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カテゴリ:日本の本
双頭のバビロン 上 今年は皆川博子を読みまくる年になりそうだ。と思うほど前回読んだ「開かせていただき光栄です」が面白かった。 以下全部ネタバレ 双頭のバビロンも物凄くおもしろかったんだけど、ツヴェンゲルの存在が素敵すぎてゲオルクとユリアンは双頭である必要がそもそもあったのかなぁと思ってしまった。 貴族の嫡男として選ばれたゲオルクと体裁の悪い障害児として見捨てられたユリアン。 双子が交感するというのがメインストーリーだけれど、女装したツヴェンゲルの妖しい魅力に二人がとりこになっていつまでも消えない憧れみたいに焦がれ続ける謎のBL三角関係の方に気を取られてしまった。 双子が精神的とか肉体的に交感できるのかって実験を行うって聞いたことがある。 医学部ありの大学の付属校で双子を入学させるときに「実験に協力します」って念書書かせるって聞いたな。 癒着して生まれたゲオルクとユリアンはそれこそ実験対象としては素晴らしい存在だったのだろうな。 境遇が全然違う双子、ユリアンが生きていることを知らないゲオルクが、ユリアンが語り掛けて来るとしたら何を伝えたいのか知りたいと交感した時に、もっとも記憶に残ったのはツヴェンゲルの麗しい女装姿。 それが頭を離れず、何気なく取った絵筆で面影を描いてしまう。本人が自分だとわかるほど明晰な筆致。 なんか倒錯してるよな!ユリアンとの交換にはさほど意味はなく、ツヴェンゲルの映像が見えたことにしか焦点がいかない気がする。 そしてツヴェンゲルと実際に会った時に、あの女装は彼だったのか、と気づいて寝食を共にしてツヴェンゲルをテーマにした映画を撮ろうとする。 それも滅びの美学のような映画だし。皇帝に仕える女形、革命は失敗して皇帝は没落。女形も阿片窟で行き倒れる。なんとなく自分たちの境遇が重なる。 ユリアンの方でも幼いツヴェンゲルの女装姿を生涯忘れられてない感じがするし。ゲオルクに一番伝えたかったのはツヴェンゲルのことなのか。 ゲオルクに全てを奪われてしまったユリアンだったけれど、そのユリアンはツヴェンゲルの人生を食い荒らしたように思える。 このストーリーのヒロインはツヴェンゲルで間違いない。 戸籍のないユリアンと違ってツヴェンゲルは実在しているのだから、相続もできれば職業を得ることだってできたのに。ヴァルター先生の一番の関心の元になれなかったから、ヴァルター先生が一番関心を持つユリアンに仕えることにしたというのに何か愛憎を感じる。 引け目と引け目が強く結びついたような感じ。お互いを大切に思っているというよりかは、何も持たずに生まれてきた人生の中で唯一近くに居た人間がお互い同士だったって感じ。 ツヴェンゲルがゲオルクに接触したのは、ユリアンのことをより深く知るためだったのかもしれない。 芸術家の家が破綻したときに、別の職業に就いて自分の人生を生きることはいくらでもできたはずなのに。あろうことか、就職した先がゲオルクのところ。自分を苦しめるために選択しているように思える。 ユリアンが会いたくてたまらなかったゲオルクに接触して、そこでもゲオルクの影のように付き従う。 自分の境遇は語らずに、ゲオルクの内奥の思考に触れる。身の回りの世話をすることで交感にも手を貸しているように思える。 礼儀正しくて思慮深いユリアンとツヴェンゲルが、自分たちを害そうとする他者に対してタガがはずれたように攻撃的になるのはなんか素敵だったな。 彼らの欠落した部分をより一層際立たせるかんじ。内側と外側。内側の人間には触れるのも恐れるようなソフトタッチなのに、外側の人間には容赦なく刃物を突き立てる、みたいな。 最終的にユリアンはゲオルクとの交感に意味を見いだせなかったのかもしれないな。光と影の存在が分かれてしまった時、なんとなく影が光のところへ帰ることを想像させていたけれど。 影はもっと深い闇の方へ進んでいった感じがする。人間の心の闇みたいな卑小な意味じゃなく、もっと根源的な宇宙の闇の中、みたいな。そして同じく闇に溶けたツヴェンゲルと溶け合った。 ゲオルクの過去に触れたって今更どうしようもないことだしな。一瞬はゲオルクとしてこの世に生き直そうと考えたはずだけれど、ゲオルクが生きていたからそれが頓挫したというよりかは、生きる目的がそもそもなかったから可能性を手放してしまった。 ゲオルクはその後、ムーランの映画を完璧に完成させてツヴェンゲルの面影を銀幕の中に永遠に固定するんだろうな。凄まじい喪失感、影を失った男として生きていくだろうけれど、ゲオルクは光そのものだから影を必要としないのかもしれない。 ゲオルクの存在は虚飾のハリウッドで黄金色に輝き続けるんだろうけど、その内部に燻っている創造の力が闇と汚濁を源泉にしているのが超萌える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.08.07 13:29:27
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