941021 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

❖ 北條不可思 "Song & BowzuMan”『歌うお坊さん』ブログⅡ・愚螺牛雑記 ❖

❖ 北條不可思 "Song & BowzuMan”『歌うお坊さん』ブログⅡ・愚螺牛雑記 ❖

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2006/06/11
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類

​築地本願寺本堂​
​​

PICT0076.jpg

『遊牛の詩』のための寓話 文・卯寿/朗読金田賢一



むかしむかし、ある日ある時あるところ、幾多もの生きものが、逃げ隠れもなく暮らしていた遠い時代のものがたりです。人智を越えた能力を持つ賢者が言いました。



「今から十日後、夜明けの金星が東の空に消えるとき、彼方の丘のてっぺんにそびえる大樹のもとで待っておる。最初にやってきたものから順番に、年のなまえと定めよう。天地(あめつち)のめぐりは十二のきざみ。おまえたちのなかから十二のなまえをいただこう」



『十二年に一度、自分のなまえで呼ばれる年がくる。その誉れを是が非でもこの手につかみたい』

「なんとも豪勢な話じゃないか」

「一年にいっぺんならいいけどなぁ」

「自信たっぷりだねぇ。うちらにはとても無理だよぉ」

そんな言葉を交わしながら、だれもかれも、心のなかにはひそかな闘志を揺らめかせていました。

そんな生きものたちの中で、いちばん素朴に、そしていちばん強く勝利を願ったものは牛でした。

牛は、自分の歩みがひどく遅いことを知っていました。

遅い。その言葉は牛に向けられた場合に限っては、ほめ言葉だったかもしれません。

だから牛は、誰よりも早く歩きはじめました。勝利を確信している、掛け値なしに速い足を自負するものたちが牽制しあいながらおしゃべりを楽しんでいるときに、牛は歩きはじめたのです。牛が定められた場所に向かいはじめたことに誰も気がつかなかったでしょう。

ねずみをのぞいては。



ねずみはずっと待ちかまえていたのです。小さな体を葉陰にひそめて。

『牛のやつは鈍いけど間抜けじゃない。俺さまのいちばん名乗りのためにはめっぽう頼りになるってもんだ』

謀(はかりごと)は、労せず叶いました。

ゆっくりゆっくりと歩む牛の背に、細い枝先から飛び乗ることなど朝飯前のコンコンチキ! もし牛がなにかを感じたとしても、風に吹かれた木の葉が背中に落ちてきたとしか考えなかったでしょう。

南無三。

とどのつまり、牛はなんにも知らないまま。

ただ、一歩、一歩、また次の一歩と歩き続けました。長い長い道のりは、始まったばかりでした。



ねずみはすでに夢見心地でした。

角と角の間の、ちょっとだけふさふさした毛に身を沈めて、思いのほか疑うこともなく自分の言葉を信じた猫の顔を思い出して笑い転げたいところをがまんすることに苦労していたぐらいです。

『猫は聞かなかったんだ。賢者の言葉を。すばしっこくて目先が利くわりには日がな一日ひなたぼっこが大好きときてる。

俺は言ってやった。今日からちょうど十日と一日(いちんち)だぞ。って。

そしたらあいつ、恩に着るぞねずみ君。なんてぬかしやがった。

ヒヤッハッハッハ・・・・・・・。

おおっとあぶねぇ、あぶねぇ。落ちてしまったらみもふたもねぇ。

だいたい、こんなにちっこい俺さまへの心遣いってもんが足りない競争だよ、まったく。』

ねずみの策略にも、野心にも、牛は、無縁でした。

太陽の熱に火照る体を風にまかせながら、はるかに広がる草原(くさはら)に道を刻みながら歩いて行きました。空にきらめく満天の星ぼしを幾度かは見上げたでしょうか。



やがてかすかに白み始めた東の空に黒い影がぽっつり見えてきました。

ゆるやかな上り坂も、のこりわずかなように思えました。

おしまいは、もうすぐそこ。

力が、新鮮な力が、くたびれきった足に呼び戻されてくる。

《息吹》を感じるようでした。

黒い影が、賢者の待つ大樹であると、はっきりとわかりました。

牛には、あたたかいほほえみをうかべる賢者の顔さえもが見えているような気がしていました。

そのときです。

牛の頭から飛び出したねずみが跳ね飛ぶように駆け出しました。

息もつかずに賢者の足元を走り抜けました。

「いちばん ねずみぃ~!」

賢者の声が丘のてっぺんから四方八方へとどろきわたりました。



我先に、我先にと丘を駆け上がってきていたものたちの足音は雷鳴のごとく激しい地響きとなりました。

そして牛は、静かに賢者の脇に止まりました。

「にばん うしぃ!」



「いちばん、いちばん、おいらがいちばん」

ねずみはぜいぜいと息を弾ませながら踊りあがって喜びました。

三番手を目指す一群の怒声と轟音もねずみを祝福するファンファーレに聞こえたことでしょう。

勝利の喜びは、ねずみのなかのささやかな罪悪感をかき消していました。

この瞬間に未来永劫猫に追い立てまわされる身となったことさえ忘れました。

「おいらぁ、すごいや。いちばんだ」

そんなねずみに牛は言いました。

「ねずみさんはすごいね。すごくはやいね。おめでとう」



牛はしあわせでした。

精一杯歩いてきたので、体いっぱいにしあわせでした。

s-enban tokyo 2005 ishihara 073

★★★★★遊牛の詩

北條不可思略歴プロファイル

北條不可思・Song&BowzuMan* Watch&Thinking *

FUKASHIHOJO.COM

​​





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023/03/16 05:02:07 AM



© Rakuten Group, Inc.