ボストン美術館 浮世絵名品展 山種美術館
錦絵の黄金時代と銘打って、清長、歌麿、写楽の3人の名品をメインにした展覧会。山種の狭い会場にどれだけ展示できるのかと思ったのだが、140枚の浮世絵がぎっしりと展示されており、見応えも十二分で、まったく文句なし。開館前に出かけたのだが、美術館を出たのは12時をまわっていた。第1章は鳥居清長。まずは、「仲之町の牡丹」がオープニングを飾る。江戸のヴィーナス、八頭身美人の三枚続き。咲き誇る牡丹見物に来た女性たち。美しい色彩は元より、中央の女性の着物の白地のから摺りまで、しっかりと味わう。その他、晩の「美の巨人たち」で特集された「美南見十二候」の三月・九月。また「雛形若菜の初模様」や「子宝五節遊」。そして役者絵など、次々と美しい浮世絵が登場。今回のいちばんの見どころは、歌麿でも写楽でもなく、この清長であると思う。第2章は喜多川歌麿。清長の健康的な美人像に比べると、歌麿のそれは、秘められた感情が感じられるとはよく言われる。何年か浮世絵を見てきて、ようやくこのあたりのことが分かるようになったが、まだまだ歌麿が描く難波屋おきた、高島おひさ、富本豊ひなの違いが認識できない。ボストンの歌麿は、紫や藍色、黄色、朱色などきれいに残っていて、目を見張る絵が多い。「金魚」の紫色の着物、「夏衣装当世美人 伊豆蔵仕入のもやう向き」のピンクなど見とれてしまうほど美しい色が残る。この時代の遊女の着物は、着物の絵柄に人工的なオブジェをつけているのが、清長や歌麿の絵を見て分かった。第3章は東洲斎写楽。役者絵は、美人画に比べるとテンションが下がるので、写楽の大首絵以外はあまり興味が沸かない。大首絵の「宮城野」とか「けはい坂の少将、実はしのぶ」など正面から見ると背景の雲母もはげているが、絵の下にしゃがんでみると照明に反射して、背景が一面に光り輝き、人物が浮き上がって見える。これが雲母刷りの魅力。後の北尾重政の摺物でもこの方法で金銀に光り輝く絵を楽しんだ。春信ファンとしては、春信の作品が一枚も無いのは少々残念であったが、それはそれ。鮮やかな色彩が残る浮世絵が次々と現われ、興奮しっぱなしの展覧会であった。