまり、今のところは、仲良くしてましょう、でもいつかは判らないぞ、ってとこか」
「今のところは、か。でも何で? そもそも何で戦争やってる―――やってたのさ」
 ふうむ、と奴は顎に指を立てた。
「ファルハイトとは、まあ単純に、資源の取り合い。まずですな、俺等のソグレヤと、向こうファルハイトとの星間ライン上に、小惑星群があります」
 まるで教師の口調だ、とオレは思った。
「うん」
「で、その位置が、実に微妙で、うちからも向こうからも、そう変わりません。だいたいああいうのの所有権は、距離で決まるからな」
「…うん」
「ところが、その中で一番大きな小惑星―――それがトレモロって言うんだけど、そこにレアメタルの『キール』の鉱床があった訳だ。ただその『キール』ってのが、何って言うかな…ほんっとうに、レアだったんだよ」
「本当にレア?」
「そう。珍しいんだ。高エネルギー物質でな…うーん…」
 奴はオレに判りやすい言葉をひたすら捜しているようだった。
「最初に見つけたのは、こっち。ソグレヤだったんだ」
「うん」
「だけど、その研究がずいぶんともたもたしてなあ…そんなこんなしているうちに、向こうさんの方が、かぎつけたって訳だ」
「へえ…」
「こっちは先に見つけた、あっちは国力が大きい、ってな訳で、結局まあ真ん中にライン引いて、今のとこはこれで勘弁、ということになったけど、…戦争ってのは嫌だよなあ」
「うん」
 オレはしみじみうなづいた。あの時施設を焼いたのは、ファルハイトの空襲だった。
「俺まで徴兵されたんだから、こっちの国力の無さってのも判るだろ?」
「あんたも戦場に出たのかよ!」
「まーな。五体満足で生き残れたのが御の字ってとこかな」
 確かに、と思った。ロブの気持ちも何となくどんよりとしている。
「弟はその時戦死したしよ。まったく、兵器のために戦争して死ぬなんて、馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ」
「それさあ、兵器にすると、そんな凄いの?」
「らしいぜ。あー確か、デビア郊外の兵器工場で、実験とかやってたらしいがな」
 …デビア郊外の工場と言えば、カストロバーニの持っていた奴だ。
「あれって、兵器工場だったのか…」
「何お前、知ってんの?」
「だってデビアにある工場って、だいたいあいつのじゃん。そりゃあ、だいたいの工場に奴の息が掛かってんのは知ってたけどさあ、兵器もかあ…」
「おいおい、マフィアが兵器持ってなくてどうするよ。それにな、お前が前に当たったあの爆破事件」
「え」
 って言うと、ここに来る原因となったアレか。
「あれもな、あの『キール』入りの弾丸だったって言うぜ?」
「えーっ! 弾丸?! …すごい威力じゃん」
「だろ? となれば、自分達が兵器として使うだけでなく、兵器として売り出すってのもありだよな」
 うん、とオレはうなづいた。
「はいそこで、銀河系中で、現在色んな星が戦争中だ、ということにつながります」
 また教師口調だ。
「あのなシャノ、その戦争自体が始まったのは、凄い昔なんだ」
「え、そうなの?」
「そう。お前は聞いたことない?」
 考えてみる。
 聞いたことはある。ここだけでなく、遠くで戦争が起きている、とは。
 シスター・フランシスは、何処の戦争も早く終わって、平和が来て欲しい、と言っていた。
 ストリート・ギャング時代、ファルハイトの攻撃はもう無くなっていたけど、大人の話に耳を傾けていた時、それはそれで、何かややこしい話をしていた様な気がする。
 でもそれは、あくまで切れ切れの話で、オレの中ではつながらず、現実感の無いものだった。
 遠い何処かで、戦争が起こってる。そんな感じで。
「始まったのは、もう何百年も昔だぜ」
「何百年も!」
「それも、何がきっかけだったかも、今じゃ判らない。ただ、それがどんどん飛び火して、何となく、全部の星系が、そういうムードになってしまったんだ」
「そういうもの? …戦争ってムードでやるものかよ」
 オレにはさっぱり想像がつかなかった。
「…たった、数百年ってとこなのにな。人間が最初の惑星を捨ててから…」
 奴はつぶやいた。
「ただ、その中で、何か最近、無茶苦茶強い軍があるらしい」
「無茶苦茶…強い?」
「そう。ま、俺も新聞や、ニュースや…まあそんなとこからしか聞かないし、実際どうなのかは知らないけどな。凄く少ない人数なのに、滅茶苦茶強くて、あちこちの星系を手に納めている軍があるらしい」
「嘘だろ! だって、前オレ、デビアで色々やってた時さあ、まずケンカに勝ちたかったら、ヘイタイを揃えろ、って言われたぜ? ヘイタイと、武器。まず数だって」
「ああ、それは正しい。それは正攻法」
 ロブはぴっ、と人差し指を立てる。画家なのに、そんなことにも真面目に答えた。何でそんなことに真面目に答えるのか、ちょっと不思議な気はしたが、その時のオレは、深く考えはしなかった。
「少ない、強い軍が大兵力の軍を倒していくってのは、結構痛快なものがあるがな。だがそんなこと、まず普通はある訳ない。だから、もしかしたら、何処かの宣伝作戦かもしれないし…」
「…何かよく判らないよ」
 すまんすまん、と奴は笑った。
「ついつい、お前相手ってこと忘れそうになる」
「どーせオレじゃ、話にならないよ。でもさ、その強い連中って、何って星系の何って奴等なんだ?」
 オレは訊ねた。あくまでそれは、ただの興味だった。
「何っていう星系の出身かは忘れたがな…そうそう、『天使種』って呼ばれているらしい」
「…『天使種』? すげえそれって、皮肉な名前じゃねえの?」
「ああ? そんなことないぜ。昔の宗教では、戦う天使だってちゃんと存在した」
 また雑学王は、そんなことまで。
「…でもシスターは、天使サマって言うのは、人を助けるもんだ、って言ってたけど?」
「うん、だけど、助けるために戦う、っていうのもあるんだぜ。あと裁くためと」
「ふーん」
 何となく、釈然としなかったが、とりあえずその時、オレはそう答えた。
「で、何でそいつら、そんな強い訳?」
「あー…何でも、撃たれても切られても死なない、とか言ってたなあ。あと、歳を取らないとか何とか、…何かここまで来ると、冗談としか思えないけどな」
「…へえ」
 撃たれても、切られても、死なない…
「気になるか?」
「まさか」
 ならいい、と奴はオレの背中をぽん、と叩いた。
「で、その強い強い『天使種』の軍に対抗するためには、やっぱり正攻法的には、強い兵器が必要ってことになるだろ。そうすると、『キール』の需要も高くなるって訳だ」
「なるほど」
 強い敵には強い武器。それは判る。
「…だけど、そうすると、今度はトレモロのラインが今、問題になっていたりするんだよ」
「ラインが?」
「ああ。今は単に場所的に半々でラインを引いてるんだがな、埋蔵量的にそれはどうか、ということで問題を起こそうとしているらしいんだ」
「…馬鹿馬鹿しい…それで、戦争?」
 思わずオレはひざを抱えた。
「ああ、馬鹿馬鹿しいよな。全く」
 奴はそういうオレの頭をぽん、と叩く。
「ま、喋りすぎて喉も乾いたし、茶でも入れてくれよ。あ、そう言えば、冷蔵庫の上に、買ってきたクッキーがあるぜ? お前の好きな、チョコチップ」
「え、本当?」
 慌ててオレは立ち上がる。今のオレには、遠い問題よりは、目先のお茶と、奴との時間の方が大切だった。





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最終更新日  2005.07.11 06:45:48
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