|
カテゴリ:未来社会へのプロセス
●ベーシック・インカムには、次のような心配をされる人が大勢いるようである。そこで、今回はこの問題について触れることにした。
・労働意欲が減退して生産力が低下し、経済活動が機能しなくなるのではないか ・ベーシック・インカムの財源確保のために増税すると、高コスト社会になり、国際競争力が弱くなるのではないか 1.労働意欲 ●確かに、働かなくても収入があって生活に困らないのでれば、働かなくなる人が大勢でてくる可能性を否定できない。また働かない人に支給する分までの財源を調達するには増税が必要になり、税金は物価に跳ね返り、結果として経済競争力が下がってしまうのでは、という心配ももっともである。 ●ベーシック・インカムの導入に賛成する人は、その多くの利点を感じていると思うが、その推進に当たっては上記のような心配または批判する人との議論を避けてとおれない。 ●労働意欲の問題はさておき、ベーシック・インカムの導入によって労働しなくなるのは下記うちの(c)の人達になるだろう。 (a)仕事や会社が好きだ (b)仕事や会社が嫌だ・しかし豊かな生活がしたい (c)仕事や会社が嫌だ・最低限の生活ができればよい ●職場が楽しいとか、好きな仕事をさせてもらえるとかという人達が(a)になるが、現代社会ではそれほど多くないのかもしれないしかしこの(a)はベーシック・インカムの導入によって大幅に増大することが期待できる。経営者は従業員に仕事や会社を好きになってもらうような条件を整えなければ事業が成立しなくなるからである。 ●ベーシック・インカムは人間らしい生活ができるに必要な支給額であって、十分に豊かな生活を保障するものではないので、楽しくなくても豊かな生活のために働く(b)のような人は大勢いるであろう。3Kのような仕事には、高給が与えられるようになる。 ●封建的な職場秩序(職場は民主主義の世界ではない)、嫌な上司、競争の強制、面白みのない仕事などのことを考えると、所得が保障されるのであれば、(c)のような人が大勢でてきても不思議はない。 ●健康であるにも関わらず、働くこと自体が嫌いだという人はそれほど多いとは思えない。好きなことであれば進んでするはずである。これが稼得労働ではない趣味である場合もあるであろう。このような人たちは確かに労働力ではなくなる。しかし、ボランティア活動のような稼得労働扱いされていなかった社会的に有用な分野に進出する人も多くなるのではないかと思う。 ●たしかに、ベーシック・インカムは人間的な労働条件を経営者に要求するので、コストアップにはならないとは言えない。しかし、労働意欲が増すといったプラス面も期待できる。 ●ベーシック・インカムが支給されるようになると怠け者がやたら増えて社会が機能しなくなると考える人は、現在の資本主義社会での社会規範に基づいて、ベーシック・インカムの社会を考えているのではないかと思う。雇用者側の立場の人にとっては、安閑としていられなくなる。 2.福祉国家からの類推 ●生活に困らないだけのベーシック・インカムがある国は現時点では存在しないので、社会規範がどうなるかについて断言することはできない。ただし、スウェーデンのような高福祉国家の社会規範はこれに近いのではないかと思う。 ●下記は、以前に「スウェーデンンの政治」というタイトルで書いた記事からの引用である。 ●スウェーデン型福祉国家は、保守主義陣営から様々な批判の直撃を受けてきたことは勿論である。代表的なものは次のようなものであろうか。 ・過剰福祉は競争原理を否定する傾向があるので、国際市場での競争力が低下する。 ・過剰福祉が勤労意欲を低下させ、貯蓄意欲をそいでいる。 ・高負担政策のゆえに企業の国外脱出を加速する。産業空洞化の恐れもある。 …などなどである。 ●このようなことが言われ続けてきたようだが、いずれも懸念されたようにはならなかった。 ●教育費や医療費はロハであり、失業しても困ることはなく、老後の生活も保障される…のであれば、怠け者がやたらに増えるのかといえば、事実は正反対である。スウェーデンに限らず北欧諸国には怠け者が多いという話は聞かない。女性の就業率も高く、専業主婦の割合は数%に過ぎないとのことである。 ●ベーシック・インカムの社会は高負担・高福祉社会であり、北欧社会の延長線上にあると考えることもできるので、同じことが言えるはずである。 3.税金と国際競争力の関係 ●「ベーシック・インカムの導入さればコスト高になって国際競争力が削がれる」ということが、増税が必要になるからということであれば必ずしも正しくない。ヴェルナーの唱えるベーシック・インカムは消費税率を財源とするものであるが、法人税を全廃することを前提としている。 ●法人税は物価に転嫁されるので、上記の消費税率が廃止前の法人税率を上回る場合には、従来よりも物価高になる。但し、外国の商品にも同じ消費税が課される。国内で生産された商品は海外ではその国の税体系に従うということなので、国際競争力に影響することは少ない。これに対して法人税の増税は輸入品には有利になり、国際競争力を削がれる。ということで、ベーシック・インカムの財源をどこに求めるかによって国際競争力への影響が異なったものになる。 ●スウェーデンの消費税率は25%で貿易依存度は日本よりも格段に高いにも関わらず、国際競争力もある。 4.社会的立場との関係 ●「ベーシック・インカム=労働意欲減退」論者は、高福祉社会反対論者と基本的には同じである。嫌な仕事をさせようとする経営者側の立場の人にとっては、労働者の労働意欲減退が眼に見えるようであり、恐怖ですらあるのだろう。このような人達にとっては、ベーシック・インカムにどのような利点があるかは全く関係ない。利害が直接絡んでいるので、どのように説明しようともベーシック・インカム=労働意欲減退論に固執し、その導入に反対するに違いない。 ●ところで、不動産収入や株の配当などによって大枚の不労所得がある人には怠け者が多く、労働意欲がない人達ばかりでるといえるのであろうか。推測の域を出ないが、恐らく不労所得のために人並みの「仕事」をしているのではなかろうか。もっと儲けたいという楽しみのために、日夜「努力」している人が少なからずいるのではなかろうか。 ●ということで、ベーシック・インカム導入に伴う影響に関しては、現在の社会的立場が大いに影響しているに違いない。人は理論で納得するのではなく、利害や感情で納得するものであり、利害や感情を説明する理屈を是とするのである。 5.経済至上主義からの決別 ●ベーシック・インカムに反対する人達はおそらく、高福祉化社会のための消費税(付加価値税)率のアップ、地球温暖化抑制のための炭素税(環境税)の導入にも反対であろう。曰く、国際競争力を殺ぎ、経済成長にマイナスになるから……と。 ●ヨーロッパ社会は消費税率が20~25%になっている。炭素税の導入をしている国もある。上記のような主張は人間の意志というよりも資本の意志である。このようなことを言わせておいたら、永遠に人間的な社会は訪れないし、地球環境も守れない。たとえ競争力が削がれようとも、社会的弱者が生きていくうえでの必要条件を満たすこと(万全なセーフティネット)がなによりも優先されなければならない。 ●資本主義社会は経済成長を不可欠とする社会であるが、地球の資源は有限であり、地球上で養える人口も上限に達しているように思える。百年前と比べれば一人当たり生産力は何百倍にも増えているはずである。 ●人間は、これ以上、稼得労働のために競争する必要はない…どころか、これ以上経済競争していたら地球がパンクする。 ●自己責任・低負担・低福祉の競争社会の方が怠惰な人間を生み出しているように思う。失業という強制された怠惰である。今回のような経済不況にでもなれば大勢の人が路頭に迷うはめになる。 ●高齢になって年金などの所得が覚束ないため、働き続けたいと思っても、定年という仕事の取り上げ制度によって、人生の後半部分に怠惰を強制されもする。 ●ベーシック・インカムで労働意欲が減退するとは思わないが、経済奴隷状態から解放されて、十分な経済力の果実をシェアすることで、意識的に怠惰になって、家族一緒の時を増やして楽しむとか、趣味に興じるとか、社会奉仕をするとか…人として生まれたことの僥倖を十分堪能した方が良いのでは…と思うのであるが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[未来社会へのプロセス] カテゴリの最新記事
|
|