お父さんから子供たちへ

　「人に期待してはいけない」とは昔からよく言われる言葉である。相手に自分が思った通りの行動をとらせることは不可能である。それでもこのような言葉が延々と語り継がれているということは、「人間は他者に期待する生き物」なのだろう。

　お父さんも「無理」とは思いつつも、常に人には期待している。妻、子供、同僚、上司、部下など関係が強い人にはついついいろいろと期待してしまう。そして、勝手に裏切られた思いを持ち、失望することがよくある。

　冷静に考えれば、自分の期待通りにすべてのものごとが進むということは、不可能である。それでも勝手に期待して、勝手に裏切られた思いをするのはなぜなのだろう。

　もちろんお父さんも勝手に期待されて、勝手に裏切られた思いを持たせていることは多々あるだろう。人間が生きていく上で、これは日常的なことなのではないだろうか。

　不思議なことに、自分以外の人が「期待していたのに裏切られた」という話をしている時には、「それは無理だよ」と冷静に思えるのだが、自分が期待した場合に関しては、冷静でいられなくなってしまう。

　特に子供や部下など、自分がある程度相手をコントロールできる立場にいる場合は、勝手に期待したり、こうなってくれるだろうという思いは強いように思う。言い方は悪いが、「自分が良い方に導いてやる」という思いが強いせいなのだと思う。

　特に子供に関しては、環境のかなりの部分を自分がコントロールできるので、期待の度合いは強い。

　先日も息子とある約束をして、褒美とペナルティを設定した。さすがに結果を出してくれるだろうと強い期待を持っていたが、結果はまるで効果が無かった。正直かなり息子に失望してしまい、「もう息子に期待するのはやめよう」と強く思ったが、冷静に考えれば「当たり前の事」と落ち着いてきた。

　自分が子供のころ、親から同じように褒美とペナルティを課されて結果を求められたことがある。それでも「じゃあがんばろう」とはならなかったことが多々あったことを思い出す。親はさぞ悔しい思いをしていたのだろうと今になって思うが、すでに手遅れである。

　相手の意思を尊重するというのは、ちょっと違うのであるが、血のつながりがあっても期待は裏切られるのだから、完全に他人である部下などが、思った通りに動くことなどさらに難しいことである。

　すでに50年も生きてきたが、人を動かすということにかけては何の進歩もしていないような気がする。いまだに相手が何を考えているかよくわからずに悩んでいるし、裏切られて気持ちを抱くことが多くある。そしておそらく今後もそれは変わらないだろう。

　自分の上司が自分に期待していることがわかっていても、あえてしないことがお父さんにもある。特に見え見えのあおりや説教をされると余計に反発する心が芽生えてしまい、逆の行動をとることがある。

　自分がやらないのに、他人に期待するのは傲慢というモノだろう。

　ただし親であっても上司であっても、期待を裏切られたと失望すれば、その人に対するイメージだけでなく、接し方も変わってくる。それだけは理解しておくべきだとは思う。そして、その環境の悪化を覚悟して反発するのであれば、誰にも止めることは出来ない。

　もし相手に失望を与えた自覚があるのに、環境の悪化に対して恨むのなら、それもまたわがままなだと思う。