お父さんから子供たちへ

[思い出（アメリカ留学時代）] カテゴリの記事

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• アメリカの雪道事情

  先日また雪が凍った状態で運転をした。AM6:30前に家を出たのだが、車の外気温計はマイナス11℃となっていた。この冬一番の寒さだ。前日に5センチ程度雪が積もり、夜から月や星がきれいに出ていたので、翌日は凍るなと覚悟はしていた。ただマイナス11℃は天気予報よりも5℃以上低い。　家から道路に出たところでさっそくリアのタイヤが滑った。やっぱりなと思いつつ走り始めると、すぐに前の車に追いついてしまった。それからずっと時速20キロ以下でのろのろと前の車に続いて走る状態になってしまった。　交差点で止まると、発信が上手くできずタイヤが空転したり、そのせいで車が横に流れたりするので、ひどいところでは、車が2台通過するとまた赤信号になるという状態だった。　その後も車は直進していても滑るので、場所によってはハンドルを左に切ったまま車をまっすぐ走らせるような状態のところもあった。　さすがにこれでは朝のミーティングに間に合わなので、電話を入れて何時に着くかわからないと伝えておいた。実際に1時間かかってようやく会社に着いたが、お父さんと同じ道を使う社員は3人ぐらい遅刻してきた。お父さんが通過した後に事故が発生して動かなくなってしまったらしい。　さて長々と書いたが、今回書きたいのはアメリカでは雪道がどうなっているのかということだ。お父さんは1998年の6月にジョージア州アトランタに渡った。ジョージア州はアメリカの南部、フロリダ州の上にある為温暖で雪は基本的に降らない。ただし、数年に一度大寒波で雪が積もることがある。　アメリカに行って驚かされたのだが、アメリカ人は雪道でも凍っていてもジョージア州あたりだと、ノーマルタイヤで普通に運転をする。そして滑って事故を起こす。そもそもジョージア州では行政が雪を想定していないので、除雪機も融雪剤をまく車も持っていない。　住民も、車がなくては生活できない状態の人がほとんどなので、雪が降っても車で出かけるのだ。すごいところだと思った記憶がある。　2000年の1月に、お父さんはミシガン州立大学に合格した為、ミシガン州デトロイトの近郊に移り住んだ。ここはアメリカ北部で冬場は最高気温が０℃以下の日が続くような場所だ。もちろん雪も積もる。と言っても日本の豪雪地帯のような雪は降らないが。　お父さんはジョージア州から車でミシガン州まで移動したが、周りに雪が残っているのを見て、さっそくタイヤ屋にスタッドレスタイヤを買いに行った。　そこで自分の車に合うタイヤを複数見ながら悩んでいると、店員に「スキー場にでも行くのか？」と聞かれた。街中を走るだけだと答えると、店員は「だったらスタッドレスタイヤなどいらない」と言ってきた。　道路にも雪が積もることを店員に確認したのだが、すぐに除雪するからノーマルタイヤで問題ないとのことで、しばらく生活してみて必要だったらまた来なさいと言われて店を出てしまった。タイヤを買うお金がもったいないというのもあった。当時のお父さんは本当にお金がなかった。　さて生活してみると、やはり雪は降る。しかしながら雪が降り始めるとすぐに除雪車が出てきて除雪を始める。日本の除雪車は路面を傷つけないように道路から1センチぐらい浮いた状態で除雪をするのだが、アメリカは道路ごと削る勢いでものすごい音を立てて除雪をする。　さらにその後ろを融雪剤をまく車が追いかけていき、日本では想像できない量の融雪剤をまき散らす。後ろを走っていると日本であられが降っている中を走るよりもすごい量の融雪剤が車に当たる程である。　　この除雪と融雪剤を24時間体制で、雪が降り始めるとすぐにやり始める。結果として主要道路に雪が積もることはほとんどない。スーパーなどの駐車場も同様のレベルで除雪をするのでほとんど雪道を走ることは無い。強いているならお父さんが住んでいたアパートメントは、除雪が甘かった。　結局2シーズン、ミシガン州で冬を過ごしたがノーマルタイヤで全く問題がなかった。さすがアメリカといったところであった。日本では絶対にまねできないと思う。　お父さんは自分が住んだジョージアとミシガンしかわからないが、おそらく全国的に雪が積もる地域はがっつりと除雪、雪が降らない地域は全く設備を持たないという状況なのだろうと思う。　実際に今でもたまに、アメリカ南部で雪が降ると車が滑って事故を起こしている映像をニュースなどで見ることがある。場所を確認すると基本的にすべて雪の降らない暖かい地方だ。　おそらく雪が降らない地域に住んでいる人たちは、スタッドレスタイヤなど知りもしないのだろうと思う。おおらかな大陸型の国だと改めて思う。

  2022.01.25

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• 1999年のNEW YEAR

  お父さんは1998年に留学でアメリカに渡った。最初のお正月というかアメリカなのでNEW YEARなのだが、どこで過ごすか悩んでいた。とりあえず当時はまだ結婚していなかったが、お母さんが日本から遊びに来ることになっていたので、お母さんの大好きなフロリダのディズニーワールドが有力候補だった。　ディズニーワールドと言っても、東京のディズニーリゾートと異なり、様々なテーマパークが点在している。ディズニーマジックキングダム、ディズニーアニマルリゾート、エプコットなどドコモニューイヤーのイベントをやっていてなかなかどこを選ぶか大変だった記憶がある。　そんな中で、小さなエリアながらお酒も飲めて大人しかニューイヤーイベントに入場できないところで過ごすことになった。お父さんははお酒が飲めないし、果たしてそこでいいのかと思っていたが、おそらく一番すいているだろうという目論見でそこに決まった。　12月31日の夜に、イベント会場に行ってみると確かに大人しかいないので、他のテーマパークよりはすいていたのではないかと思う。ただし、アトラクションとかもないので、ひたすら屋台などを回って時間をつぶしていた。　さて肝心のカウントダウンが始まり、新年の花火が始まった。真上に上がる花火を見始めた数十秒後、空を見上げていたお父さんの目に、花火のカスが飛び込んできた。びっくりするほど激痛で、お父さんは下を向いて目をこすっているし、お母さんはお父さんが目が痛いとうつむいているので、心配してお父さんを見ているだけという状態で、二人とも花火を堪能できたのは最初の数十秒という情けない結果になってしまった。　まあこれも一つの人生の思い出だとは思うのだが。花火が終わるとアトラクションもないそのパークでお父さんたちはやることがなくなってしまい、早々にホテルに戻ってしまった。意気込みの割に、あっさりと終わったアメリカでの初のニューイヤーだった。

  2022.01.02

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• クリスマスとチキン

  クリスマスがやってきた。日本でクリスマスを迎えるのは本当に久しぶりだ。もうサンタクロースを信じている子供はいない。お父さんが毎年ベトナムで年末年始を過ごしているうちに、末っ子の次女さえもサンタは親だと知る年になってしまった。　子供が寝てからこっそりと枕元にプレゼントを置くのは面倒くさくて楽しい作業だったのだが。　さて先日というか、12月の初めにショッピングモールにあるケンタッキーフライドチキンの店の前を通るとクリスマス用のチキンの予約を受け付けていた。お母さんとせっかくだから予約しようかと話して店に入ったが、クリスマスは専用のセットだけということだった。お父さんたちは余計なサイドメニューはいらなくて、オリジナルチキンだけを買いたいのだが、今年はそれができないと聞いたので購入をあきらめた。　お母さんと自宅でローストチキンを作る話をしているうちに、アメリカ時代のクリスマスディナーを思い出した。日本の仏教徒が勝手に盛り上がるクリスマスと違い、アメリカはキリスト教徒が多いのでクリスマスは家族にとってとても大事な日である。　昼間は教会で祈りをささげ、夜は家族でまったりとクリスマスのディナーを食べる。日本のお正月のようなイメージである。そういえば、アメリカのお正月は日本のクリスマスと同じように、カウントダウンパーティーをしたり、花火が上がったりとどんちゃん騒ぎをする。　さて、初めてのアメリカでのクリスマス。お父さんはホームステイしていたファミリーとクリスマスディナーに参加した。アメリカでのクリスマスディナーの定番はチキンではなくターキー（七面鳥）だ。なのでクリスマスにケンタッキーが混むことは無い。　ホストマザーが作った七面鳥のローストを食べながら、日本ではクリスマスに何を食べるのかと聞かれたので、七面鳥は売っていないのでチキンを食べると話したら、とても驚かれた。　彼らにとってチキンは日常普通に食べるもので、特別な料理ではない。もっと言うとジャンクフードに近い扱いだ。言い過ぎ化もしれないが、アメリカ人にとってハンバーガーとさして変わらない扱いかもしれない。またケーキを食べるという話も、理解ができないようだった。　文化が違うというより、日本のクリスマスは商業的に発展したもので、文化的とか宗教的な背景がない。バレンタインデーと同じ仕組みだ。よって七面鳥もないし、ケーキも食べる。厳かにというよりパーティーで騒いだり、恋人同士でロマンチックに過ごす。敬虔なキリスト教徒が聞いたら怒り出すレベルの事をしているのかもしれない。　　ただしお父さんは日本人でキリスト教徒でもないので、日本式クリスマスの方が好みである。そもそも七面鳥のローストよりもフライドチキンのほうが断然美味しい。パサついた七面鳥のローストをグレービーソースで食べるよりも、脂ぎったチキンをむさぼる方が断然美味しいし楽しい。子供にとって、ケーキを食べることができるのもうれしいはずだ。　ちなみにお母さんにパサつかないローストチキンを作ってくれとお願いしたら、そんなものは無いと否定されてしまった。ローストチキンはパサつくものだと。今までに何度か「パサつかないローストチキン」のレシピでいろいろ試したがすべてパサついていただろうと言われた。どうやらこれまでお母さんが作ってお父さんが食べたパサついたローストチキンは、「パサつかないローストチキン」のレシピで作られたものだったらしい。　ただしお父さんはパサついていないローストチキンをアメリカで何度も食べている。それが「ボストンマーケット」というローストチキンがメインのファストフード店だ。思い出すと今でも食べたくなるぐらいにジューシーで美味しいチキンだった。1羽の半分のサイズを1食で当時は食べていたことを思い出す。今はとてもそんなに食べられないだろうが、息子なら1羽分まるまる食べるかもしれない。

  2021.12.25

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• 缶詰売り場に生肉

  アメリカのグローサリーストア（食品スーパー）はカオスである。特に低賃金労働者が多い地域の店は相当にひどい。店員も客もモラルがかけているとしか思えない状態になっている。　お父さんはアメリカ時代にお金に余裕がなかったこともあり、中の下か下の上ぐらいの地域に住んでいることが多かった。社会人になってお父さんが住んでいたデトロイト近郊の地域が、入社した会社のデトロイト出張者用の地図で「危険地帯」になっていたのには驚いたが。　さてまずカオスの1つ目だが、レベルの低い地域のスーパーの客は、買い物中に「やはりいらない」と判断したカゴの中の商品を目の前にある棚に戻す。だからスーパー内部を歩いていると、缶詰売り場に生肉が突っ込んであったり、牛乳売り場に野菜が置いてあるなんてことが普通に見られる。　缶詰売り場の生肉はいったいいつ誰がどうやって戻すのだろう。そしてその肉を知らずに買った人は大丈夫なのだろうかと心配になる。　カオスの2つ目は、リンゴなどが山積みになっている売り場で客が適当に触ると、当然のことながらリンゴの山が崩れて床にリンゴが散らばってしまう。日本なら店員とやらかした客が必死でかき集めるが、アメリカではそのままである。　だから山積みのフルーツ売り場の周りには落ちたフルーツが当たり前のように見られた。　カオスの3つ目は特にひどい。アメリカでは日本に比べて瓶詰の製品が良く売られていた。瓶詰なので落下させれば当然割れて中身が飛び散る。お父さんがアメリカにいた間に何度か瓶詰を落とす瞬間を見たことがあるが、例外なく落とした客は店員を呼ぶことなくその場を立ち去っていった。　そもそもカートに乗せた子供がカゴの中の瓶詰をもって遊んでいても平気でいること自体がおかしい。カートに乗れるぐらいの子供なのでかなりの確率で瓶詰を落下させる。お父さんが何度か瞬間を目撃したのも子供が持って遊んでいるのを危ないと思ってみていたからだ。　最後に改めて言っておきたいが、比較的裕福な地域のスーパーではこのようなカオスはほとんどない。中の下ぐらいの地域のスーパーで発生する出来事だ。理論が飛躍しすぎかもしれないが、このような人が労働者としてモノづくりをしても良いものはできないと心から思う。日本人がいいものを作るのではなく、日本人以外はまともにものづくりができないのではないかと思っている。ちょっと言いすぎかな。　だからお前達には日本人の常識や行動、考え方をきっちりマスターしてから社会に出てほしいと思っている。「日本の常識は世界の非常識」がお父さんの信条だが、「日本の常識は世界のあこがれ」でもあると思っている。まじめさや誠実さに関して日本人よりまともな民族にはいまだに出会ったことが無い。もちろんすべての日本人がそうあるわけではないし、世界には日本人以上にまじめで誠実な人がいる。ただ集団としてみた時にはどの国もお父さんにとって見習いたいとは思わない。

  2020.07.29

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• タバコが安い

  日本にいると当たり前のことだが、世界ではそうでないということが海外に行くと当たり前のようにある。逆に日本の方がおかしいのではと思えてくることさえある。今回はそんなお話。　　通常お店で買ってもネットで買ってもモノの値段というのは同じものであっても異なるのが普通である。だから少しでも安い店をネットで探したり、広告の品を買うために店舗に足を運ぶ。しかしながら日本には全国どこで購入しても値段が変わらないものがいくつかある。　代表的なものが、タバコと本だ。この2つは生産工場の近くだろうと、山の山頂だろうと、観光地だろうと値段が変わらない。　だから本を買うのに店を選ぶ必要は基本的にないし（ポイントがあったりするからすべてとは言えない）、観光地の施設では2倍もしているジュースの自販機の横ではタバコがコンビニと同じ価格で販売されている。　お父さんはこんな日本に24年住んだ後にアメリカに留学した。そしてアメリカではほんの値段が本屋によって違う（本がセール品になっていることもある）し、タバコの価格も店によって違うことを知った。結構衝撃的だった。　本に「20%OFF」と書かれたシールが貼られていたりするのだ。本を大事にする日本人からは考えられないほどの衝撃だった。すぐにはがせるシールではなくべったりとくっついたシールが本の表紙に貼り付けられている姿を想像できる日本人は少ないだろう。　タバコに関しても、店によって大きく違う。お父さんがアメリカに渡った1990年代後半は、アメリカでも今ほどタバコにうるさくなかった。日本では見られない光景だが、マルボロの看板とその日の値段がガソリンスタンドの値段表示のように掲げられている店がたくさんあった。　だから車で走っていてタバコの安い看板を見かけるとそこでタバコをまとめ買いすることが良くあった。1998年のころでマルボロが1カートン（10箱）で10ドル以下のお店がジョージア州にはたくさんあったことを覚えている。　その後ミシガン州デトロイトに移り住んだが、ミシガン州ではタバコの税金が高く、安くても20ドル以上、場合によっては30ドルを超える店もあった。同じ国内で大げさに言えば3倍近い値段差があることにとても驚いた。　デトロイトからアトランタに遊びに来た時に、大量に安いタバコを買ってデトロイトに持ち帰ったことが何度かあった。　タバコも本も常に値段を確認して買わなければいけない国だったが、安く変えた時はうれしかったしタバコは銘柄によって安い店が異なっていたので、何となくそういう店を探しながらドライブするのも楽しかった。　ちなみにお父さんが仕事で行くベトナムもマレーシアもタバコの値段は店によって違う。またイスラム教の国マレーシアのタバコの値段は、ベトナムの3倍ぐらいの価格で日本よりも高い。給与レベルがン本よりも低いマレーシアではタバコは高級品である。　お父さんはお前たちに喫煙者になってほしくはないが、タバコの扱いだけを見ても国の考え方が現れていて面白いと思う。

  2020.07.27

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• ケチャップが通じない

  最近英語の話題を書いているが、今回も英語のお話。日本人が英語を勉強するとき、一番難しいのが発音だと思う。英単語を適当に読んでも相手には通じないのだ。　アメリカ人相手にマクドナルドが通じるようになるのには発音とアクセントを正確に発する必要がある。お父さんは、アメリカで何度もこの発音とアクセントに苦労をして、簡単な英語が通じないという状況を何度も経験している。　一番情けなかったのが、ウォーター（水）が通じなかったことだ。周りにいた日本人のウォーターはあっさりと通じたのに、お父さんの発音だけがなぜか通じなかった。非常に情けない経験で今でもよく覚えている。　大学院時代だからアメリカに住んで１年半以上経っていたにも関わらずお父さんの住んでいた住所「ウエストランド（West land)」が通じなかったこともある。クラスメイトにどのあたりに住んでいると言われて、ウエストランドと答えたらいったいどこにあるのだと不思議そうに言われた。ところが紙に書いて見せた瞬間に「ああ、ウエストランドか」と簡単に通じた。紙に書くまでに１０回以上「ウエストランド」と英語で発音したが３人ぐらいいたアメリカ人には全く通じなかった。　不思議なことにウエストランドという地名をお父さんが正確に発音できていなかったからなのか今でもわからない。というのもその時以外はお父さんのウエストランドという発音は普通に通じたからだ。どうしてあの時だけ通じなかったのか今でもわからない。ちなみにウォーターもその時１回だけ通じなくて、他では普通に通じていた。　さて表題の「ケチャップ」だが、アメリカ人は何でもケチャップをつけて食べると言われるほどなので発音しなければいけない機会が非常に多い単語である。話はそれるが日本人は何でも醤油をつけて食べると言われている。　　ケチャップは英語で書くと「ketchup」だ。そのまま発音すると「ケッチュアップ」になるが、これでもまだアメリカでは通じなかった。相手の発音をそのまま真似した結果、お父さんはケチャップを「キャッチアップ」と発音することで簡単に通じることを覚えた。日本のスーパーで「キャッチアップはどこですか？」と聞いても日本人には理解できないだろうが。　このように英語のスペルに対して正確に発音するより別の言葉として発音すると通じる単語というのはいくつか存在した。だがケチャップ以外は忘れてしまった。残念。使うときがくれば思い出すかもしれないが。　最後に日本語が英語に聞こえるという言葉をいくつか教えておこうと思う。お父さんが日本で学生のころに知った話だが、アメリカで試してみて通じたものだ。　一つ目が、「掘った芋いじるな」である。英語で書くと「What time is it now?」となり今何時か聞くフレーズである。これはほとんどのアメリカ人に通じた。　二つ目が「ハマチ」、「How much?」と値段を聞くときのフレーズだが、買い物での状況で使うせいか、普通に通じた。　三つ目が、「幅ないっすね」、「Have a nice day」と別れの際に「ごきげんよう」とか「良い一日を」という意味でつかわれるが、これもよく通じて笑ってしまった。周りにいる日本人は不思議な顔をするが。　留学時代に友人の子供が日本から遊びに来てディズニーランドへ行き、リトルマーメイドの「under the sea」というフレーズを「あんたたち」と歌っていたのも思い出す。　お父さんの世代では、タモリ倶楽部という番組があり、その中の「空耳アワー」というコーナーで洋楽がおかしな日本語に聞こえるというのを毎週取り上げていたのを思い出した。　語学は通じればどんな覚え方をしてもかまわない。逆に変な覚え方をした言葉というのは意外と一生忘れないものだ。これからの語学の勉強に役立ててほしいと思う。

  2020.07.26

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• 和製英語の弊害

  日本人は外国語をそのまま日本語に組み込むことを昔からやってきている。カタカナという便利な文字を持っていたこともあって、今後もその傾向は続いていくだろうと思う。ただしこの外来語は時に和製の別の言葉や造語となって、外国語を勉強している日本人を悩ます結果になる。　最近では特に英語の日本語への進出が顕著であり、アメリカに留学していたお父さんでも知らない英語が巷にあふれている。お父さんが子供のころから英語をそのまま使うことはかっこいいことであったが、最近はちょっと行きすぎかとも思う。まあ日本語に上手に訳せない言葉が増えたと行くか、上手に訳す能力のある人がいなくなったのだろうと思う。　ちなみに中国語には、日本が西洋の言語から漢字に変換して訳した言葉を中国語に取り入れたものが結構ある。発音は中国語だが、日本語から来ているので意味はそのまま同じことが多い。江戸時代末期に日本人が必死で英語やその他の言語を日本語（漢字の単語）に置き換えてきたという歴史的な産物だという。ちなみに有名なものでは、「電気・電話・自動車・経済・哲学・野球・文化・病院」などがある。本当かどうかお父さんもわからないが、「共産党」も日本人が作り出した言葉という説もある。　さて話を戻すと、日本語はとても便利な言葉である。名刺をつなげていくだけで意味が通じる。例えば「国立」「科学」「博物館」をくっつけて「国立科学博物館」という一つの単語になる。あるかどうかわからないが、「飲酒運転撲滅対策推進協議会」などと言う単語も簡単に作れる。北朝鮮と簡単に訳しているが、日本語でも正式名称は「朝鮮民主主義人民共和国」である。英語では「Democratic People's Republic of Korea」となり一つの単語とは言えない。　このような日本語の仕組みから、英語圏では通じない和製英語が誕生する。「ガソリンスタンド、セルフサービス、フライドポテト」など一見普通の英語に見えるがすべて海外では通じない。正解は「ガスステーション、プリーズヘルプユアセルブズ、フレンチフライズ」である。英語として認識しているので思わず英語の中に混じってしまう。このような失敗談は留学生には日常茶飯事である。　お父さんも「テイクアウト（持ち帰り）」が通じなくてジェスチャーでしのいだり、「レモンティー（正しくはTea with lemmon)」と言って無いと言われたり、細身の人に「スマート（実際は頭のいいという意味、スリムが正解）」といって不思議そうにありがとうと言われたりと結構いろいろ恥をかいてきた。ちなみにいまだに油断すると和製英語が出てしまう。　ちなみに面白いのがアジアの国々では、意外と和製英語が通じたり使われていることである。日本人との交流が伝えたのか、その国でも同じような文化があるのかはわからない。東南アジアの国々を訪問している時に、間違っていると教えられた和製英語が相手から聞こえてくると思わずドキッとしてしまう。　まあ言葉は生き物だから、いつの間にか本家の英語にも和製英語が取り入れられる日が来るかもしれない。ちなみに日本語がそのまま英語として使われているというものは現在では珍しくない。英語で大根はラディッシュだと教わったのに、アメリカのスーパーで「DAIKON」と書いて売っているのを見ると何が正しいのかわからなくなる。そういえばスーパーマーケットも日本語と英語では意図する店が違う。日本で言うスーパー（食料品店）は、英語ではグローサリーストアーだ。　お前たちがこれから生きていく上で、外国語は避けて通れない必修科目だ。いろいろな経験をしながら覚えていってほしい。

  2020.07.25

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  FREEの意味

  お前たちは英語のFREEという言葉を聞いてどういう意味を思い浮かべるだろうか。カタカナでフリーと書けばすでに日本語としても定着している外来語だから悩むことは無いだろう。日本でフリーと言えば自由とか無料とかいう意味で使われている。実際英語でもそうなのだが、そのように思っていると誤解してしまう場合がアメリカではある。今回はその件について書こうと思う。　お父さんもアメリカに留学するまでは、フリーとは自由とか無料としか思っていなかった。日本での使い方と同じで、I am Freeと言えば私は自由だ、Free Drinkならば無料の飲み物で、Free Paperなら無料雑誌という感じで自由と無料で訳していれば特に問題は無かった。 そんなある日、一人で初めて入るマクドナルドに立ち寄った。そこで下のような看板が壁に貼られていた。　さてお父さんがタバコを吸わない人間なら気にもとめないのだが、今でもタバコを吸っているぐらいの喫煙者だ。当時はまだアメリカでもタバコの吸える店は結構あったので、ここはどうだろうと辺りを見回したときに見つけた看板だ。　上のマークは明らかに「禁煙」のマークだ。だが下の英語は「Smoke Free」となり直訳すると煙は自由となってしまう。この看板をみて「禁煙」なのは間違いないのだが、英語の意味が真逆な気がしてとても気になった。　当時持っていた電子辞書でFreeを検索してみたが、やはり自由とか無料の意味しか出てこなかった。　そこで語学学校の先生に聞いてみたら、「Free」という言葉には「無い」という意味もあるとのことだった。辞書に載っていなくてもアメリカ人からしてみれば感覚として「Smoke Free」と言えば、煙のない場所、つまり禁煙の意味としてすぐに理解できるということだった。　これは日本人には大変な落とし穴だと思った。もしマークがなくて、言葉だけで「Smoke Free」と書かれていたらお父さんはためらうことなくタバコを吸ったであろうから。そして場合によっては、店員から「Smoke Freeだからタバコを吸うな」と言われて困惑したことだろう。状況によって「Smoke Freeだから吸ったんだ！」と喧嘩になっていたかもしれない。　今ならタバコを吸っただけで警察沙汰になりかねない。　それからお父さんは少し賢くなったと思う。フリーの意味を一つ覚えたのだから。ただアメリカ人にとっては言葉としてFreeに「無い」というイメージが当たり前にあるということに相変わらず違和感を感じているが。　それからしばらくして、お父さんの日本人の友人がアパートの契約をした。その契約内容がすごかったとみんなの前で話したのが、「アパートの契約書にドラッグフリーと書いてあった。違法薬物を許容しているアパートだから危ない場所かもしれないと。」　お父さんがそれは「薬物禁止の意味だ」というと、「Freeなんだから自由だろ」と口論になりそうになったが、一緒にいた数人が「お父さんが正しい」と言ってくれたので本人も納得してくれた。　まあ国の法律で禁止されているものがアパートで使用して問題ないわけがないとよく考えればわかるのだが。しかしその時一緒にいたメンバーの大半が「Drag Free」の意味を誤解していた。致し方ないことだと思う。お父さんも禁煙マークが無かったら大失敗をしていたかもしれないからだ。　お前たちもフリー（Free）という単語が出てきたら注意して訳してほしいと思う。状況や文脈も含めて判断しないと大きな失敗の元になることを覚えておいてほしい。

  2020.07.24

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• アメリカでの居眠り運転防止策

  アメリカでは一部の都市を除いて自動車を使うことを前提に町がつくられている。そして飛行機を除いては長距離移動もバスか自家用車となっており、高速道路が非常に発達している。ちなみにどこへ行くにもそれなりの道路が整備されているので、「ちょっと買い物」とか「ちょっと食事」で100ｋｍぐらいは平気で走ってしまう。　もちろん最初は100ｋｍも先まで買い物に出かけるなんておかしいと、日本人留学生は考える。東京から100キロというと、静岡県沼津市、山梨県甲府市、群馬県高崎市、栃木県宇都宮市、茨城県水戸市、千葉県銚子市あたりがそうである。日本なら「ちょっと買い物」ではなく「日帰り旅行」レベルの距離だ。　しかしながら半年もアメリカで暮らしていると100キロはやっぱりすぐそこの感覚になってくる。それぐらい道路網が発達しているうえに、郊外に大きなショッピングモールが点在しているのでそれなりの距離はどうしても車で走らなければならない。　買い物で100キロが普通なのだから、ちょっと旅行レベルだと平気で1000キロぐらいはドライブする。お父さんも住んでいたアトランタからフロリダのディズニーワールドまで旅行に行ったが、やはり1000キロぐらいの距離を運転した。　１回の運転で最も長く運転したのはアトランタからデトロイトで約１２００キロほどだ。アトランタとデトロイトは３回ぐらい往復している。その他アトランタからルイジアナ州ニューオーリンズ、サウスカロライナ州チャールストン、デトロイトからシカゴは何度も行ったし、デトロイト⇒ワシントンDC⇒ニューヨーク⇒ナイアガラフォールズ⇒トロント⇒デトロイトのようなラウンドトリップも車で走り続けた。　さてロングドライブも何人かで走れば交代しながら行けるのでそんなに大変ではないが、お父さんの場合は一人で走ることが多かった。だからどうしても眠くなってくる。高速道路をひたすら１２０キロぐらいで走り続けるのだ。デトロイト⇒アトランタはノンストップで約１２時間だ。実際はもっとかかった記憶がある。眠くならないわけがない。　これが日本の高速道路ならパーキングエリアやサービスエリアに止めて仮眠をとることができるが、アメリカでは一人で夜間にパーキングで仮眠をとるなど怖くてできない。いつ強盗に襲われるかわからないからだ。高速を降りて街の明るいところで寝ることもできるかもしれないが、知らない町のどこが安全な地域かわからない状態では結局同じことだ。　お父さんも最初はガムを噛んだり、大きい音でカーステレオで音楽をかけたりしたがやはり眠いときは効果が限られてくる。　ところがある時、車で出張に行く機会が多いという会計事務所で働いている人から居眠り運転防止の究極の方法を聞いた。早速実践してみたが確かに一気に眠気が覚める方法だった。ただアメリカならではで日本ではやる気にならないが。　その方法とは、「ペットボトルの水を大量に準備しておいて眠くなってきたら背中に水を流し込む」というものだ。水はクーラーボックスなどで冷やしておくとより効果的だが、常温でも十分に目が覚める。１０００キロ以上走るときはお父さんはペットボトルの水を３Lぐらい準備して背中に流し込みながら走った。　もちろん服も、パンツも、車のシートも水にぬれる。だが居眠り運転で事故を起こすよりははるかにましだ。　ちなみに日本で一度試してみたが、不思議なもので濡れた服やシートが気になって２度とやる気にはなれなかった。やはりアメリカの大陸的な雰囲気がこのような大胆な行為を精神的に許容するのだろう。　まだ免許も持っていないお前達だが、どうしても運転を続けなければいけないときはやってみるといいかもしれない。親としては、安全を心がけて仮眠をしっかりとってほしいと願っているが。

  2020.07.23

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• ガソリンスタンドの物乞い

  お父さんが子供のころには、縁日や駅前の地下などに物乞いの人がいた。基本的にこのような人たちはござをひいてその上に座り、ござの前にお金を入れる何らかの入れ物を置いてあるのが普通だった。中には歌を歌ったり楽器を使う人たちもいたが、今のストリートミュージシャンとは明らかに違っていた。　アメリカ留学時代に出会った物乞いは、首から段ボールの板を吊るして、「薬を買うお金がありません。」とか、「パンを買うお金をください。」などと書いて道行く人にアピールしていた。ちなみによくアメリカ人に、ああいう人にお金を渡してはいけないよと言われていた。理由はお金を渡すと酒か違法薬物を買うことに使うからというものだった。だからパンとか飲み物などの現物支給ぐらいにしておきなさいというアドバイスを受けたこともある。　これ以外のスタイルとしては、交差点で待機していて車が赤信号で止まると勝手に窓を拭いて、信号が変わる前にお金を要求するスタイルが結構あった。このスタイルの物乞いの人にはお金を渡している人を結構見かけた。お父さんは怖いので窓を拭かれてもお金を上げたことは一度もないが。　さてこのようにいろいろなスタイルの物乞いがいる中で、お父さんは基本的にお金を出したことがない。慈悲の心が無いというわけではない（あるとも言えないが）。近づくのが怖かったのだ。だがあるスタイルの物乞いにだけお父さんはお金は渡さないが現物支給をしていた。　それが「私の車にガソリンを入れてください」という物乞いだ。今では日本でも当たり前にセルフサービスのガソリンスタンドがあるが、お父さんがアメリカに留学した当時は日本にはフルサービスのガソリンスタンド（店員がガソリンを入れる、窓を拭くなど）しかなかった。　だから初めてアメリカで自分でガソリンを入れた時はとても緊張した。基本的にすでに車を持っている人についていってもらって教えてもらうのが、留学生の一般的な初給油方法だったと思う。　さて、セルフのガソリンスタンドでは先に現金もしくはカードを入れて給油をスタートする。給油が終わって投入現金が余るとおつりとして返してもらうシステムは今の日本と変わらない。　ここで給油している最中、つまり車にガソリンを入れていてその場から動けない状態で物乞いが寄ってきて「俺の車にガソリンを入れてくれ」と言ってくるのだ。すぐに車に乗って逃げられない状態なので非常に怖い。　ちなみに留学した語学学校でお父さんはガソリンスタンドに現れる物乞いには基本的に逆らわないようにと注意を受けていた。断ると強盗に変わる物乞いもいるからとのことだった。　お父さんがガソリンスタンドで物乞いに対応するときの手順は、物乞いが話しかけてきたらとりあえず「OK」と承諾する。ガソリンを満タンにした後に、そのまま給油用のノズルを物乞いに渡して残りをあなたにあげると言って、おつりをあきらめて大至急車に乗って逃げるというものだった。　ノズルを渡されると物乞いのほうが動けなくなる。なにか文句を言ってくるときもあったが3年アメリカにいたうち、両手に余るくらいは物乞いにガソリンを与えたと思う。　物乞い生活をしているのに車を持っているということに、アメリカの偉大さを感じる出来事だった。ガソリンスタンドに物乞いがいる。ガソリンを要求する

  2020.07.22

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• 映画館での驚き

  最近映画館で映画を見ることがほとんどなくなってしまった。インターネットで見れるようになったことも大きいが、そもそも映画館で見たいと思う映画が無くなってしまった。　　アメリカ留学時代はよく映画を見に行っていた。集中できるので普段テレビを見るより英語が理解できると言う語学の勉強という側面もあったが、アメリカでは映画の値段が安かったことも大きな理由だ。　　お父さんが学生のころは日本の映画は１本が1,200円～1,500円ぐらいだった。今では1,500円から2,000円ぐらいかかる。非常に高い。家族5人で映画に行って、飲み物やポップコーンなどを買うと1万円を超えてしまう。　アメリカではすべてが安かった。学生だったので昼間に映画館に行くと安い映画は3ドルぐらいで見れたし、通常の料金でも5ドルから8ドルぐらいが普通だった。こんな値段でちゃんと利益が出るのだろうかと不思議に思ったものだ。　そもそもアメリカではフラッと行って、フラッと見るぐらいの感覚で映画を見ていたように思う。今ではどうかわからないが、それぐらい映画は身近なものだった。出かけた先で時間が空いたので喫茶店でコーヒーを飲むのに近い感覚で「映画でもみるか」と映画館に入ったことが結構ある。　さて、日本では映画館では周りに迷惑にならないように「静かに」観ることが当たり前だ。笑ったり悲鳴が出ることはたまにあっても基本的に映画間では静かに干渉している。ところがお父さんが経験したアメリカの映画は、アクションシーンでかっこよく決めると口笛を吹いたり、歓声を上げたりと結構うるさくしても問題ない雰囲気だった。遊園地のヒーローショーを見る子供の様に映画を楽しんでいた人が多かった。　100年後でも日本でこのような現象は起きないだろうと思う。また今のアメリカでこれほど人気が出る映画があるのかとも思う。アメリカで経験したとても楽しく忘れられない思い出の一つだ。　一番驚いたのは、映画終了後にスタンディングオベーションをすることだった。ほとんどの映画では日本と同じように上映が終われば何もせずに立ち上がって劇場を出る。ただし最高に面白くて盛り上がった映画では、観客が立ち上がって拍手をするのだ。演劇や講演会ならわかるが、映画でこれを初めて見た時には本当に驚いたが、お父さんも周りに合わせて立ち上がって拍手をした覚えがある。　ちなみに初めてスタンディングオベーションをした映画はディズニーの「トイストーリー２」である。上映中も観客は大爆笑を続けていて、お父さんも雰囲気に乗せられて興奮しながら見ていた。映画が終わった瞬間、スクリーンに向かって8割以上の人が立ち上がり拍手をしたり、口笛を吹いたりとまるでそこに出演者がエンディングの挨拶をしているのかと錯覚するようにスタンディングオベーションをしていた。これは日本では絶対に見れないと文化の違いを感じたが、とても楽しい経験だった。　もう一つスタンディングオベーションを経験した映画が、「スターウォーズ・エピソード１」だ。アメリカでは当時、封切前から大騒ぎしていた。お父さんがホームステイしていた家の長男は、封切当日の初回のチケット（深夜0時過ぎ）を手に入れて何日も前から大興奮していた。　そしてかれは、チケットをとるためあちこちに手をまわしていたらしく封切後3日目ぐらいのチケットをお父さんにプレゼントしてくれた。お父さんは興奮してスターウォーズを見に行った。見に行く前にスターウォーズの前3作を見直したりして予習も欠かさなかった。　映画館に入ると、スターウォーズの仮想（今でいうコスプレ）をしている人がたくさんいてとにかく盛り上がっていた。映画が始まりキャラクターや役者が映し出されるたびにものすごい歓声が上がった。後にも先にも映画でこれほどすごい歓声は聞いたことがない。アイドルグループのコンサートで熱狂的なファンに囲まれたらこんな感じなのだろうか。　そして最後のスタンディングオベーションを楽しんだ。いつまでも拍手が鳴りやまず、放送で「退出してください」と流れるぐらいの盛り上がりだった。映画が安い　スタンディングオベーション

  2020.07.21

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• 留学前後で決定的に変わったこと②

  先日「留学後に決定的に変わったこと」というエントリを書いた。これは「芸能界がわからなくなった」というのが主題だったが、今回はお父さんが人間的に変わった部分を書いていこうと思う。　まず「口約束」というものを全く信用しなくなった。アメリカでは口約束は破っても全く問題にされない。いや本人が約束したことを認めれば問題にされるのだが、破った本人は絶対に「そのようなことを言ったことは無い」と否定するか、「そういう意味で言ったのではない」と話の内容をすり替えるかのどちらかがほとんどだからである。　証拠がない上に約束を破った本人が否定しているのだから水掛け論である。どんなに頑張ったところで相手は絶対に謝らない。そして基本的にアメリカ人もその他の外国人もそれが当たり前の文化の人のほうが多いと知ったからだ。　お父さんがベトナムで仕事をしていて、お父さんの上司が口約束をしたことを破られたことについて憤慨しているのをよく見る。お父さんにとっては２０年前にアメリカで体験したことを、この人は今体験しているのだなとみなすだけである。　お父さんはアメリカ留学後半から、およびアメリカから帰国してから大事な約束や契約は必ず相手が納得したという証拠をとるようになった。ビジネスではもちろん契約書、メールにしても言い逃れができないぐらい具体的な内容にし、且つそれに了承したという相手の返事をきちんと入れてもらうことにしている。　電話でなにか約束しても、内容をメールするので「了承した」という返信をもらうようにしている。友達同士などの軽い口約束は基本的に「守らなくて当たり前」と思っているのでお父さんも本気で対応はしないようにしている。　そして口約束で守らせなくてはならないものに関しては、基本的に第３者に承認になってもらうようにしている。その人が関係者でも関係者でなくても、約束を確実にしたことを証言してもらえるようにする。更に破った時のペナルティやお父さんがどのように対応するかもきっちり話しておく。　文章にすると、人を信用しない「人でなし」のように思えるかもしれないが、日本のように口約束も約束のうちという信頼の文化で生きてきている人たちは、言った言わないの討論になった時に必ず負ける。　口がうまくなれば勝てると思ったら大間違いだ。生まれたときからウソや言い訳をためらいもなくしている民族にちょっと勉強したくらいでは絶対に勝てない。上記のように明確な証拠があったとしても約束を破った上に、言い訳をして謝らないのが外国の基本的な文化なのだから。　ちなみにお父さんがアメリカ留学中にこのような話をした時にお父さんのお父さん（お前たちのおじいちゃん）は、お父さんが英語ができないから、頭が悪いから騙されるだけだとバカにしていた。そんなおじいちゃんがここ１０年ぐらい海外でだまされては激怒しているのをみてお父さんは内心で笑っている。　もう一つ決定的に変わったことは、あいまいなことを言わなくなったことだ。できるだけ具体的に誤解が発生しないように話をするようになった。どちらともとれるような発言はしないし、わからないことや認めないことは絶対にそのまま伝える。　よく日本人は、「わかりましたか？」と聞かれるとわからなくても「はい」と答えたり、「だいたいわかった」とか「何となくわかった」などお父さんからしてみればウソもしくはあいまいな答えをしている。このような答えをしていると最後に自分が責任をとることになる。　お父さんも散々痛い目に合ってきた。それからわからないことはわからない、それは違うと思ったら違う、承認できないことは承認できないとすべてはっきり言うようになっている。　相手が日本人でも基本的にこのやり方は変わらない。その結果、上司や取引先の人に嫌な思いをさせるときもあれば、怒らせることもある。それでもあいまいな答えをして後からやってくるトラブルや苦痛に比べれば軽いものだと思っているので基本的にお父さんは気にしていない。　お父さんの部下にはこれができずに（お父さんがはっきり伝えろと指示したとしてもできない）後から大きなトラブルを抱え込むことになるのをよく見かける。外国人は基本的にビジネスの場に関して相手の立場を考慮したりしない。　唯一違うのが、家庭的な付き合いをするように相手に思いやりをかける状況になった時だけだ。　お父さんはアメリカから帰国して、口約束を信じなくなり、物事を肯定するにしろ否定するにしろはっきりと言うようになった。海外の人とはそれでとてもうまくやっている。日本人には評判が悪いことが多い。ただしビジネス上では日本でも問題にならない。　日本はひたすら相手の立場を考えて発言をするが、世界中でそんなことをするのは日本人だけである。お父さんのようになれとは言わないが、騙されたら騙された人が悪いというのが世界のスタンダードだということをよく覚えておいてほしいと思う。

  2020.07.20

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• 留学前後で決定的に変わったこと

  お父さんがアメリカに留学したのは1998年の6月から2001年の6月までの3年間だ。当時は今のように日本とSNSでつながったり、Youtubeで日本の情報を得ることなどなかなかできない状態だった。インターネトは基本的にアナログの電話回線だったし、携帯電話もお父さんはもっていなかった。　　そんなわけで日本の情報は殆ど知らないままに、3年間をアメリカで過ごしてきた。その結果、日本に帰った時には、3年間の日本の情報は殆ど持っていない状態だった。そんな中でも今回は流行や芸能の情報についての空白がその後に及ぼした話を書こうと思う。　お父さんが話として知っていて、実際の日本の状況をまるで知らないものが大きく２つある。一つが当時「ヤマンバギャル」という肌が黒く、化粧がネイティブアメリカンのようなというか、とにかくどこかの国の原住民のような容姿が流行ったというもの。実物を日本で見ることはできなかったが、アメリカにいて日本で一体何が起きているのかと不安になった。　もう一つが、「だんご三兄弟」という歌が相当流行して、日本中の子供達がだんご（それも3個さした串）を食べていたというものだ。町中でだんご三兄弟の歌が聞こえない日は無かったというほどはやったらしい。お父さんも当時ネットで聞いたが、なぜ日本中を巻き込んだ流行になったのかはアメリカでは全く想像できないかった。　お父さんがアメリカから帰国した2001年には、これらの流行はとっくに終わっていたので、日本人でありながらこの2つについては外国人と同じでいまだに知らない、というか印象が極端に薄い。　さて今回タイトルにした決定的に変わったことの芸能分野とは、「帰国したら売れている歌も芸能人も留学後に出てきた人たちが全く分からなかった」というものである。3年間売れ続ける芸能人というのは意外と少ない。完全に消えることは無いにしても、一番盛り上がった時期を知らないと印象に残らないものなのだ。　帰国当時はテレビに出てくる知らない顔を見ては、「これは誰？何をする人？」とひたすらに聞き続けたがいまだにその時代の人は頭に入っていない。　そして留学前は、最新の曲を覚えてはみんなでカラオケで歌っていたのだが、帰国した時には3年間の流行曲を全く知らない。だからカラオケに友達といっても彼らが歌う曲を全く知らない状態が続いた。お父さんの歌う曲はすべて3年以上前の曲である。　普通なら帰国後の曲はまた覚えたのだろうと思うかもしれないが、社会人になったこともあってか新曲を熱心に聞いたり、音楽番組を見るということが帰国以降ほとんどなくなってしまった。だから2001年以降に流行した曲は、よほど人気になった曲をのぞいてはいまだにほとんど覚えていない。　3年というのは意外と長いものだと当時を思い返すと感じる。それでも今、年の半分を海外で過ごしているにも関わらず、日本の情報はパソコンでも携帯でも常に確認できるので、話についていけないということは全くない。　これからの留学生はネット環境さえあれば、お父さんのように空白期間を作ることは無いだろう。時代の進化とはすごいと思う。

  2020.07.16

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• アメリカの暴動を見て思うこと

  お父さんはアメリカに3年間留学していた。最初の1年半はジョージア州アトランタに、後半はミシガン州デトロイトで過ごした。だから普通の日本人よりはアメリカと言う国を知っていると思う。　社会人になってからもアメリカに出張したりしているが、出張で行く町、ホテル、会う人はそれなりのレベルであり、留学生のころと違ってそれなりの人としか会う機会がない。今になって振り返ると留学はとても貴重な体験だったと思う。　さて連日テレビを賑わしているアメリカのデモ？暴動？については結構思うところがある。世の中の論調はすっかり「差別された黒人が、白人の警官に殺された」ということになっている。死亡した黒人が偽札を使用した容疑で捕縛されていたという話は全くと言っていいほど聞かれなくなった。　お父さんが経験したアメリカにおいて、警察官は常に命がけである。日本では警察官が殺されると少なくとも全国版で報道される大ニュースである。しかしながらアメリカでは警察官の殺害は地方ニュースレベルのよくある出来事なのだ。　銃の個人所持が認められているというだけでなくアメリカでは刃物を持ち歩いている人も普通にいる。アメリカでは犯罪者が警官に反撃することは珍しいことではない。だから警官も過剰防衛と言われようとすぐに発砲する。少しでも怪しい動きをしたら撃たれても文句は言えない。これはお父さんがアメリカの語学学校に入学した時に留学生に対して説明を受けた内容である。　ちなみに犯罪者に遭遇した時も同じ対応（不審な動きをするな）をするように言われた。　今回のきっかけになった事件は後から見れば過剰防衛かもしれない。少なくとも映像を見る限り亡くなった黒人はきっちりと押さえつけれれており、抵抗しているようには見えない。しかしながら押さえつけられている場所がパトカーの真横であり、ちょっと考えると逃亡しようとして押さえつけられたのではないかとも思える。逃げようとしたのであればあのような取り押さえ方も致し方ないのではないだろうかと思う。　上にも書いたがちょっとでもスキを見せれば反撃される恐れがあるのがアメリカと言う国だ。日本と同じに考えるのは間違っている。警官もそれなりに必死で押さえつけていたと思う。体格的にも明らかに黒人のほうが白人警官よりも大きい。　そしてもう一つ問題なのが、今回の騒動に対してデモや抗議活動を行うのはアメリカ国民の権利だと思うが、暴動と略奪をしている時点でお話にならない。これは多くの日本人が感じていることだと思う。社会的な不満が爆発したようなことをマスコミは言っているが、政治的に暴動をあおる人間がいて、また暴動や略奪の機会を楽しみにしている市民が一定数いるのだ。　デモが警官隊と衝突するだけなら致し方ないともいえるが、商店を襲ってモノを盗んでいる時点で抗議活動とは全く関係ないものとなっている。そしてアメリカで暴動をおこし、略奪をするのが黒人とヒスパニックなのだ。彼らは相対的に貧しい生活をしている。しょうがないのかもしれない。　それでも今回の暴動でまた黒人やヒスパニックに対してのイメージは悪くなっていることだろう。　お父さんもアメリカ時代に黒人の犯罪をたくさん見てきた。アトランタでは年に一回黒人のお祭りがあるのだが、この時はダウンタウンに降りる高速道路のランプはすべて閉鎖され、商店はシャッターを下ろし、留学生にも絶対にダウンタウンに行くなと強く指示が出る。　破壊行為やレイプが日中の街中で当たり前に行われるからだ。　お父さんもスピード違反をして警官から銃を向けられたことがあるが、冷静に警官の動作を考えるにかなり警戒してお父さんに近づいてきていた。東洋人というだけでも警戒されるのだ。黒人への警戒は至極当然だと思う。　夜街中で黒人が集団でいるのを見て道を引き返したことも何度もある。お父さんの杞憂なのかもしれないが、彼らはそれだけの雰囲気を持っている。これをもって差別だと言われるならば、お父さんも差別主義者である。　日本人にはなじみのない考え方であるが、やられる前にやるのが西洋の普通の考え方である。だから「ミサイルを撃ち込むぞ」と言われただけで、戦争をする大義名分に十分なってしまうのだ。北朝鮮がやっていることは自殺行為に等しいと常に思っている。　　「日本の常識は世界の非常識」、これは良いことであれわるいことであれお父さんが今まで海外で生活してきて確信している言葉だ。　お前達がこれからどので何をして生きていくのかわからないが、海外に出るときはその国の常識をよく勉強していかないとひどい目に合うことがあるということを覚えておいてほしい。

  2020.06.04

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• アメリカンハンティング

  今回のお話は、お父さんがミシガン州で大学院生活をしていた時のお話。西洋人と日本人の考え方にとても違和感を覚えたので書いてみたいと思う。　ある日大学へ行き車を駐車したところ、隣にクラスメイトの特徴あるRVカーが止まっていた。色が黄色だったのでよく目立つ車だった。何気なくそのクラスメイトの車に目をやると、屋根から窓にかけて真っ赤な血がついていた。　お父さんはびっくりして屋根の上を見たが、血だまりが小さくあるだけでそれほど量は多くなかった。それでもお父さんはクラスメイトが何かを跳ね飛ばしたのかと思い少し怖くなった。教室に入って件のクラスメイトを見つけて話しかけてみた。　お前の車に血がついている。屋根から滴るようにくっついていると話をすると、彼は得意げに「鹿の血だ」と答えた。どうやら前日にハンティングに行って鹿を仕留めたようだった。自慢げに携帯の写真をお父さんに見せてくれた。そこには結構大きな鹿が足を吊るされてその横でクラスメイトが笑顔でポーズをとっている姿が写っていた。　考えてみれば、アメリカでは日本以上にハンティングが盛んだ。ハイキングなどで山に入るとけっこう頻繁に猟銃を打った後の薬莢（ヤッキョ）が拾える。こんなところを歩いていて撃たれないだろうかと心配になるほど普通の出来事だ。　話を戻していく。お父さんはクラスメイトに「打った鹿はどうしたのか？食べるのか？毛皮はどうするんだ？」と言った感じでどう処理したのかを聞いてみた。すると彼は、鹿狩りは許可されているが獲物を持ち帰ることは法律で禁止されている。だから所定のオフィスに持ち込んで獲物は老いてくるだけだとのことだった。病気などの恐れがあるので一般人は鹿を射止めても自分で処理することは許されないらしい。　では何のためにハンティングをするのかというと、スポーツ感覚だ。銃で鹿を打つのはとても楽しいらしい。お父さんもやってみるかと誘われたが、銃を買ったり所持することへの抵抗感と、殺した鹿を食べもしないで処分することへの嫌悪感で断った。　ここからはお父さんの偏見が多分に混じっているが、白人の文化では生物の命を遊びで絶つぶことをあまり躊躇しない。鹿のハンティングを楽しむことはただのリクリエーションもしくはスポーツであり、殺すことに対する罪悪感は無いように感じる。メインの宗教であるキリスト教の考え方も影響しているのかもしれない。キリスト教では人間は特別の存在であり、その他の生き物とは異なるからだ。　釣りでもそうだ。お父さんが子供のころは釣りで食べられない魚を釣るという概念はほとんどなかったと思う。釣り上げた魚が食べられなかったり、小さすぎてかわいそうと思えばリリースすることはあったが、釣りたいだけで食べるつもりがない釣りというのは存在しなかった。　それがルアーフィッシングが流行るようになり、ブラックバスなどが大量に日本の川や湖に放流されてキャッチアンドリリースをする釣りが定着していった。お父さんがアメリカでよく論争をした中に、食べもしない魚を遊びで釣ることの方が食べるために釣るよりも罪が深いのではないかというのがあった。　アメリカ人のほとんどが、命を奪う釣りよりも釣ったら逃がしてやる釣りのほうが魚にやさしい釣りだと答えた。そもそも彼らのほとんどが、魚はスーパーで買うものであり自分で釣った魚を食べるなんて気持ち悪いという意見だった。　ずいぶん勝手な意見だと今でも思っている。だが彼らにしてみれば当たり前の意見であり、お父さんのように釣った魚（ハンティングの獲物）を自分でさばいて食べるほうがよっぽど残酷と感じるようである。文化や習慣の違いとしか言いようがない。　今の世の中で環境保護や動物愛護を言い出すのはほとんど白人たちである。しかしながら彼らはスポーツとして鹿を撃ち、スポーツとして釣りをする。それでいながら食べるために飼育する動物は自然から遠く離れた環境で育てられてかわいそうだと言う。お父さんの感覚からすれば「バカも休み休み言え、つきあっていられるか！」だが、そのうちにこの考えは世界中に広がっていくだろう。捕鯨と同じように。　そもそも捕鯨だってそうだが、白人は鯨からとれる油（鯨油）をとるためだけに鯨を殺していた。肉も何も油をとった後は海に捨てていたのだ。日本人やその他の鯨を食文化に持つ国は、油だけでなく肉も骨もひげも皮も余すところなく利用していた。　それでも鯨をとる日本人が野蛮で、過去の自分たちの行いを一切顧みずに自分たちは動物愛護の素晴らしい人間だと豪語する。　お父さんは3年間アメリカに住んで文化もそれなりに学んだが、最後まで納得することのなかった白人の考え方の一つが、彼らの言う「動物愛護」や「環境保護」だ。お前たちが将来何を考えて生きていくかわからないが、白人の言うこれらの理屈が納得できたら是非お父さんにも説明してほしい。

  2020.05.20

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• アメリカでのマス釣り

  先日緊急事態宣言解除を受けて、久しぶりに釣りに行ってきた。また外だし3密にも当たらないので緊急事態宣言中も釣りをしている人は多かったようだが。釣果はいまいちだったが、一緒に行った同僚が大物を釣り上げてちょっとした騒ぎになった。　今日は釣りに関してアメリカ時代に行ったマス釣りの思い出を書こうと思う。マス釣りといってもたまにテレビでやるようなサケかと思うような大物を狙うのではなく、日本の渓流釣りでもおなじみのニジマス釣りだ。　お父さんが行ったジョージア州での渓流釣りは、養殖されたニジマスを釣り用に放流された川で行うものだった。なので放流された直後がたくさん釣れてその後は徐々につれなくなっていき、また放流されると釣れるというサイクルがあるそうだ。　　釣りが好きな人は情報網を持っていて、いつ放流されるかをちゃんと知っていて釣りの日程を決めているようだったが、お父さんはそこまで思い入れが無かったので誘われるままに釣りに行ってきた。道具も誘ってくれた人から借りて釣りをした。　さてアメリカで渓流釣りをする際に一番重要なのは道具でも餌でもない。それは「ライセンス（入漁券）」だ。これを持たずに釣りをしているところをパトロール中の警官に捕まると多大な罰金を取られるらしい。だから「釣りに行く」というと、「ライセンスは買ったのか」と必ず聞かれるくらいアメリカではライセンス購入が必須である。　ライセンスはウォルマートや釣り場近くの釣具屋で普通に売られているので、入手がめんどくさいとかはない。釣り餌を買うついでにライセンスも簡単に購入できる。　ちなみにお父さんが当時住んでいたジョージア州では、ルアーで釣る場合と餌で釣る場合でライセンスの料金が異なり、ルアー釣り（疑似餌釣り）のほうが料金が高かった。餌釣りは基本的に魚はお持ち帰り、ルアー釣りはキャッチアンドリリースなのにどうして餌釣りのほうが安いのか謎だった。　日本の釣りではニジマスは、イクラ、ブドウ虫などが餌として売られているし、好きな人は川の石の裏などに張り付いている虫を餌にすることもある。　アメリカでお父さんがやったニジマス釣りの餌は3種類、缶詰のコーン、イクラ、生きたコオロギである。誘ってくれた人の言葉では、コオロギ、イクラ、コーンの順で釣れるとのことだった。コーンの缶詰で本当に釣れるのか疑問だったが、それなりに釣れた実績があるとのことだった。　お父さんはせっかくの釣りならば釣れる確率が高いほうが良いので、迷わずに生きたコオロギを選択した。しかし釣具屋で釣り餌としてカゴに大量に入ったコオロギはさすがにグロかった。　餌として針に刺すときもちょっとした心の痛みを伴ったことを思いだす。海釣りで使うイソメなども生きているが、コオロギはイソメよりも罪悪感があった。　結局この日の釣りはコーンを餌に選択した人は一匹も釣れず、コオロギで釣ったお父さんともう一人が1匹ずつという結果に終わった。帰宅して参加メンバーとバーベキューをしたが、本来釣った魚だけで行うはずだったが、釣果が悪かったのでスーパーマーケットで材料を買い足して実施した。　釣れたニジマスがとても美味しかったのを覚えている。日本でもコオロギを使って釣りをしたらそれなりに釣れると思うが、コオロギを集めるのがめんどくさいので一度もやったことがない。お前たちがコオロギを集めてきたら、やってみたいとは思っている。

  2020.05.19

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• 写真を見ても

  お父さんのGW断捨離生活が始まった。まずは自分の持ち物を整理し始めた。そしてすぐに中断してしまった。アルバムが出てきてしまったからだ。高校時代の写真とか見ていると「思えば遠くへきたものだ。」と本当に思う。　写真とは大きな力を持っている。普段忘れている過去の出来事を一つの写真が鮮明に思い出させてくれることがある。東日本大震災の後、写真を取り戻したいと言っていた被災者の気持ちがよくわかる。がれきの片づけをした人たちが、写真を最優先で回収したというのもうなずける話だ。　さて今回お父さんの片づけを中断させた数々の写真だが、アメリカ留学時代の写真はちょっと上に書いた話とは違うことがあった。写真にはお父さんが移っているので間違いなくその場にお父さんがいたはずなのだが、写っている場所にも人にも思い当たることが無いのだ。　写っている人の名前が思い出せない写真はいくつもある。でもこの人いたなあとは思う。単純に名前が思い出せないのだ。特に語学学校時代の写真はクラスメイトだと最短で2か月しか一緒にいない。だから20年も過ぎてしまった今となっては名前が思い出せないのも致し方ないと思う。　でもある写真はこんな人いたかなとまるで思い出せないものがいくつかあった。ここはいったいどこだろうという写真もあった。家を新築した時に実家から持ってきた写真で、その当時見た時にはこんな不思議な思いはしなかったはずなので、この10年の間に完全に忘れてしまったのだろうと思う。これはとても怖いことだと思った。　あと10年したらきっとさらに思い出せない写真が増えるのだろう。もともと記憶力が良い方ではないが、今回全く思い出せない写真にショックを受けてしまった。確実に老化が始まっていると感じさせる出来事だった。　断捨離とは全く関係ない話かもしれないが、今日一番の衝撃だった。

  2020.05.02

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• 本場が一番とは限らない

  先日カレーについての話を書いた。お父さんはカレーは大好きだが血糖値には最悪だという話だ。この話を書いていてもう一つ思ったことがある。お父さんを含めて日本人がカレーといえば日本風の茶色いカレーのことだ。しかしお父さんは日本のカレーも大好きだが、タイカレーも大好きだしインドカレーも大好きだ。　タイカレーの辛さ、ココナツミルクの風味など日本のカレーとはまた違ったおいしさがある。お前たちはまだ美味しいとは思わないようだが、お父さんもあるときまではタイカレーを美味しいと思ってはいなかった。タイカレーを美味しいと思ったのは「初めて本場のタイで食べた時」といいたいところだが違う。学生時代にタイで食べた時はあまり美味しいとは思わなかった。　ではどこで食べた時からタイカレーが好きになったかというと、アメリカ留学時代だ。お父さんがミシガン州で大学院生だった時、住んでいたアパートのすぐ近くにタイカレーのお店があった。テイクアウトもやっていてお父さんはよくそこのタイカレーを買って食べていたのだ。　アメリカ人の食事は結構油や塩や砂糖がきつい。そのようなものばかり食べていると日本食が恋しくなるのは海外在住者の共通点だと思う。ただし常に近場に日本料理やがあるとは限らない。日本人が日本食の次に行きがちなのが中華料理屋だ。ただし中華料理も意外と油を多く使っている。中華もダメならアジア料理の店が次の選択肢だが、ここでお父さんに目をつけられたのが先ほどのタイカレーのお店だ。　テイクアウトでタイカレーを買って、家で炊いたご飯と一緒によく食べていた。アメリカ料理に飽きた舌にはタイカレーがたまらなく美味しく思えた。以来お父さんはタイカレーが大好きになった。そんなに美味しいと思わなかったタイカレーだが、その後は日本でもタイでもマレーシアでも食べているがどれもとても美味しく感じている。本当に不思議なものだと思う。　ちなみにインドカレー（ライスではなくナンで食べる）も最初に美味しいと思ったのはマレーシアで食べた時だ。本場のインドにはまだ行ったことがない。ただマレーシアにはインド系の住民がたくさんいるのでそんなに本場インドと異なる味ではないのではないかと思っている。　インドカレー屋で飲む「ラッシー」という甘いヨーグルト飲料のようなものも非常に美味しい。カレー、ナン、ラッシーを食べているととても幸せな気分になれる。もちろん炭水化物と糖質のオンパレードなので血糖値には非常に悪いのだが。　そんなわけでお父さんは本場でないところでタイカレーやインドカレーのファンになった。日本食でも同じような経験をしたことがある。　お父さんんはお酢で〆た魚（しめ鯖など）を昔はそれほど美味しいと思っていなかった。ところがある日をきっかけにしめさばがたまらなく好きになった。そしてその場所はベトナムの日本料理屋である。一緒に行った同僚と食べたしめさばがとても美味しく感じたのだ。新鮮だったわけでもその店の看板メニューでも何でもない。　それ以来、どこで食べてもお父さんはしめさばが美味しいと思うようになった。しめさば以外でもすお酢と魚を組み合わせた料理全般が美味しいと思うようになってしまった。本当に不思議なものだと思う。　お父さんと同じ経験をお前たちがするかはわからないが、人間の味覚はいつ変化するかわからない。美味しくない、嫌いと思っている食べ物でも常に口に入れるようにしていくことをお勧めする。ある時から急に美味しくなる時があるから。　本場とか新鮮とか高級とか一切関係が無いのは今回のお父さんの経験を読めばよくわかると思う。

  2020.04.23

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• 日本の蚊とアメリカの蚊

  お父さんは日本で蚊に刺されてもすぐにかゆみやハレが引いてしまう。お前達やお母さんは残念ながらお父さんとは異なり結構長いことかゆみも刺された痕も残るのでいつも気の毒だと思っている。お父さんは昔から蚊がうざくて嫌ではあったが、刺された後にあんまり悩むことはなかった。　ところがアメリカに行ってすぐ、お父さんはお母さんやお前たちの苦悩を実体験することになった。お父さんが渡米したのは6月、滞在先のジョージア州でも蚊がたくさん飛んでいた。お父さんが主に刺されたのは日本にもいる黒と白のシマシマの柄の蚊で、ヤブ蚊（ヒトスジシマカ）と呼ばれるものに似ている蚊がほとんどだった。　サイズが日本のものよりやや大きいというのもいればすごく大きいのもいた。　アメリカで蚊に刺されても、お父さんはこれまで通りにすぐに元に戻ると思って気にしていなかった。ところが夜寝ているうちに搔いてしまう。少し膿見ないなものが出るようになり、その痕は1か月以上消えなかった。　足首周りや腕が蚊の痕で結構ひどいことになったのをよく覚えている。しかしながら翌年以降日本に帰国するまで渡米直後のように蚊の痕に悩まされることはなくなった。良い薬を見つけたわけでもなければ医者に通ったわけでもない。勝手にそうなっただけだ。　　つまり免疫というか耐性ができたようだった。これと同じことがベトナムへ行き始めた時にも起きた。最初の1年ぐらいは蚊に刺されるとすぐに赤くはれてかゆみも取れないし、蚊の痕も長い期間残っていた。しかしながら今では蚊に刺されてもすぐに治るようになっている。　お父さんの体はどんな蚊にも負けないわけではなくて、新しい種類の蚊に刺されると負けてしまうが、そのうちに耐性を獲得できる体らしい。　お母さんは無理としても、お前達にはこの便利な耐性獲得の遺伝子が引き継がれていればと思う。　まあ海外での蚊は、伝染病を媒介する代表的な生き物なので刺されないように防御するのが一番大事ではあるのだが。

  2020.04.18

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• 英語の勉強は日本語で

  お父さんはアメリカに留学した経験があるのはお前たちが知っている通りだ。アメリカ留学には当然英語の能力が必要になる。しかしながらアメリカに留学する前のお父さんは英語がどちらかというと苦手だった。　高校受験、大学受験と英語で入試を受けてきたので一般的な英語はそこそこ頭に入っていた。また大学時代には英語論文の和訳なども良くやっていたので、読み書きはそれなりにできたかもしれない。しかしながら留学に必要な能力は読み書きだけではない。リスニングとスピーキング、要は会話ができなくてはならないのだ。　お父さんの学生時代には「英会話」の授業というものが基本的になかった。よってお父さんは英会話ができない状態でアメリカに渡った。アメリカで英語の中で生活すれば、英会話など簡単に身につくだろうと楽観的に考えていた。　英語のできないお父さんは、まずはアメリカで語学学校に入った。ここで勉強してTOFLEというテストで必要点数を取るのが目的だった。　語学学校の初日、お父さんはクラス分けのテストを受けた。お父さんの入学した語学学校はレベルが低い方から100クラス、200クラス、となっており、一番ハイレベルが600クラスとなっていた。ただし入学のクラス分けではどんなに成績が良くても500クラスからスタートするシステムだった。　試験の内容は筆記試験のみで、文法のテストと作文のテストだけだった。読み書きがそれなりにできたお父さんはそれほど苦労せずにテストを終えた。そしてクラス分け発表の日、お父さんは400クラスに入ることになった。500に入れるかもと思っていたぐらい自信があったのでちょっとがっかりしたのを覚えている。　授業初日、お父さんは愕然とした。先生がクラスに入ってきて英語で話し始めたのだが、全く何を言っているのかわからなかった。単語の意味が分からないのではなく、話している単語が聞き取れないのだ。お父さんは致命的にリスニングができなかったようだ。　周りを見回すとほとんどの生徒が先生の英語にうなずいている。初めてのクラスで最初に行うのは自己紹介だ。順番に自己紹介が始まったが、クラスメートの英語も何を言っているのかわからない。お父さんは自分の番では英語で自己紹介ができた。どうやらみんなには通じているようだ。ほっとしたがリスニング能力がすぐに身につくわけではない。　初日の授業で、文法・リーディング・作文などの授業別に宿題が出たが、宿題の内容が聞き取れなかった。クラスメートに聞いてみたが、お父さんの英語は通じるのだが相手が話している英語がわからない。泣きそうな思い出何とか宿題の内容を理解した。　次の日もその次の日も、先生の言っている英語はほとんどわからなかった。お父さんのクラスにはアジアや南米、ヨーロッパやアフリカなど世界各国から生徒が集まっていたが、日本人はお父さん一人だった。学校にはたくさん日本人がいたが、お父さんのクラスはお父さんはただ一人の日本人だったのだ。なので授業中も休み時間もすべて英語で会話しなければならなかった。　この時初めて気づいたのだが、多くの国では、特にアルファベット表記をする言語の国では文法やリーディングよりも会話が最初の授業にあるらしく、読み書きなどは後から覚えるようだった。日本とはまるで逆だ。これも後から気がついたのだが、クラスメートの英会話は文法も単語の発音もめちゃくちゃだった。ただでさえリスニングができないお父さんが理解できるはずがなかった。　お父さんは学校の相談室に行き、リスニングができないからクラスレベルを下げてほしいと懇願した。しかしながら再三の要請にも関わらず願いは聞き届けられなかった。最初の1か月は地獄の様だった。1日の授業のほとんどが聞き取れないのだから。　仕方なくお父さんはテキスト内容を日本から持ってきた日本語の英語参考書を読みながら勉強した。そして簡単な英会話のカセットテープを聞きながら必死でリスニング能力を鍛えることになった。すべて日本から持ってきた教材だ。　英語の中に飛び込めば英語が話せるようになるというのは、間違いではないのかもしれない。特に日常生活や観光レベルならば。ただし大学で学ぶための英語はそのレベルでは全く役に立たない。もし、お前たちが海外で生活することを望むのならば、日本で日本語である程度対象の外国語を習得してから出ないといけない。特に重要なのは「会話」の能力、つまりはリスニングとスピーキングだ。文法などめちゃくちゃでいい。とにかく会話だ。これを必死で日本語で教えてもらうのだ。　最終的にお父さんはTOFLEの目標点を取り、無事に大学院に入学を許されたが、正直とても大変だった。お前たちが語学を学ぶ時には日本語で教えてもらえる機会を大切にしてほしいと思う。「行けば大丈夫」というのはお父さんにとっては全くのデマだった。

  2020.04.10

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• 電卓を返品するだけで

  先日アメリカ人の性格について​ディベート文化に原因の一端がある​と書いた。今回の話は直接それとは関係が無いが、アメリカでお父さんが体験した苦労話の一つである。　お父さんが大学院で学んでいた時、日本から持って行った関数電卓が壊れてしまった。液晶表示がおかしくなってしまったのだ。　そこでお父さんは大学のショップで新しい関数電卓を購入した。家に帰って電池を入れて使おうとしたところ、2行表示の上の行、計算式を表示する行の表示が壊れて表示されていなかった。　翌日レシートと現物をもって正常な品に交換してもらうため、再度ショップを訪れた。お父さんには少し心配があった。それは前日に購入した時にお父さんが欲しくて購入したタイプ（2行表示）の関数電卓が最後の１つだったからだった。　ただし心配というのは、同じものが無いから交換ではなくて返品になってしまう。どこかほかの店で探さなくてはならないのは面倒くさいというものだった。　店員に電卓が壊れていたことを伝えてレシートを渡すと、その店員は「電池がヘタっているからこうなっている。今新しいものに交換する。」と言い始めた。お父さんはすでに同じことを言えで実施していたのでそれが原因ではないことを知っていたが、面倒くさいので黙っていた。　案の定店員が電池を交換しても故障は治らなかった。　店員はようやく同じ電卓に交換しようと店の棚を見に行ったが、お父さんが心配した通りそれは最後の1個で在庫も内容だった。日本ならここで普通に返品となってお金が返ってくる。ところがアメリカではそうではなかった。　店員は電卓を何とか直そうとリセットボタンを押したり、むやみやたらにボタンを押したりして不具合に変化が起きないか挑戦し始めた。お父さんはさすがに笑ってしまった。そんなことでたとえ一時的に正常に動いたとしても安心して使うことはできない。どのみち返品だなと。　　ところがその店員はお父さんの想像の斜め上をいく回答をしてきた。「上の行は使えないが、計算結果は正常に表示されるから問題ない。」とのことだった。つまり彼は「返品には応じない」と言ってきたのだ。　10分以上にわたってお父さんは文句と彼の理屈がいかに間違っているかを話さなければならなかった。これもある意味「ディベート」だ。観光レベルでアメリカに来ていたらおそらくあきらめていたことだろう。　最終的に彼は返品に応じた。とても悔しそうだった。なぜ悔しそうだったのかはいまだにわからない。電卓が壊れていたのは彼のせいではないのだから。ひょっとしたらアジア人だから無理やりの理屈で説得してしまおうと考えていたのが、思わぬ反撃にあってできなかったからかもしれない。　電卓を交換もしくは返品するだけの簡単なことだと思っていたお父さんはひどく疲れた。日本以外のアジアの国では、電化製品を購入する際に店内で包装をはがして動作確認をするのが当たり前になっている。今はお父さんもベトナムで買い物するときはそうしている。　店から持ち出した瞬間から壊れていても「初期不良」扱いをしないのがアジアの習慣だからだ。それで痛い目を見た日本人の話をいくつか聞いている。お父さんも2回、よく確認せずに購入して壊れていたり部品が足りなかったことがある。　アジアに比べれば、返品が通っただけでもアメリカは先進国かもしれないと。この文章を書きながらふと思った。

  2020.04.08

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• お茶は有料？それとも無料？

  お父さんはアメリカ留学時代にいろいろと経験した。日本で当たり前と思っていたことが、アメリカでは違うということも多々あった。これはその中のひとつ、お茶についての話。　日本人として日本で過ごしていると、食堂やレストランなどで無料のお茶が普通に出てくる。もちろんお父さんは「このお茶は無料なのか？」と悩むことはない。当たり前に無料のお茶を飲んでいる。東京でルノアールという喫茶店に行くと、有料のコーヒーなどを飲んだ後、お冷以外にも無料のお茶が出てくる。日本茶は「基本無料」なのが日本の文化だ。　さて、アメリカでも日本料理店は普通にどこの都市でもある。週末などのに日本料理を食べてストレスを発散するのは海外に住む日本人のよくある習慣だ。　お父さんがアメリカではじめて行った日本料理店は日本人が経営している店だったので、アメリカとは言ってもほとんどが日本と同じシステムだった。もちろんお茶も無料で提供されていた。　ある日、アメリカ人に勧められた日本料理店に言ったとき、お父さんは何も考えずに「緑茶」を欲しいと頼んだ。すると「急須に入れられたお茶と茶たくにのった茶碗」が運ばれてきた。ずいぶんしゃれたお店だと思った。ところが会計の時に確認したらレシートに「Green Tea $3.0」ときちんとお茶代が請求されていた。　このことをアメリカ人に話して、「日本では普通お茶は無料だ」と言ったら逆に変な顔をされた。彼らにとってお茶（Green Tea)は、紅茶やコーヒーと同じで外食時に注文すれば有料なのが当たり前なのだそうだ。そして日本人経営者以外の人が経営する日本料理店では基本的に「お茶は有料」だということを理解した。　最近は日本のファミリーレストランでドリンクバーを利用することが多い。その時にもふと気づいた。ここで緑茶を飲む場合、やはりドリンクバーの料金を支払わなくてはならないのだということに。　考えてみれば緑茶以外のお茶に関して言えば、お父さんも無料と思ったことが無い。コーヒー、紅茶、ウーロン茶などどれも外食時に注文すれば当たり前にお金を払っている。緑茶もそのうち有料化が進んでくるのかもしれない。日本人としては寂しいことだが。　ちなみにベトナムではお茶は無料なことが多い。というより通常の食堂でお茶を頼んだ場合にお金を払った記憶がない。その代わり最近のベトナムのレストランはおしぼり代わりの包装されたウェットティッシュが有料になっているお店がある。使わなければ回収されて料金請求はされないが、使った分だけ1個当たり10円ぐらいのお金を請求される。これも国が違うことによる文化の違いだと思って従うしかない。　これからもいろんな国で日本の当たり前がその国では当たり前ではないことを経験していくのだろう。ある意味楽しみだ。

  2020.04.05

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• アメリカの魅力の一つ

  アメリカの印象が悪くなるような話をたて続けに書いたが、けっして悪い国だと思っているわけでも嫌っているわけでもない。「そういう国」とだけ思っている。楽しい思い出もたくさんある。もう一度住みたいかと聞かれれば答えはYESである。できれば家族を連れて行って住みたいと思っている。　さてせっかくなのでアメリカの楽しい思い出を書いてみようと思う。と思ったが細かな楽しい思い出はあるのだが、大きな出来事には必ずアメリカ特有のトラブルや困難があって（ひょっとするとただ楽しかっただけの出来事は記憶にのこっていないのかも）、なかなか良いものが思いつかない。　なので今回は、日本に比べてアメリカのほうが「良い」と思ったことを書いてみたいと思う。　アメリカは日本以上に貧富の格差が大きい。しかしながら収入が少なくてもそれなりに生きていけるシステムが出来上がっている。働いていない人（収入のない人）が生きていけるのかはわからないが、アルバイト程度の収入でも十分生きていける環境が整っている。　たとえば食費、アメリカには様々なタイプのグローサリーストア（日本の食料品をうるスーパー）があり、高級食材に特化したものから安さと量に特化したものまでさまざまである。高級なほうはあまり行かなかったが、安さと量に特化したスーパーには大変にお世話になった。　安い食料品店では1週間分の野菜を買って5ドルぐらいだった。とにかく安いのだ。1ポンド（約450グラム）1ドル以下のものがたくさんあった。一人暮らし時代、1週間の野菜に5ドル以上使うことはほとんどなかった。肉も安売りしていると2㎏ぐらいのステーキ肉で1ドルぐらいで買えた。小分けにして冷凍していたので食費は本当に安く済んだ。　次にガソリンの価格。アメリカも日本と同じでガソリンスタンドに価格が大きく表示されている。お父さんがアメリカに留学した初期のころ、表示価格は1ドル以下だった。一番安い時で日本円で60円ぐらいだった。1リットルの価格ではない、1ガロン（約3.8リットル）当たりの価格である。3.8リットルで60円だとしたら1リットルでは16円ぐらいだ。お父さんがアメリカにいた時に最もガソリンが高かった時でも1ガロンで2ドルだった。1ドル110円で計算しても、1リットル当たりの価格は60円以下だ。1ガロン2ドルはものすごく高いと感じていたが、日本で1リットル60円でガソリンを買った記憶は一度もない。　さらに中古ショップ。家具や食器、電化製品はほとんどがここでそろえることができる。日本の中古ショップのような値段ではない。服や食器など日用品は1ドル～3ドルぐらいで購入できる。電化製品の新品の10分の1ぐらいで購入できた。　旅行に行けば1泊1部屋10ドル以下のモーテルもたくさんあった。治安に気をつければ問題は無い。　こんな感じで普段の生活だけでなく、お金が無くても旅行も楽しめる。収入が少なくても十分人としての生活ができる環境が整っていた。上を見ればきりがないが。　日本に帰ってきて思ったことは、低所得者が生きていける環境が整っていないということだ。10円や20円で買える食品などほとんどない。生活雑貨も100円ショップが一番安いのではないだろうか。もちろん鍋など売っていないが。　フリーマーケットに行けばもっと安いものがあるのだろうか。フリーマーケットで思い出したが、アメリカには「ヤードセール」というものもあった。引っ越す家や家のものを片付けたい人が、家の庭で不用品を売るのだ。ヤードセールはただのような値段のものが多かった。　お父さんはベッドも本棚もヤードセールで購入した。　アメリカは低所得でも十分生きていける。なのでお金があればもっと楽しく生きていける。同じ所得ならばアメリカのほうが倍ぐらい裕福な生活感を出せるのだ。　生活費に関していえばアメリカは日本がどんなに頑張っても追いつけないぐらい素晴らしい国である。

  2020.02.29

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• 電話の修理も簡単ではない

  先日はホームステイ先に電話を引くのに苦労した話をした。今回の舞台はアトランタではなくデトロイトに移るが、同じく電話で苦労した話。　お父さんはミシガン州立大学で大学院生をしていた。この時はホームステイではなくアパートに一人暮らしをしていた。アパート1部屋を普通に借りたので、電話の開通は日本と同様特にすでにある電話線をつながるようにしてもらうだけの簡単なものだった。　しかしながらある日電話が故障した。電話機の故障ではなく電話回線が通じなくなってしまったのだ。固定の電話機でもパソコンからの通話もどちらもダメだったので、回線がおかしいことはすぐに分かった。しかし回線がおかしいことを理解していたのはお父さんだけだった。　通常電話会社とのやり取りは電話でしかできない時代だった。今のようにWEB上で何でもできたわけではない。そこでお父さんは公衆電話から電話会社に電話をかけて、すぐに修理をしてもらえるようにお願いをした。　もちろん状況をきちんと話した。電話回線がつながらない。電話機を替えてもつながらないので回線がつながっていないと。　しかし電話会社の窓口担当者はまるでお父さんを信じてくれなかった。今からお前の家に電話を掛けるから、いったん電話を切って待機していろと指示してきた。お父さんは抗議した。電話回線がおかしいのだから電話はかかってこない。電話が来ない状態で電話を待っていても意味がないと。　しかしながら彼は普通のアメリカ人と同じで理屈を言い出した。「電話回線がおかしいというのはお父さんという素人の主観であり、電話会社はプロとしてきちんと対応しなければ修理人の手配はできない。」と。　そもそも家の電話が通じないから公衆電話からかけているのに全くこちらの言い分を聞いてくれない。仕方なくお父さんは家に戻って電話会社からの電話を待った。　もちろん回線がつながってないのだから電話はかかってこない。1時間以上たって、電話がかかってこないことを確認したお父さんは、また公衆電話まででかけて電話会社に電話を掛けた。　そこで前回と全く同じ会話が繰り返された。「確認をするから家の電話の前で待て」という指示だった。このころは大学院に通っていたし英語もだいぶ上手になっていた。またこの手のアメリカ人とのやり取りにも慣れていた。精神的には全く慣れたいなかったが。　お父さんは、1時間前に同じことをしたことを伝えるとともに、前回の電話の担当者の名前を告げた。ところがその電話窓口担当は「そんな名前の担当者はいない」と答えてきた。ここからはひたすらにお父さんと窓口との口論（交渉）が始まる。　アメリカは常にこれが当たり前だ。相手の言いなりでは物事は前に進まない。しかしながらこちらの主張を無理に通そうとすると、相手は逃げてしまう。今回のように相手が交渉を打ち切っても損をしない場合（電話を使えないお父さんが一方的に損をする）、いかに説得するかがカギになる。　それなりに長い交渉の末、ようやく修理の人を派遣してもらえることになった。しかしそれだけで安心するお父さんではない。このころはすでにだいぶアメリカという国のシステムを勉強していた。　翌日お父さんは再度公衆電話から電話をかけ、昨日修理をお願いしたが時間を忘れてしまったので確認したくて電話をしたと嘘をついた。驚いたことにこの時は電話修理の日付と時間が前日決めたとおりに登録されていた。2回目の電話で確認ができる可能性は50％以下なのがアメリカと言う国だ。　そして修理の前日、もう一度確認の電話を掛けた。この時も日付と時間の登録がされていた。この時点で時間通りに作業者が家に来る可能性は70％ぐらいである。なぜなら前の工事が延長になって、帰宅時間を過ぎてしまえば何の連絡もなく作業者は来ないからだ。　この時は奇跡的に、本当に時間通りに作業者がやってきた。そして電話回線は30分ぐらいで修理を完了した。原因はアパートの電話回線の集合器からお父さんの電話回線が外されていたとのこと。アパートを退去した部屋の電話回線と間違えて、電話会社の作業者が外したのだろうということだった。　この説明を聞けば今回の原因は100％電話会社にあるとお父さんは思う。しかしながら修理対応費用はお父さんに請求される。お父さんが修理費を電話会社に請求したかったら、お父さんの部屋の電話回線を外した作業者を訴えるしかないのだそうだ。　これがお父さんにとってのアメリカの現実だ。安アパートに一人暮らしする貧乏学生ではなく、白人の医者や弁護士ならば相手の態度も違うのかもしれない。しかし無力な人間に思いやりをかけてくる人間は少ない。仕事がらみならなおさらだ。　「個人主義、個人責任だから日本と違いアメリカ（や海外）は一人一人が自立している。日本は集団が重要で、責任の所在もあいまいだからダメ。」などと当時よく言われていたが、1人の力のない留学生としては、日本のシステムのほうがよっぽど優れていると思う。　会社に抗議したとしても、足元を見られて絶対に謝罪したり対応したりしない社会のどこが良いのだろうか。少なくとも日本人にとって、日本ほど安心して暮らせる国はないとお父さんは思う。

  2020.02.28

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• 電話線を引くだけで

  お父さんはアメリカ留学時代、アメリカ人の家にホームステイしていた。ホームステイを決定するときの話し合いで、お父さんは部屋に専用の電話回線を引くことを許可してもらった。理由は日本（主にお前たちのお母さん）との電話（英語が話せないのでホストファミリーが英語で出ても取り次いでもらえない）の為とネットに接続するためだ。　当時のアメリカはネット回線はADSLなどなく、通常の電話回線が基本だった。　早速電話会社に連絡をして、電話会社員の訪問日と時間が決まった。お父さんは家で当日ひたすら電話会社の到着を待っていたが結局来なかった。連絡も何もないままその日が過ぎてしまった。次の日になっても電話会社からは何の連絡もない。　　仕方がないのでお父さんはもう一度電話をした。電話回線を新規で取り付ける約束の日に、作業者が来なかったことを告げたが、謝罪の言葉もない。そもそも最初の依頼が無かったことになっていた。そして、「新しい依頼」として再度訪問日と時間が決まった。　余談になるが、日本から見てアメリカ合衆国は紛れもない先進国である。世界一の経済力、政界位置の軍事力、世界経済をけん引し、世界の警察を自称する。スポーツもイノベーションも、芸能もすべてが世界トップレベルの国アメリカ。　日本より劣る部分など一つもないとお父さんも思っていた。しかしながら実際経験したアメリカはまるで違った。約束しても守らない。約束を破っても、ミスをしても謝らない。そもそもミスを認めない。個人主義、個人責任の国とは聞いていたが、慣れるまでは本当にひどいシステムだと思った。　2回目の訪問日、お父さんはちゃんと工事の人が来るのかとても心配だった。当たり前のように遅れてやってきたが、もちろん謝罪は無かった。お父さんは予定時間に来なかったことを抗議したが、「都合がつかないなら今日は帰る」とあさっての回答が返ってきた。疲れた。とにかく工事してくれと言うしかなかった。　そこでまた問題が発生した。お父さんがホームステイしていた家は、アメリカでは珍しい「入り口で靴を脱ぐ」家だった。そのため、工事に来た作業者に入り口で靴を脱ぐようにお願いした。しかしながら工事作業者の答えは「No」だった。　そしてその理由が、「何かあった時に裸足では逃げられないから」だった。これもカルチャーショックだった。電話工事の作業者が依頼のあった家で工事をするときですが、命の危険を考える国なのかと。　その作業者は、「靴を脱げというなら帰る」というので結局またお父さんがおれた。土足で家に上げてしまった。そして作業者が帰った後、むなしく掃除をした。　ようやく工事が始まり、家の配線工事はすぐに終わったが、さらに問題が発生した。電柱についている電話回線の機械が壊れていてすぐには電話が使えないというのだ。そして使えるのがいつになるかわからないというのに、今日からの電話回線利用の契約書にサインをしろと言われた。　さすがに使えないのに今日から利用料を払うのはおかしいと抗議したが、契約書にサインをしないと電柱の機械の工事をしないと言われてしまった。　結局お父さんはサインをして、回線が使えるのを待った。実際に使えるようになるのに1か月弱かかった。もちろん電話代は使えなかった日も含めて請求された。　アメリカに住んで1年ぐらいはこんなことの繰り返しだった。言い合いになればことごとく負けた。以前にホテルの予約でもめたことも書いたが、あの時はアメリカに住んで2年以上経っていた。それでも負ける。お父さんのアメリカでの口論の勝率は1割以下だったと思う。　アメリカで働きたいと思っていたお父さんが、日本に帰って就職した理由の一つがアメリカ人に口論で勝てないからだ。これについてはこれからもいくつかの話を書いていこうと思っている。　最終的に電話は使えるようになった。ネットともつながった。しかしとにかく疲れた。そして約1か月分の電話代（15ドル）損をした。

  2020.02.27

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• ホームステイ先決定のドタバタ

  お父さんはアメリカ留学時代、1年強の期間アメリカ人の家にホームステイをしていた。語学学校時代でアトランタに住んでいた時のことである。　もともと語学学校には学生寮があり、お父さんは寮に住むことを前提にその学校を選んでいた。ところがこの語学学校は正規の大学に付属した学校であり、１期目の3か月を語学学校で過ごしたあと２期目に入るときに学校から退寮の通告を受けた。　正規の大学生の入寮希望者が多いので、付属の語学学校生は出て行けとのことだった。お父さんはそのことをお前たちのおじいちゃんに報告して、アパートを探すつもりだと話した。そこでおじいちゃんから指示されたのは「ホームステイをしろ」とのことだった。　さらに条件があった。「医者か弁護士のようなハイクラスのアメリカ人の家にホームステイしろ」とのことだった。さすがにお父さんは絶句した。何不自由なく暮らしているお金持ちのアメリカ人がわざわざホームステイを探している学生を受け入れたりはしない。　そういう家にホームステイしている学生は「親のつながりや、誰かの紹介」で住まわしてもらっているのだ。しかしながらお前たちのおじいちゃんにそういうことを説明しても聞くような人ではないのだ。すべてお父さんが勝手に作った言い訳だと、ずるいやつだとののしられ続けた。　しかしながらそうこうしているうちに退寮の期限は近づいてくる。おじいちゃんがそういう指示を出した原因は、おじいちゃんの友達からの入れ知恵だった。そこでお父さんはその入れ知恵をしたおじいちゃんの友達に、お父さんにアトランタにいる医者や弁護士の友達を紹介してくれるように頼んだ。　その結果、そのおじいちゃんの友達はそんな心当たりはないとすぐに逃げてしまった。とんでもない人だった。今でもお父さんはその人を良く思っていない。　さて「医者や弁護士」の呪縛からは逃れたが、それでもホームステイの指示は続いていた。そんな中、ある人から教会のボランティアグループがホームステイ先を斡旋してくれるという情報を聞いた。　それまでのホームステイ先はアパートを借りるよりも高い値段のステイ先ばかりで、要は営利目的のステイ先ばかりだった。この件もお前たちのおじいちゃんに話をしたが、「お父さんがホームステイをしたくないから嘘をついている」とか言われて大変だった。　お父さんは藁にも縋る思いでその連絡先に電話をした。電話に出たのは低い声の男の人で、ホームステイ先を探していることを告げると「今受け入れ先はない」と言われてしまった。「困っているのか？」と聞かれたので「大変困っている」と伝えたところ、しばらくの沈黙の後で「俺の家に住むか？」と聞かれた。お父さんは一瞬迷ったが、「できればお願いしたい」と言ったが相手がどんな人かもわからない。とりあえず「あって話したい、できればステイ先となる家を見たい」と伝えると快諾してくれた。　待ち合わせ当日は、学校が休みの日曜日の夕方だった。学校の駐車場に迎えに行くと言われてお父さんは駐車場で待っていた。どんな人が来るのか不安でいっぱいだった。駐車場に車が入ってくるたびに、この人かとドキドキしながら目線を送っていた。　約束の時間から十数分遅れて、ブルーのかなり古い小さな車が駐車場に入ってきた。あの車ではありませんようにと思わず願うほどぼろい車だった。　そしてその車からプロレスラーのような体格で、Ｔシャツ短パンサンダル履きのスキンヘッドの大男が下りてきた。「逃げよう」と思うほど異様な大男だった。その男はきょろきょろあたりを見回してお父さんと目があうと、お父さんの名前を呼び本人かどうかの確認をしてきた。　「絶対に断ろう。あんな恐ろしそうな男の家には住めない。」と決意したが、その場で少し話をしていると意外にやさしい感じを受けた。　　結局お父さんは約束通り、その大男の車に乗り込み彼の家に行くことになった。そして車は学校の駐車場を発進した。この時お父さんは、北へ向かってくれと祈った。アトランタのお父さんの学校はダウンタウンの北のほうにあった。学校より南は危険地帯、北は安全地帯と言われていた。　そして案の定、車は南へ向かって走り出した。この時点でお父さんはまた「断ろう」と思った。南は犯罪発生率が北に比べて非常に高い。スラム街のようなところもあると聞いていた。　車は南へ向かって走り続けたが一向に家には到着しない。そのうちに危険地帯であるダウンタウンの南側を過ぎてさらに郊外へ進んでいった。怪しげな街並みを通り過ぎ、車はすでにアトランタの南の郊外にあるハーツフィールド国際空港の近くまで来ていた。　そして車は閑静な中級の住宅街に着いた。家は平屋だったがそれなりに小ぎれいだった。お父さんは家の中に入った。家の中も小ぎれいだった。　お父さんが使う予定と言われた部屋は、６畳ぐらいの広さで２段ベッドが置いてあった。机や棚は置いていなかった。それなりに快適そうな部屋だった。　お父さんはこれならよさそうだと思い、値段を聞いた。すると食事付きで月２００ドルと今まで聞いたことが無いような安い値段を提示された。結局お父さんはその場で「お願いします。」とホームステイをお願いした。　そこでその大男は、家族を紹介すると言いお父さんをリビングに連れて行った。しかしその場に他の家族は表れなかった。キッチンに大男の奥さんがいて、大男が声をかけていたが「忙しい」と言われてリビングに来ることを拒まれていた。お父さんからは後ろ姿しか見えなかった。　とにかくホームステイはＯＫとなり、ようやくお父さんは住まいを見つけることができた。ちなみにお父さんのホームステイ先決定を聞き、同じボランティアグループに電話が殺到したが、お父さんが知る限り一人もステイ先を見つけられなかった。すぐに電話をして本当に良かったと思った。　ホームステイ先に実際に引っ越してから、どうして家族があの日冷たかったのかが判明した。ホストファミリーは、大男と奥さん、そして子供が４人の大所帯だった。長男が高校を卒業して大学に入り家を出たのでお父さんは長男が使っていた部屋に入ったのだが、子供の部屋は３部屋しかなかった。　家に残っていたのは高校生の長女、高校生の次男、小学生の３男だった。長男が家を出た後、１部屋を２人で使っていた次男と３男が一部屋ずつ使う予定だったのに、大男が無理やりお父さんを家にステイさせて次男と３男はそのまま相部屋になってしまった。　それを家族と相談せずに大男が独断で決めてしまったのだ。それでお父さんが家に初めて行ったとき家族全員が怒っていたのだ。実際に住んでからは家族はもう諦めていて、お父さんとも仲良くしてくれたが、あの日の冷たい雰囲気は「家族仲が悪いのだろうか？」と本気で心配するほど異様な雰囲気だった。　大男にしろ、お前たちのおじいちゃんにしろ、父親というのは子供や家族にとって理不尽なものなのだろう。お前たちからみたら、お父さんも相当に理不尽な父親なのだと思う。まああきれめてくれ。お父さんも５０歳間近でそう簡単には性格は変えられない。そうならないようにしたいとは思っているが。

  2020.02.26

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• 撃たれるかと思った

  お父さんのアメリカ留学時代。強盗などに銃を向けられた経験はない。しかしながら強盗ではない人に銃を向けられたことはある。それは警察官だ。　アメリカに留学して語学学校で教わったことの中に、警察に捕まった時の行動の仕方がある。日本のニュースでたまにではあるが、アメリカで一般市民が警官に銃で撃たれて死亡したというようなニュースが流れる。時にはその映像まである。　お父さんはその映像を見ると、「ああ、あれでは撃たれる可能性があるな。」と思うことが多い。アメリカで警察官に銃を向けられた場合、絶対に無抵抗で圧倒的に警察官有利の状況を作らなければ撃たれる可能性があるのだ。両手をあげているだけでは不十分なのである。　歩いている状態で警察官に銃を向けられたら、地面にうつぶせになり両手両足を開いて「大の字」にならなくてはならない。雨が降っていようと、地面が汚れていようと。この状態で撃たれた映像を見たことはないと思う。ましてや両手をあげて自分から警官に近づくなど言語道断である。撃たれても文句は言えない。警察官も命がけなのである。　車で捕まった場合は、速やかに指示に従って停車する。日本の警察官は簡単に運転席をのぞき込んでくるが、アメリカの警察官はそんな無防備に運転席にはやってこない。腰の件中に手をかけて（抜きはしない）ゆっくりと近づいてくる。この時ドライバーはハンドルの高いところに両手を置き、警官の指示があるまで動いてはいけない。免許を出そうとしてバックを探すなどの行動をすると、撃たれる可能性がある。お前達にも覚えておいてもらいたい。　警官はまず、窓を開けるように指示してくる。次に社内が見える状態になったところで免許証を出すように指示してくるのだ。動作は常にゆっくり出なくてはならない。急激な動きをすると警官が驚いて発砲する可能性がある。　バックから免許を出すときも、バックの中を警官に見えるようにしながらゆっくりと免許の入っている財布などを取り出す。　とにかくすべての指示に忠実に従い、動作は常にゆっくりだ。覚えておいてほしい。　さてお父さんが警察に銃口を向けられたのはある日曜日の朝、土曜の夜から徹夜で友人たちとパーティーをして遊んでいた帰りだ。早朝だったので道路はすいていて、おとうさんはスピードオーバーで捕まった。しかしながら捕まりかたが悪かった。　　警官がパトカーでスピード違反を見つけると後ろを追いかけてきてパトランプ（アメリカはブルー）を点灯させる。バックミラーでそれを確認したら速やかに路肩に停止しなければならないのだが、徹夜明けのお父さんはまるでバックミラーを見ておらず、気が付かずに走行してしまった。　「ファン！」というサイレンを聞いて後を見ると、パトカーがランプを点灯させていた。お父さんはすぐに路肩に停止した。お父さんの車の前に止まったパトカーから警官が一人でおりてきた。もちろん右腰の拳銃に手を添えながら。　お父さんは教えられたとおりにハンドルの上に手を置いて待っていた。警官がすぐ脇まで来て、窓を開けるように指示してきた。この時緊張していたお父さんは、素早くパワーウインドウのスイッチに手を動かしてしまった。その瞬間、警官の腰から拳銃が抜かれお父さんに銃口が向いた。　焦ってお父さんはハンドルに手を戻した。やばい、撃たれるとドキドキした。やがて警官はゆっくりと窓を開けるように再度指示してきた。銃口はまだこちらを向いている。お父さんはゆっくりと手を動かし窓を開け、すぐに手をハンドルの上に戻した。　ようやく警官は銃口を下げてくれた。良かった。徐々に近づいてきて、予定通り免許を出すように言われた。そして、「なぜ逃げた？」と聞いてきた。「逃げてはいない」と答えたが、どうやらランプをつけて約1kmぐらい追いかけたところでサイレンを鳴らしたらしい。　結局お父さんは「スピード違反」と「逃走」のダブルで切符を切られてしまった。罰金の額は両方で500ドルぐらいだった気がする。逃げたつもりはないので、学校のカウンセラーに逃げた分の違反は抗議できないのか聞いてみたが、「弁護士を雇って裁判すれば抗議できる」とのことであきらめた。　アメリカでは警官は常に命がけである。たかがスピード違反のドライバーに切符を切るだけでも命がけなのである。実際に別の犯罪（麻薬など）をしている犯人を偶然捕まえてしまい、おびえた犯人に撃たれることもあるのだと聞いた。　アメリカでは警官の指示に従わなければ撃たれても仕方がないとよく覚えておいてほしい。これ以上ないぐらい警官に有利な態勢をとらなくてはならない。

  2020.02.25

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• アメリカでの防犯意識

  お前たちも知っている通り、お父さんはアメリカに留学していたことがある。英語ができなかったお父さんは語学の習得に1年半、大学院を卒業するのにさらに1年半と合計3年を過ごした。語学学校の1年半はジョージア州アトランタ、大学院の1年半はミシガン州デトロイト郊外に住んでいた。　お父さんの渡米までのアメリカのイメージは、みんな銃を持っていて何かあればすぐ撃たれてしまうというものだった。とても怖い国のイメージだ。　当時（1998年）、お父さんの住んだジョージア州アトランタは「全米凶悪犯罪発生率No.1都市」と言われていた。そしてミシガン州デトロイトは「全米犯罪発生率No.1都市」と言われていた。　実際にアトランタでは、2日に1人が殺人で死亡しているような都市だった。ＴＶのニュースでは結構頻繁に殺人の報道がされていたし、ホームステイした家の知り合いが、家に入ってきた強盗に殺されるという事件もあった。　デトロイトに移り住んでからは、殺人事件のニュースは2週間に1回程度で「ずいぶん安全だ」と思っていた。　アメリカに住んだ3年間で犯罪に巻き込まれたことは幸せなことに一度もなかった。アメリカというのは不思議な国で、「危険な場所」と「安全な場所」がかなりはっきり分かれている。お父さんは基本的に安全な場所に住んでいて、安全な場所以外行かなかったので犯罪に巻き込まれなかったとも言える。　「○○ストリートから先は危険だから行かないように。」というような情報が結構入るので基本的にその忠告を守っていた。ちなみに忠告者に「その〇〇ストリートの先はどんなところだ？」と聞いても、基本的に言った本人も足を踏み入れていないことがほとんどだった。「なんで俺が危険地帯に行ったことがあると思うのだ？あるわけないだろう。」といった感じの答えが返ってくる。　危険地帯に入った友達の話を聞くと、本当に通りが1本違うだけで雰囲気が全く変わるところがあるという。だからアメリカでは地図上で近道があったとしても安全なエリアの道を進む必要がある。遠回りでも命のほうが大事なのだからしょうがない。　ちなみに危険地帯を抜けるのには高速道路を使う。高速道路上は基本的に人が立ち入らないので危険地帯を通過しても大きな問題は無い。ごくまれに高速道路上を歩く人を見かけるがきっと彼らも危険地帯を避けているのだと思いたい。とはいえ見かけるとちょっと緊張した。アメリカの高速道路（はインターステイツ）は基本的に無料なので料金所がない。よって人間も自転車も入ろうと思えば侵入することができる。　今はアジアの国ばかりを行き来しているが、アジアとアメリカの大きな違いは凶器が刃物か銃かだ。刃物の場合、距離をとれば比較的安全だが銃はある程度距離をとっても安全ではない。やはり銃があふれている国は怖い。　お父さんが言ったアジア（東アジアと東南アジア）で一番怖かった国はフィリピンだ。あの国はアメリカ同様に銃であふれかえっている。　日本で生まれ育ったお前達には「肌で感じる恐怖」というのをあまり味わったことがないだろう。夜外で物音がしても「殺される」という発想は無いと思う。そもそも危険な国や危険な場所では徒歩で移動するという選択肢がない。　お前たちは日本で歩いていくと命の危険があるという状況に遭遇することもないだろう。　常に生命の危機を意識していないといけない国は世界中に多くある。日本に生まれ育って、安全な社会で生きていることにお父さんは感謝している。お父さんが長期海外出張に何度も出ることができるのは、家族が日本の地方都市に住んでいるというのも大きい。　しかしながら日本も年々治安は悪くなってきている。カギを閉めるなど基本的な防犯対策は怠りなくやっておくように。

  2020.02.24

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• お父さん知っているロシア人

  お前たちも知っての通り、お父さんはアメリカに留学していたことがある。英語ができなかったお父さんは大学で必要な英語力をつけるために語学学校に通っていた。語学学校の生徒はもちろん英語圏以外から来た外国人たちだ。日本人、韓国人が最も多かったが、多くの国の留学生が集まっていて楽しかった。　今回は、お父さんの人生の中で仲良くなった唯一のロシア人のお話。　お前たちはロシア人と聞いてどんなイメージを持つだろうか。お父さんの留学前のロシア人のイメージは、背が高くて、ガタイが良くて、ウォッカをがぶ飲みし、細かいことを気にしない大雑把なといった感じだった。　そして、アメリカで出会ったロシア人のＫ君は、お父さんの事前のイメージを全く崩すことのないロシア人だった。　彼と同じクラスになったのは、語学学校のハイレベルクラスの時だ。一目見て「あ、ロシアっぽい。」と思えるほどのモスクワ出身のロシア人だった。　背は190センチ近く、ガタイもいい。目は薄いブルーでホリが深く、彼に見られると睨まれているように感じた。性格はお茶目とズボラと傲慢が共存していた。当時の語学学校でロシア人の代表みたいな感じだったので、いまでも彼をロシア人の典型と認識している生徒はお父さんだけではないと思う。　彼は朝一の授業に必ず15分～30分ぐらい遅れてきた。そして言い訳は常に「渋滞のせい(Because of trafic jam)」だった。先生が一緒にハモることができるぐらい毎日同じだった。クラスメートは朝のマンネリ化したやり取りとして彼の遅刻を当然と思っていた。　ごくまれに遅刻しないで教室に現れると、クラスメートが「いったいなにがあったのか？」と周りを取り囲むくらいの遅刻常習者だったが、先生からも生徒からも愛されていた。お父さんが同じことをやってもおそらくあんな風には愛されることはなかっただろうう。　さて、とある週末にお父さんはＫ君ともう一人の台湾人のＺさんと3人でフィールドワークというか、ネイティブアメリカンの住居を調べて発表すべく、郊外のネイティブアメリカンの集落に行くことになった。　3人とも車を持っていたが、Ｋ君はかたくなに自分の車で行くことを主張した。お父さんもＺさんも特に不満はなかったので、彼の車で一緒に行くことになった。　　通常は遅刻常習者であったが、朝早いわけではなかったためかＫ君は時間通りにやってきた。Ｋ君の車は日産マキシマだった。日本ではそれほど売れなかったがアメリカでは結構売れていた車だ。パワーがあって車内も広かった。　さてＺさんが助手席に、お父さんが後部座席に座って待ち合わせ場所の学校の駐車場をスタートした。高速道路にのった瞬間からＫ君のロシアンドライブがさく裂した。　とにかく速い。100マイル（160キロ）を超えて全く減速をしない。映画のパトカーの追跡さながら車の間を車線変更を繰り返して飛ばしていく。お父さんやＺさんがもう少しスピードを落とすようにお願いしても、「全く問題ない。大丈夫。」と相変わらずの運転だった。　高速を降りて一般道に入って、お父さんはちょっとほっとした。片側1車線なら対向車がいる限り追い抜きもかけられないだろうし、少しはゆっくり走るだろうと。もちろんその考えは甘かった。彼は反対車線に出るのではなく、道路を外れて土や草になっている部分を使って前の車を追い越すのだ。もちろん対向車線に車がいないときは通常の追い越しをするのだが、対向車がいれば躊躇なく道路を外れて追い越しを行った。　車の後ろにものすごい土煙がたっていた。高速道路を走行している時の数倍怖かった。もうお父さんもＺさんも事故なく目的地に着けることを祈るしかなかった。Ｋ君は前の車が遅かったりして気に入らないとロシア語で何か言っていた。おそらく日本語にしたら「この野郎、ちんたら走るんじゃねえ。」みたいなことを言っていたと思うがよくわからない。　田舎道を爆走するロシア人ドライバーの車に乗って恐怖におびえている様は、後から考えると映画のチョイ役になったような感じだった。あの出来事以来、映画でドライバーを引きずりだして乗車していた人を無視して爆走するシーンを見ると、「ひどい奴だ。」と思うようになった。かっこいい主人公より同乗しているチョイ役の気持ちになってしまうのだ。　最終的にお父さんたちは事故にあうこともなく、目的地に着いた。台湾人のＺさんは車酔いというより運転の恐怖により具合が悪くなっていた。お父さんは生きていることを神に感謝した。　帰りの車では、Ｚさんが助手席に乗ることを頑なに拒絶した。Ｋ君としては、隣にはお父さんのような男に乗られるよりは、女の子のほうが良かったのだろう。安全運転をするからとか、絶対大丈夫だからとＺさんを説得していたが、結局彼女が助手席に乗ることはなかった。　帰りはお父さんが助手席に乗ったが、はっきり言ってあの運転では前に乗ろうが後ろに乗ろうが恐怖はほとんど変わらない。お父さんもＺさんも行きと同じ恐怖を散々味わって帰ってきた。　次の授業の日、お父さんとＺさんはクラスメートにその時の恐怖を語りまくった。その結果、Ｋ君はクラスメートたちから「車に乗せてくれ、ドライブに連れて行ってくれ」と頼まれまくっていた。お父さんも話だけ聞いただけなら、一度は彼の爆走を体験したいと思ったことだろう。実際は2度と乗りたくないが。Ｋ君は結局誰も乗せることはなかった。　あれから20年以上経っているが、お父さんだけでなくＺさんもあの時のドライブを鮮明に覚えていると思う。Ｋ君は今も無事に生きているだろうか。　それにしてもあんな運転をしているのに遅刻していたＫ君は、やっぱり朝が苦手だったのだろうと思う。彼には渋滞は関係ないのだから、そこに少しでもスペースがある限り。

  2020.02.22

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• 学歴と社会的地位

  お父さんはアメリカに留学していたが、海外に興味を持ったのは大学生時代に友達といった多くの海外旅行によって海外への興味が強くなったからだと思う。　それ以前のお父さんは、海外は危険な場所でいつ何が起こるか、殺されてしまっても不思議でない場所という恐怖のほうが強かった。　今お父さんは海外駐在や出張などで主にアジアをあちこち移動しているが、旅行と仕事ではその国の人間に対する印象がかなり違う。旅行ではその国の人にとってお父さんは「お客様」だが居住や仕事では「隣人」であり「交渉相手」となる。　その結果、表面的なものから結構深いものまで日本との文化の違いを体験してきたと思う。そんな文化の違いを書いてみたいと思う。　さて今回もアメリカ留学時代。お父さんはミシガン州の大学で大学院生をやっていた。日本では大学生はしょせん学生だが、アメリカでは学位が上がるにつれて学生とは言え社会的地位もついてくる。博士課程卒業者は一生その肩書によってある程度の尊敬を受ける。そして立ち居振る舞いもそれに準じたものを求められていく。　お父さんは日本でいう修士課程だったので、アメリカだと「上の下」（修士と博士の間には深い壁がある。）といったところかな。　お父さんのアメリカ時代の友人（日本人）にＳさんという人がいた。今でもたまに日本で会っている。Ｓさんは日本の大学で「助教授（今でいう准教授）」で、大学の研修のようなもので1年間限定でアメリカの大学に来ていた。　ある日、お父さんはＳさんと車を探しに行った。お父さんの車探しにＳさんが付き合ってくれたのだ。ホンダの新車と中古車を両方扱っているディーラーに行った時のこと。外に展示してある車を見ていると、販売員が近づいてきた。　お父さんたちは車を探していることを伝え、中古車で安くていいものがないか紹介してくれと話した。すると販売員は困惑しつつ少しバカにした顔をして、「おいおい、うちはホンダだぜ。安い車が欲しかったら他を探したほうがいい。」と言ってきた。　びっくりした。店員の態度もそうだが、「ホンダだ。」というフレーズだ。日本でもホンダ、トヨタ、日産など自動車メーカーがあり、何となくメーカー別にレベルというか印象がある。今ではトヨタ一強に対して、次がホンダ、すぐ後ろに日産と言ったところかな。　お父さんが子供のころは、「トヨタは田舎のおっさん車、日産はシティ派、ホンダは子供のおもちゃ」みたいに言われることもあったので、今後も評価は変わっていくかもしれない。　お父さんがアメリカにいる時代は、ホンダはＦ１という自動車レースで世界に名を響かせていた。そしてバイクメーカーとしては世界No.1のメーカーだった。バイクに関しては今でも変わらないかもしれない。　それでも日本で、「うちはホンダだ。安車が欲しかったらよそへ行け。」みたいなことはあり得ない接客だった。結局お父さんたちは、ホンダの販売員のプライドの高さに驚きつつ、気分を悪くしてその店を出た。　店を出た後にＳさんから、Ｓさんの名刺を出してもう一度話をしてみようかという提案を受けた。理由を聞いて、お父さんは文化の違いをまた感じることになった。　Ｓさんが車を買いに行ったとき、やはり英語が拙い日本人ということでなかなかうまく相手をしてもらえなかったらしい。そこで自分がいる研究室の教授に相談したところ、教授が一緒にディーラーに行ってくれたそうだ。　以前に立ち話ですげなく対応されたディーラーだったそうだが、教授が最初に名刺を出して挨拶したところ、一気に相手の態度が変わり店内に案内されてコーヒーを出されて接客されたそうである。あとでその教授からＳさんは、「なんで最初にお前の名刺を出さなかったんだ？」と言われたそうである。大学教授の社会的地位のなせるワザだが、日本ではそこまでの対応の違いはないだろう。　Ｓさんは、お父さんとディーラーに行ったときに同じことをしてみようと思ったが「日本人の常識（良心）」が邪魔をしてやっぱりすぐにはできなかったようである。　ただ、あまりにも販売員の態度が悪かったので「やってみようか？」という話になった。　結局見ていた車がお父さんの予算をはるかに超えていたので実際に実行はしなかったが。　国によっては「社会的地位」によって、相手の対応が変わる。今回は「学歴」というものが日本では想像もできないぐらい重要な社会的地位の要素になる国があるという話でした。　日本でもある程度あるが、車のディーラーでここまで対応が変わることはないだろう。ちなみにお父さんの知る限り、どんな客にも差をつけないサービスを基本とする国は「日本」だけである。

  2020.01.12

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• 日本人限定バースデーパーティーの苦悩

  海外では誕生パーティーに呼ばれることが少なくない。お父さんはアメリカでは学生だったので結構な頻度でバースデーパーティーに参加していた。　これはアメリカに渡って日が浅いころのお話。　誕生日につきものなのが「バースデーソング」である。アメリカに行くまで知らなかったが、日本でもよく歌われる「ハッピバースデートゥーユー♪、ハッピバースデートゥーユー♪・・・」という歌は、世界中で歌われている。それぞれの国の言葉となって。　お前たちも知っている通り、なぜか日本人は英語でこの歌を歌う。日本で「日本語」のこの歌を聞いたことはない。お前たちも歌ったことはないだろう。　海外でバースデーパーティーに参加するなら覚えておいたほうが良い。「日本語で歌ってくれ」と頼まれることが多々あることを。　日本人がどんなに「我々は日本でも英語で歌っているから、日本語の歌は知らない」と言っても、「いいから歌ってくれ」ということになる。どの国の留学生も自国の言語で歌うので、日本語のバージョンがないとは信じてもらえないのだ。　仕方がないので、日本人で打ち合わせをする。「誕生日おめでとうー♪、誕生日おめでとうー♪」と歌えるように。難しいのは「ハッピバースデー　ディア　〇〇　♪」の部分である。お父さんが知る限り2種類の選択肢がある。「たーんじょうびー　おめでとーおー」と〇〇を入れない場合と、「たーんじょうびー　おめでと　○○ー」と「おめでと○○」を早口で歌ってしまうバージョンだ。　お父さんはその後、一人の時も日本人で打合せするときも基本的に後者の早口バージョンを使っている。日本では、日本人同士では決して歌うことのない日本語のハッピーバースデーの歌を。　外国人が参加するバースデーパーティーに参加するなら、日本語バージョンを覚えておいたほうが無難である。その場で考えるのはとても大変だから。　海外に住む日本人は必ずこのバースデーソングの苦悩に一度は悩んでいると確信している。なぜならお父さんは今まで海外で何度も日本語バージョンを歌っているのだから。　ちなみに今ネットで調べたら、どうやら日本語バージョンがあることはあるらしい。日本人に浸透していないので、いきなり日本人同士で合唱は難しいと思うが、せっかくだからここに書いておこうと思う。　　　作詞（訳詞） 丘灯至夫 　　　うれしいな 今日は 　　　たのしいな 今日は 　　　誕生日 おめでとう 　　　お歌を歌いましょう　うーん、なじめない。

  2020.01.11

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• アジアンヌードルの衝撃

  不思議なもので、ブログを書いていると次々と忘れていた記憶がよみがえってくる。昨日うどんの話を書いたら、アメリカで食べた衝撃の日本食を思い出した。　語学学校時代、お父さんには週末ごとにいろいろなレストランを一緒に食べ歩く日本人の友達がいた。当たりはずれはあったが、週末の楽しみだった。お互いに口コミで美味しいレストランを聞いては、実際に食べに行っていた。　これはそんな中で行った一軒のレストランのお話。　そのレストランはたしか「ヌードルハウス」というレストランで、アメリカ人からおすすめだと聞いてきたレストランだった。結構本格的にアジア各国の麺料理が食べられるレストランだと。　店に入るとお客さんはほとんどアメリカ人だったが、とても混んでいた。店の中を席に案内されながら見ていた感じでは、中国系のラーメンを食べている人が多く、見た目にもおいしそうに見えた。　席について周りを見ると、不思議そうに箸をもてあそび、カンザシにして頭にさして遊んでいる人などがいて、店は活気であふれていた。アジア系の客がいないが、これだけアメリカ人で混雑しているのだから、味は期待できると友人と話していた。　メニューを見ると日本の麺料理ものっていた。中国系のラーメンもおいしそうだと思ったが、久しぶりの日本の麺料理の魅力にあらがえず、お父さんは「ソース焼きそば」を、友人は「味噌ラーメン」を注文した。　そしてついに、注文の品がお父さんたちのテーブルに運ばれてきた。まず最初に来たのは、友人の味噌ラーメンだった。大きなラーメンどんぶりに並々とスープが入れてあり、その上にゆでていないインスタントラーメンが四角い形状のまま浮かんでいた。　お父さんと友人は、何が起きているのか理解できなかった。なぜほかのテーブルのラーメンはゆでた麺が入っているのに、これはゆでていないのだろうか？とにかくこのままでは食べるというよりかじることになってしまう。　　友人は店の人に、麺をゆでてほしいと頼んだ。味噌ラーメンはいったん厨房へ戻っていった。いやいやすごいものが出てきたと友人と話していると、お父さんの頼んだ「ソース焼きそば」が運ばれてきた。テーブルの上に置かれたソース焼きそばをみて、お父さんたちはまた言葉を失った。　麺はちゃんと火が通っていた。どう見ても「日本そば」の麺が。そして具も何ものっていない状態のその麺は、ウスターソースにどっぷりと絡めてあった。　この一品に名前を付けるとしたら、たしかに「ソース焼きそば」だ。ほかにこの一品にふさわしい名称は思いつかなかった。でも、でも、これはお父さんの望んだ「ソース焼きそば」ではない。食べる前から味は想像が容易で、もちろん想像通りの味だった。　店に入った時のテンションは猛烈に下がっていた。こんなことならお父さんも味噌ラーメンにしておけばよかったと。　もそもそとソースを絡めた日本そばを食べていると、友人の味噌ラーメンが再び運ばれてきた。しかし、先ほどと同様にインスタントラーメンは四角い形状のまま浮いていた。店員は電子レンジで加熱してきたと説明した。　友人はあきらめた。もうこのまま食べようと。スープに浸っていた麺の下側がやや緩くなっていた。仕方なく友人はスープを先に飲んだ。そしてお父さんの顔を見て一言、「味噌汁だ」と言った。　お父さんは意味がよくわからなかった。飲めばわかると言われて一口スープを飲んだ。味噌汁だった。どんなに自分をだまそうとしても無理なぐらい完ぺきな味噌汁だった。　　この味噌汁にインスタントラーメンが浮いた一品に何と名前を付けたらよいだろうか。やはり「味噌ラーメン」である。味噌も入っているし、ラーメンも入っている。店に文句はつけられない。お父さんの「ソース焼きそば」と同じである。　この日、お父さんはソース味の日本そばを、友人はラーメンどんぶりいっぱいの味噌汁を飲んで店を出た。テンションは一気に下がっていた。　海外で日本食を食べると妙に胃が落ちついて、やっぱり自分は日本人だと再確認するのだが、この日のお父さんたちの胃は、違和感でいっぱいだった。　その後、「経験としてはおもしろかった。」と日本人の友人たちに一度行ってみることを薦めてみたが、お父さんたち以外にその店に行った日本人はいなかった。　そして、お父さんたちも「中国の麺なら美味しいかもしれない」と話しつつ、2度とその店に行くことはなかった。

  2020.01.10

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• 天丼とうどんの違いは難しい

  相変わらずのアメリカの思い出。　お父さんは、英語がまるでできないのに楽天的な考えでアメリカに渡った。アメリカで英語に囲まれて過ごせばすぐに英語が身につくだろうと。もちろん全くの思い違いであったが。　そもそも英語ができないのに「英語で英語を学ぶ」などということができるはずがない。しかし悲しいかな日本で英語教育を受けていたおかげで、クラス分けテストで文法と読み書きはそこそこの点数を取ってしまったため、語学学校で上級クラスに配属されてしまった。　初日の授業で先生が話している英語が全く分からない。苦痛でしかなかった。事務所に行って下のクラスに編入させてくれるように頼んだが駄目だった。　これはそんな語学学校時代のお話。ちなみに今回の話の中で日本人はお父さんだけ。あとはみんな英語圏以外から来た留学生です。　休み時間にクラスメイトと雑談をしていると、近くで他のクラスの人たちが日本食について話しているのが聞こえてきた。そのうちの一人の女の子が天丼がおいしいと話していた。　それに合わせて、違う女の子が「私は日本食に詳しい。天丼だけでなく、"どん"と名前がつくものはとてもおいしい。」と話していた。そして「"どん"とは器（うつわ）の呼び方だ。」とも話していた。　お父さんは、日本食のこと本当に好きなんだなと、ちょっと嬉しくなってさらに聞き耳を立てていた。　次の瞬間、彼女が「天丼、かつ丼、うどん！」と言い放った。”うどん！？”。いやうどんは違う、確かにどんぶりに入っているがうどんのドンはどんぶりのドンではない。日本食通ならその違いは知っていてほしい。思わずお父さんはそちらのグループに行って、日本人として訂正してあげようと思った。　そして気が付いた。うどんの”どん”とは何なのだと。日本語でも説明できない。お前たちは説明できるだろうか、うどんの”どん”と天丼の”どん”の違いを、それも英語で。　お父さんはいまだに説明することができない。　あの時の日本食通の彼女は、今でも「天丼、かつ丼、うどん！」と話しているのだろうか。そしてその話を聞いて、さらに世界中に誤解が広まっていないか心配である。　いつの日か、海外のどこかで見ることになるかもしれない。日本食レストランのメニューに”天丼”、”かつ丼”とならんで、”う丼”と書かれているのを。

  2020.01.09

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• 2000年問題と神様

  昨日アメリカの話を書いていたら、いろいろとアメリカの思い出がよみがえってきた。その中で新年に関係するものとして今日は2000年問題について書いていこうと思う。　2000年問題（Y2Kとも呼ばれていた）とは、1999年12月31日から2000年1月1日に変わった瞬間に、コンピューターが1900年1月1日と誤って認識して誤作動を起こす可能性があると言われていた問題である。古いコンピューターは西暦の年数を4桁（1999年）ではなく、2桁（99年）で記録・認識していたものがかなりあったようで、日付が過去に戻ったと誤認したコンピューターが誤作動を起こし、世界中のコンピューターが混乱して何が起こるかわからないと言われていた。　小さいトラブルだと電化製品や機械が動かなくなるぐらいだったが、大きいものでは、「電車が暴走する」「飛行機が墜落する」「世界中で停電が起きる」「原発が制御不能になる」「核ミサイルが誤発射される」など人類が滅亡に至るような話も出ていた。　ちなみにお前たちは生まれる前だから当然知らない話だが、お父さんが子供のころは「ノストラダムスの大予言」というのが日本で（ひょっとすると世界中で)はやっていて、最後の予言というのが、「1999年7の月に人類は滅亡する」というものだった。信じていないふりをしつつも、日本人の多くは「今年人類が滅亡するかもしれない、自分は死んでしまうのかもしれない」とドキドキしながら過ごしていたのが1999年である。　映画や小説でも、1999年の人類滅亡を題材にしたものが結構はやった。映画「アルマゲドン」などはその中でもトップクラスの人気を集めていた。　そこへきての2000年問題である。当然お父さんも、これが最後の人類滅亡の本命だと思っていた。お前達には想像できないだろうが、連日2000年問題への対策や予測がテレビや新聞で真剣に話合われていた。食料備蓄や緊急用の避難袋を準備するなど家庭での対応をしていた人が多かったのはもちろん、企業も国も本気で動いていた。電車は日付の変わる瞬間にすべての運行を停止することが決まり、飛行機も多くの航空会社が欠航を決めていた。発電所や行政機関は何があってもすぐ対応できるように、大みそかから徹夜で勤務する準備をしていた。　お父さんはこの時ジョージア州アトランタでホームステイをしていた。人生最後の瞬間を異国の地で家族と離れて迎えるのは嫌だなあと漠然と考えていた。　そんな1999年末のある夜、ホームステイしていた家の家族（ホストファミリー）と夕食を食べていた時、2000年問題で何が実際に起こるのかが話題になった。皆口々に「飛行機が」とか「発電所が」とか世間で騒がれている不安を口にし、また「すでに発電所は政府がテストして問題ないことを確かめている」とか安心材料を出したりして会話を楽しんでいた。別に深刻な雰囲気で話していたわけではなく、単なる夕食時の雑談だった。　しかし事件は突然起こった。それまで話を黙って聞いていたホストファミリーの父親が、突然怒りだしたのだ。「お前たちは神を信じていないのか！！！」と。　お父さんがホームステイしていた家族はアトランタの教会のボランティア組織が紹介してくれた「敬虔なキリスト教徒」の家庭だった。ホストファミリーの父親はそのボランティア組織の顔役のようなことをしており、誰よりも信心深い人だった。ただし身長190センチの筋肉質の巨漢で、頭はスキンヘッド、初めて会った時逃げたほうがいいとお父さんの本能が命令を出したほどの見た目の恐ろしい人であったが。　さて、2000年問題というのは「人間が作り出したコンピューターという産物の欠陥」であり、「神様」とは対極の存在だと思っていた。しかしながら「敬虔なキリスト教徒」には「すべては神の思し召し」だったようだ。　父親は一人一人にゆっくりと聞き始めた。「お前は心から神を信じているのか？」と。もちろん答えは「Ｙｅｓ」しか許されない。でもお父さんは「それとこれとは違う」と心の中で思っていた。まず長女が指名され、三男が指名され、次はお父さんの番だった。当時のお父さんは結構アメリカナイズされていて、思ったことは正直に言うよう自分に訓練をしていた。でも、反論して家族の信仰を汚してはならないとも思って、どうしようか本当に悩んだ。　しかし父親は三男がイエスと答えたあと、次にお父さんを飛ばして次男に問いかけた。お父さんは心底ほっとした。仏教徒だと伝えておいてよかった。どうやら父親は異教徒に質問することはできなかったようだ。　こうしてその日の夕食はしめやかな雰囲気の中で終了した。「2000年問題は、神様を信じていれば全く問題がない」という結論をもって。　ちなみに世界中で問題視されていた2000年問題であるが、ニュースになるような事件は全く発生せずに2000年1月1日を迎えた。あの騒ぎは何だったのだろうか？あれが世紀末独特の雰囲気なのだろうか？さすがにお父さんは22世紀までは生きていないだろうから、再検証はできないと思う。　実はあの父親が正しくて、すべての2000年問題を神様が解決してくれたのかもしれない。世の中には無神論者も多くいるのだが。

  2020.01.08

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• 21世紀はドタバタで始まった

  2020年も年が明けてはや6日が過ぎた。お正月の思い出を何か書きたいなと思っていたが、これはお父さんがアメリカ留学時代に、当時はまだ結婚する前のお母さんと過ごしたお正月の思い出。　2000年の年末、ミシガン州で留学生をしていたお父さんのところへお母さんが遊びに来た。2001年と言えばまだお前たちが生まれていない、お父さんたちが結婚もしていないときであるが、21世紀最初の年である。お父さんはせっかく21世紀を2人で迎えるのだから、特別なことをしたいと思っていた。　そこで以前からお母さんと一緒に行きたいと思っていたグランドキャニオンで21世紀を迎えることにした。グランドキャニオンはアリゾナ州にある世界的に有名な峡谷だ。お母さんの文通友達の日本人Ｍさんがアリゾナ州の州都であるフェニックスに住んでいたので、12月29日にミシガン州からアリゾナ州へ移動し、30日にＭさん一家と遊び、31日にレンタカーでグランドキャニオンに到着、カウントダウンパーティーにでて、翌朝はグランドキャニオンの初日の出を拝んで一生忘れない新年にする予定であった。　30日までの行程は無難に進み、31日にレンタカーで意気揚々とフェニックスからグランドキャニオンに向かって出発した。アメリカは広い。今改めて確認したがフェニックスからグランドキャニオンまでは、同じ州とはいえ約360kmのドライブだった。5時間も走ればつく計算である。昼前には出発して夕方にホテルにチェックインする予定でいた。　出発はほぼ予定通り、時間に余裕があったこともありグランドキャニオンのはじのほうに着いた時にはまだ日が高かった。そのあたりは観光客でも車でないとこれない場所で、素晴らしく雄大な景色をほとんどお父さんたちで独占していた。少し走ってきれいなところを見つけると停まって写真を撮るを繰り返しているうちに、だんだん日が暮れてきてしまった。ゆったりした観光をやめて急いで予約していたホテルに向かったが、到着したのは午後7時頃ですっかりあたりは暗くなっていた。　お母さんを車に残してお父さんは先にチェックインするためフロントに向かった。そこで初めの事件が起きた。「お前の予約は無い」と言われたのだ。今のようにインターネットで予約して、予約票がメールで送られてくるシステムは当時のアメリカではまだ一般的ではなかった。お父さんはホテルをインターネットで探して直接電話して予約をしていた。予約を確定させるために、クレジットカードの番号も伝えて保証もしたあった。しかし、「お前の予約は無い」だった。　この時お父さんはアメリカに来て2年以上経っていた。先進国アメリカ、世界No.1の国アメリカという意識はお父さんの中にすでになかった。いつものことだ。そこで「予約が無くてもいいから、空いている部屋を用意しろ」と再度リクエストした。次に帰ってきた答えは「満室」だ。ここへきてようやくお父さんはやや焦り始めた。でもまだあきらめない。東洋人である客が飛び込みで宿泊することを警戒しているだけかもしれない。「予約したんだから部屋はあるはずだ。電話で確認もした。部屋を用意するのはホテルの義務だ。何とかしろ。」と30分以上交渉を続け、ホテル側もいろいろと調べていたが、最終的な結論は「部屋は無い、どこかほかのホテルに泊まれ」だった。　お父さんは、いつものアメリカだと思ってはいた。だが今回はお母さんが来ている。そもそもグランドキャニオンは大峡谷であり、近くに大きな町があるわけでもない。どこにホテルがあるかもわからない。せっかくの21世紀初日を台無しにしたくない。　そこで、「ホテルを探すのはお前たちの義務だ。俺は予約をしてあったんだ。」ということであくまでも食い下がった。アメリカでは引き下がったら負けなのだ。更に30分後ぐらいに、近くにある宿泊予定だったホテルと同じグループのホテルに空きが見つかった。確認したところそのホテルもグランドキャニオンのメイン地区にあり、問題は無い。ここまでの交渉に一時間以上かかっていた。　一度フロントを離れたら「交渉は終わり（お父さんの負け）」になるために、お母さんが心配だったが決着がつくこの時までお母さんは外の車でずっと待っていた。今みたいに携帯電話もお互いに持っていなかったので電話で連絡すらできなかった。時間はすでに午後8時を過ぎていた。　お父さんはお母さんに起きたことを伝えて、紹介されたホテルへ向かった。ホテルに着くと今度は問題なくチェックインができた。時間はもう9時に近い。同じグループのホテルだったため、お父さんは念のためもう一度予約がどうなっているのか調べてもらったが、やはり「予約は入っていない」とのことだった。デポジット（予約時の保証金）が引き落とされないか調べてもらったが、「予約が入っていないのにデポジットが取られる訳が無い」と笑われた。それでも念のため名刺をもらい、何かあったら電話すると伝えておいた。　さて、ホテルの部屋に着いたお父さんもお母さんもくたくたに疲れていた。とにかく食事をしてシャワーを浴びてカウントダウンに備えようと急いだ。20世紀最後の食事が何だったか今では全く覚えていない。10時過ぎにお父さんたちは部屋に戻り、カウントダウンまでの時間をつぶすためベッドに横になりながら話していた。　次の記憶は突然目が覚めたところから始まる。お互いにつかれていつの間にか寝てしまったのだ。時計を見る。時刻はすでに午前1時を過ぎていた。お母さんはぐっすり眠っている。こうして感動的に迎える予定だった21世紀は、寝ながら迎えることになってしまったのである。　翌朝の初日の出は、事前に調べておいたスポットへと出かけたが、残念ながら曇っていて渓谷に昇る初日の出を拝むことはできなかった。グランドキャニオン観光はとても楽しかったが、21世紀を迎える儀式はことごとく失敗した。今となっては良い思い出ではあるが。　さて、お母さんも日本に帰国した後、学生生活に戻ったお父さんであるが、ある日届いたクレジットカードの明細を見て、「やっぱりか」とがっかりした。泊まれなかったホテルからしっかり1泊分の宿泊費が請求されていた。ため息をつきながらホテルに苦情の電話をした。そしてまた予想通りの回答を得た。「お前はちゃんと宿泊している。正当な請求をしているだけだ。」と。　すぐに実際に泊まったホテルの名刺をもらったスタッフに電話をかけた。相手はお父さんのことを覚えていた。状況を説明するとすぐに手続きをすると言ってくれた。しかしながらここからがアメリカ。手続きが終わったら電話をすると言われたまま1週間が過ぎた。また電話をした。そして前回と全く同じ内容を繰り返し、前回と同じ対応をとることを約束した。はい、また1週間待っても電話は来ませんでした。3回目の電話をし、4回目の電話をし、決着がついたのは確か6回目の電話の後だった。　そして、今回の請求ミスが発生した原因を教えてもらった。今でも思う、絶対に自分たちのミスを隠すためについた嘘だと。その原因とは「お父さんと同姓同名の日本人が、31日の夜に入っていたお父さんの予約を12月24日の夜に変更して泊まった。だからお父さんの予約は31日にはすでになく、お父さんが泊まってもいないのにクレジットカードに宿泊費の請求がされた。」と。　40年以上生きてきて、お父さんと同姓同名の人にはいまだかつてあったことはない。苗字か名前のどちらかが同じ人には会っているが、同姓同名は無い。そんなお父さんと同姓同名の人が、12月31日にアメリカのグランドキャニオンのホテルを予約し、あろうことか日程を変更し、支払いもしないでチェックアウトしたというのだ。ありえない、絶対にありえない。　お父さんの名前はお前たちも知っている通り、純粋に日本人にしか存在しない。映画やドラマでもこんな偶然のハプニングが起きるわけがない。　お父さんの推測はこうだ。電話で予約を受けた人が、クレジットカードナンバーを入れて請求の確定をしたものの、予約システムに名前を入れ忘れたのだ。ホテル側も予約も宿泊記録もないのに請求だけしてしまったミスに気付いたのだ。アメリカは個人責任の国なので、犯人捜しをしたがおそらく判明しなかった。それはそうだ。絶対的な証拠がない限り、本人の自白以外で犯人は見つからず、そして映画のように正義感をもって自白する人間などまずいないのが日本以外の海外の現実だ。　日本円で6000円ほどの宿泊費を返してもらうのにも、これだけの苦労がある。それが海外（たとえ先進国と言われるアメリカでも）の現実なのである。　話がずれてしまったが、お父さんとお母さんの21世紀はこのようにドタバタ劇でスタートした。でも21世紀になって約20年、お父さんたちは結婚し、お前たち3人の子供を得ることができた。とても幸せに過ごしている。

  2020.01.07

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