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2009.01.28
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カテゴリ:時代?もの2
 正頼達は夜半過ぎまで立ち尽くしたが、結局暁には引き上げることとなった。
 朝早く、親純を使いにして藤壺に正頼から文があった。

「昨夜は道が心配でお迎えに伺ったのだが、お許しが出ないので暁に退出した。車などの用意をするのも色々と厄介だったのだが… 
 子供は二十人がところ居る訳だが、そなたばかりを秘蔵っ子扱いに育て、早く人並みになって、光栄ある身になる様にと思ってきた私だ。実際入内させ、次々と皇子を誕生させてくれたことは非常に嬉しく思う。
 だが昨夜、そなたを待つ間、そこらかしこで聞こえてきた忌々しいそなたへの悪口に、私は大層気が塞いだ。
 …いや私自身はともかく、そなたのきょうだいなど、若い者達に聞かせたい様なことではない、と思った。
 どうか早く退出して、皆の気持ちを鎮めてやってくれると嬉しい」

 藤壺がそれを読んでいると、東宮は「見せなさい」と言って取る。
 父親としての正頼の心については、東宮も「実に気の毒だ」と思う。だがその一方で「退出せよ」との言葉に腹が立つ。
 そこで彼は文を持ってきた親純にこう言伝させる。

「藤壺を謗る言葉を聞いてしまったことは気の毒だと思う。だがここの他の妃達の女房が勝手にすることにまで私は責任が持てない。正頼よ、そなたにとって面目が立たないというならば、そういう言葉は聞かなければいい。態度が目に余るなら見なければいい」

 親純はしぶしぶそれを帰って正頼に伝えた。無論彼の気分が怒るやら悲しむやら最悪のものになったことは言うまでも無い。
 そんな夫の様子を見ながら、大宮は呆れ半分、情けなさ半分にこう言う。
「だいたいそんな、これ見よがしに子供達皆ぞろぞろと引き連れて行くからいけないんですよ。しかも困った消息までして。あなたはともかく、子供達の将来のために困ってしまいますよ」

 一方仲忠はそんな大宮の言葉をまた人づてに聞き、はあ、とため息をつく。
 そして。
「だから言ったのに。そう簡単に退出なんて無いだろうって。藤壺の御方自身は人並みでなく慎重なひとなのに、ああいうことがあっちゃ大変だ」
 そう独り言を漏らしたとのことである。

 十二月。
 京官の日がやって来て、左大臣忠雅、右大臣正頼、左大将兼雅が宮中に召された。
 そして翌朝早くから、行事が済んだと言っては皆騒いでいた。
 この時、正頼の家に関わる者達の中でも、大勢が新たに任命された。
 衛門督には忠純の中納言、右近少将には親純、あこ君の一人が内蔵頭兼左衛門尉になった。だが彼等は誰一人として、東宮のもとへと慶びの挨拶には出向かなかった。
 仲忠は、と言えば、帝の側に東宮が居ることから、皆に交じって参内する。その場で東宮が仲忠に向かって嫌味めいたことを口にするが、仲忠は気にしない。いちいち気にしていたらお勤めなどできないのだ。
 挨拶もきちんとする。
「先日は文書の講読で大変お近くに寄らせていただきましたのに、他のことで色々と忙しく、ご挨拶もできなくて失礼致しました。御仏名が終わってから是非、とも仰有られ、ひたすら文を読むようなことが続きそうだったのですが、何かと用事がございまして」
 ですので、と仲忠は続ける。
「年が明けましたら致すつもりでございます」
 その様子を見て東宮は「上手く逃げたな」と思う。彼が決して好きで講読をしていた訳ではないこと位は東宮にも判るのだ。

 そんな東宮はと言えば、ここしばらく藤壺を側から離さない。
 本来彼女が居るべき藤壺ではなく、自分の御座所の近くに局を特別にしつらえ、そこから出そうとしない。
 兵衛の君、孫王の君、あこぎの三人だけを側に置かせ、東宮はこう彼女に言い放った。
「用があるならこの三人に言いつけるがいい」
 それ以外の者を近づけるな、自分の側から離れるな。
 そんな東宮の思いが鋭く彼女に突き刺さるかの様で、藤壺はぞっとする。
 怖い。ひどく怖い。だが彼女はその一方でくっと口の中を噛みしめ、心に強く決意する。何も言うものか。脅えてみえるならそれでもいい。
 いずれは退出できる。しなくてはならない。その時までは心を強く持たねば。
 不安になるのは自分ばかりではない。腹心の女房達、いやそれ以上に自分を宮中に入れた父母、一族郎党に及ぶのだ。
 怖い。だが。
 藤壺は耐える。





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最終更新日  2009.01.28 16:46:01
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