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カテゴリ:フランスの本
服従 / ミシェル・ウエルベック フランスにイスラム政権が樹立したら、という過激IF話。 ISがテロ起こしまくるこの時勢に発売されたので、もっと話題騒然となるかと思いきや、日本では大したことなかったですね。 というより、ウエルベック知ってる人がそんなに周りにいない。 図書館では36人待ちだったので、もっと時間がかかるかと思いきや、3ヶ月くらいで順番回ってきました。 みんな棄権したの? 「服従」というタイトルなので、イスラム政党がクーデターとかテロを起こしてフランス国会を占拠して、独裁軍事国家を築き上げる、みたいな過激な出だしかと思っていましたが違いました。 極右政党とイスラム政党の究極の2択を迫られた時、フランス国民はイスラム政党を選んだ、という自発的な感じでイスラム政権が樹立。 党首のベン・アッベスは知的で落ち着いた雰囲気のインテリ。 イスラム政権が樹立したからと言って、改宗を迫ることはない。 むしろ自分たちが宗教を尊重しているから、他者の信仰にも寛容。キリスト教徒よりも、むしろ敵となるのは無神論者。 思いのほか、穏やかな感じにスタートしました。 主人公が人生に疲れた感じの大学教授で、インテリに属すような高学歴・高収入なのに、特に反抗することもなく、イスラム政権に服従する、というのが主旨。 読み終わった時、自分が文学部出なので、「文学部教授」が政治に対して意見を持っているとは思えないし、デモに参加するパッションもない、浮世離れしすぎの一般企業では絶対に働けない特殊ジャンル人間だと思っているので、なんでそんなのを主人公にするんだ、だから折角の「イスラム政権樹立」という過激IFが、なんとなく輪郭ぼやけたファンタジーに見えてくるんだよなぁーと思っていました。 政権樹立後、改宗した人以外は教職に就くことを禁ずるお触れが出て、キリスト教の大学教授は退職か、改宗か迫られます。 ただし退職した場合は月額50万円の年金を受け取ることができる。 オイルマネーが豊富なので、年金くらいいくらでもはらうというスタンス。 まぁ、退職だろうね! 改宗した場合、一夫多妻制となるので、複数妻をめとれる。 イスラム御用達のマッチング業者が介入して、収入などのステータスに応じて、どのレベルの女性を何人娶れるか計算してくれて、自分に見合う女性を紹介してくれる。 女性の価値は若くて美しいこと。 女性が働くという概念は存在しないので、会社勤めしてた人は年金をもらう代わりに全員退職。そのせいで失業率は50%超える。 でも問題なし。金持ちな男性と結婚させられるから。 お金もらえて経済的に安定するし、性的な娯楽もある、という理由で、服従することに決めた、という決意表明でこの本が終わる。 えー、そういうストーリー? 現実感が全くないんですけどー。 家父長制の復活が主題だとは思うんですけど。 フランスだって日本だって、古来は家父長制度だったじゃん。 それが先進国としての円熟によって、全ての国民に参政権が与えられたり労働の機会が男女平等になったりして、変わって行ったんでしょ。 性差による役割分担って考え方は古いってレッテルと、家父長制度の「長」みたいな全てを決定する強い者に従っていさえすれば、何も考えなくてすむし、守ってもらえるし、自分から何か行動を起こさなくても生涯をやり過ごせた。 そこを抜け出すということは、全部自分で決めなくちゃいけなくて、人生の責任を自分で負って、どこかコミュニティに属すことなく、人生の後始末を自分でする孤独な道を行くってこと。 先進国の人たちは個人主義を選択したから、今の拝金主義が誕生したんだと思いますけど。 そこからまた家父長制度に逆戻りってのは、もう責任負うのに疲れたーって人の逃げの選択だと思いますけどね。 今さら逆戻りなんか無理でしょ。 と考えつつ。 大学教授を主人公にしたのもなんとなく頷けるところもあるな。 これが商社マンとか商売する人間だったら、自分の生活を向上させるためなら、特に悩むこともなくイスラムに改宗しそうですもの。 踏み絵だって、商人は踏みまくってたしね。 ユイスマンス研究家の大学教授だから、逡巡してたのね。 でも、ユイスマンスのようにキリスト教の修道院に入って世捨て人になろうと決意したところまではいいけど、 修道院の静謐さを破るTGBの轟音と、禁煙生活に耐えられなくて、そそくさと修道院を後にしてパリにもどっていく描写にはちょっと笑った。 そして、クレムリンメソッドに書いてあったけど、先進国のキリスト教徒の出生率は毎年減っていくから、このまま行くと、イスラム教徒の数はキリスト教徒よりも増える、というリアルな数値を出されて 極右かイスラムの2択を迫られるというよりも、イスラム教徒の方が増えたからおのずとイスラム化されていく、っていうルートが今後50年とか100年のスパンで考えるとあり得ることなんだなーと思いました。 設定的にリアルなんだかファンタジーなんだかよくわかんない本でしたが、結構考えることは多かったな―と思いつつ、本を返却して終了。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.07.23 11:17:39
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