さくら、おにぎり、遺伝子
朝5分咲きの桜、午後は8分咲きになった。 「3日見ぬ間の桜かな」は、咲く時のことか散るときのことか、と言う人がいたけど、咲くも散るもない、とにかく3日見ないと違うのだ。3日どころか1日でちがう。 飛鳥へ行って来た。岡寺へ行こうと思ったけどカーナビで探し損ねて、適当にゴールを決めたから石舞台へ行った。駐車場は500円。通り過ぎて、無料のところへ。 デジカメを構えたショータンが、「電池、切れかけてるやないか」と目を三角にした。「Fで2枚しかない」「Nで70枚ぐらいあるのに」 何度セットを変えても、Fになってしまう。「何日も充電してへんからや。なんでもそうや。点検するとか用意するとかいう頭、無いんか」 昨夜8時ごろ、充電しとかないと…と思っていたのに、9時になると忘れてしまった。「あっちのカメラで撮る」もう一つ、普通のカメラを車に置いてある。「遠いやないか、車まで」 健康な脚なら5分もあれば行ってこれる筈なのに。 カメラを宥め宥め4枚ばかり撮り、遠回りして満開の桜に囲まれた「石舞台」の入り口まで来た。「あ。拝観料500円」「なんてことないぞ。石が積んだあるだけや」「舞台みたいな大きな石が置いてるのと違うのん?」「積んで、穴作ったあんねん」「古墳やろ?」「古墳。縦穴式石室やな。3,4メートルと4,8メートルの穴で、大きい石は77トン、やったかな」「大きいやん。なんで、知ってるのん?」「3回来た。小学校のとき、お前も遠足で来たん違うか」「来たかなあ」「来た来た」 と言われたら、来たような気もする。石の大きさは覚えていない。ショータンは小学校中学校(旧制)優等生だった。今でも天皇の名前を全部言える。私も覚えていたけど、26代ぐらいでごちゃごちゃになって、あとは忘れてしまった。その代わりショータンは、夢は目が覚めた途端、忘れてしまうそうだ。私は、子供の頃に見た夢でも覚えているのがある。「桜だけ撮っとき」 途中でお弁当を買って桜の下で食べようと言ったのに、ショータンは店の前で止まらなかった。向かいの休憩所へ行った。お茶があるわけでもない。売店に土産物が並べてある。羊羹やダンゴがあるが高い。「まだ時間早いから、どこかご飯屋探そ」と、ショータンは車を取りに行った。丘の上や花の下でお弁当を広げている人が多い。春休みだから子供連ればかり。子供はこんな所へ来ても面白くないだろう。 家から僅か26キロだから、11時20分だった。岡寺もやめて、戻りの道へ。明日香村という田舎だから、食堂など1軒もない。「コンビニでなにか買うわ」「家まですぐやから、帰って食べる」 ショータンはお腹の空かない体質なのだ。帰ってからなにか作るのは面倒なのに。「家に昼飯無いのん?」「ない」 で、コンビニの前で止まった。鮭と昆布のおにぎり2個入りパックを取る。「あんたは、赤飯のにする?」「おれは、1個でええ」 私の持っているのを1個食べるつもりだ。「うちは、2個食べる」 それなら、とショータンは赤飯のおにぎり1個と、キンピラとサラダとカラアゲを。それならお弁当の方がおかずいっぱいでいいだろうに。 コンビニの前が川で、堤に並んでいる桜を見ながら食べた。家で作ったおにぎりより美味いのがないのは、何故だろう。おにぎりはやっぱり、手に塩をつけて握らなければ駄目だ。子供の頃、父が握ってくれたおにぎりは塩がきいていて美味しかった。ショータンは、おにぎりを作ったことがない。息子の嫁さんは、全然塩をつけないで作る。「アイツのおにぎりは不味かったなあ」「そういえば、高齢の女が産んだ子供は、若い女が産んだ子供より劣性の遺伝子が多いねんて」 医院で読んだ週刊誌の記事を教えてやった。女は生まれた時からおなじ遺伝子をずっと持っていて、10代から20代では劣性遺伝子の出る確率は1/1500、20代から30代では1/1000、30代から40代では1/500、40代から50代は1/250。高齢出産は、半分ぐらいダウン症の子供が生まれるということだと。「あいつの子供、頭ええ筈ないな。おにぎりもよう作れへん。料理もでけへんねんもんな」 アイツとは、ミッチーの嫁さんのことだ。「母親も、高齢出産やったそうや。アイツは37歳やもんな、tenちゃん産んだんは」「高齢のお母さんの子供は、頭は悪いけど優しいねんて。競争心がないって」「それ、困るやないか」 親は困ってないから、別に構わないけど。嫁さんは40過ぎてまだ大学へ通っている。博士号取るんだと言って。「家事きちんとして、子供育ててたらええのに、アホや」 子供二人で保育園が40万円。プラス大学院の月謝と交通費。衣服代もすごい。外食は月8回以上。料理は殆どしなくて、スーパーでお惣菜を買って来る。 おにぎりを買ったおかげでお嫁さんの点数落としてしまった。ごめん。でも、嫁さんの話をすれば、私がマシに見えるんだから。