映画館の楽しみ方
映画館の楽しみ方銀河系の彼方からさざ波のように漂ってくる悲哀の情…。映画生活を満喫しているが、最近はオペラやバレエ、ミュージカル、歌舞伎などの舞台を映像化したものを映画館で観ることが楽しい。先日は、あるオペラを観に行った。第一幕の冒頭の第一音、そのたった一つの音色がなんとも言えない哀愁を帯びていて、刹那胸がきゅうっと締め付けられ、私は意に反して思わず身をぐいっと乗り出してしまった。なんて、なんて悲しい和音なの!正直なところ、オーケストラそのものは特別に素晴らしいという訳ではなかった。だが、まさにこの第一音が鳴り始めた途端に物語の世界へといざなわれ、私は身を焦がしたのだった。このオペラは悲劇で、つまり最後には死が会場を包み、「時既に遅し」を表現しているのだが、その死をたった一音で現しているのがこの第一幕の冒頭の第一音、その音色だと、私は一人なるほどとこのオペラを解釈した。オペラには各幕ごとに見せ場という観客を惹き込む場面が必ずあるのだが、今回のオペラはそれが観客の欲望と見事にぴったりとはまっていて、観る人を魅了して止まなかったと思う。言うまでもなく、私も釘づけにされた。また、プリマ・ドンナが気丈で力強い女性像を十分に発揮していてよかったとも思う。私は結局映画館へ行っても私の人生の経験に対して胸打たれるような内容のものを好むのだろう。映画館の楽しみ方をだいぶん熟知してきた昨今、まだまだのめり込みそうである。