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・・・やり直しだ!
ただでさえ死ぬまでに清算出来ない後悔という負債を抱えてるのに、こんな事ぐらいで増やしてちゃあ利子さえ払えなくなる。 濡れたままの身体もそこそこに二階に駆け上がり携帯の前に正座して深呼吸して着信履歴をリダイヤルする。 着信音・・・一回・・・二回・・・三回目の途中で途切れ電話越しに街の喧騒が聞こえてきた。 相手が着信ボタンを押したのだ。 クワッとマナコが開かれ「あのさ、きな子・・・」と言おうとすると 「なにさ」 艶がありながら高圧的な、まさに「どこの女王様だ」的な玲子の声が突き刺さる。 そりゃそうだ。玲子の携帯に電話したんだから玲子が出て当然だ。 挫けそうになるテンションを何とか取り戻し玲子に頼む 「ワルい。さっきは取り乱してみっともない所を見せたからリベンジしたい。きな子に代わってくれ」 そのまま黙って待っていると電話の向こうから「クスッ」と聞こえ 「あら、意外に可愛いとこあるじゃない」 今頃知ったのか?お前とのこの三十年は一体何だったんだろうな。なんならこの可愛さを分けてやってもいいからさっさと代わってくれと念を送っていると 「ちょっと待ってなさい」 飼い犬にオアズケする如き声の後、程なくして 「もしもし・・・」きな子の声が聞こえた 伝いたい事だけをまくし立てそうになる自分を抑えながら 「あ、電話くれてありがとな。さっきはあまりの事にテンパッて、ありがとうも言えなかったから」 なんとか平然を装えてる俺ジェントルマン。 「ひさしぶりにきな子の声が聞こえて嬉しかった。今度絶対に逢おうな」 とにかく今自分が思っている事を素直に伝える。 簡単の事だ。なぜ若い頃それが出来なかったのか首を傾げるぐらいに。 もし相手がそう思ってなかったら? 別に迷惑さえ掛けなければいいんじゃねえの? 相手に恥ずかしい奴と思われようが、後で自分自身を恥ずかしいと思うよりよっぽどましだ。 今回は電話だけの刹那の再会だったが欲を掻いてもしかたがない。「また逢おうな」と言えた事だし、今日はこれで満足しとこうと思っていたら、電話を代わった玲子が 「あんたどうせ暇なんでしょ?今から来れば?」 思っても見なかったお誘いにまたも動揺する俺。 「え?・・・今から?」 「高速飛ばせば一時間ぐらいで来れるでしょ」 い、いや、距離や時間が問題じゃなくて・・・心の準備が・・・ 「でも、迷惑じゃないの?」 「迷惑?酒の肴が一つ増えるのが何で迷惑なのさ?」 おまえにとっての俺の存在意義なんざ誰も聞いちゃいないんだよ! あのね。20数年ぶりに後輩であり仲間であり彼女だった人と再会って言うシチュエーションだぞ? 映画「New York, New York」じゃあロバート・デニーロとライザ・ミネリは結局逢わずに違う通路から出て行ったんだ。わかる?25年の重みって奴は「来る?」「うん行く」なんて軽いもんじゃないの! 正座のまま携帯を握りしめて固まっていると玲子の声に混じって「あたしもお話聞きたいな」と声がする。ムッ。これはきな子の声・・・ 「で、どうすんの?」 「うん、行く」 ん?ロバート・デニーロ?ライザ・ミネリ?誰それ?ボク外国人の親戚いないよ? 取り急ぎ場所を聞き階段を駆け下りリビングのドアから頭だけを出し満面の笑みで嫁に 「ちょっと玲子のとこ行ってくる」 と言って廊下を走りだすと、 「何?何?嬉しそうな顔して。玲子さんからお呼ばれされたの?じゃあオシャレしなきゃ」 と俺の笑みに釣られニコニコ顔で走って俺に付いて来る。 「いや、時間がないからこれでいい」 今はそんな時間も惜しい 「それで、他に誰かいるの?」 「んーーーーー内緒!」 別にヤマシい事をする訳でもなからきな子に事を言っても構わないが、帰った後が面倒くさい。 それにバレても構わないぐらいの秘密を持ってた方が夫婦関係にも程良い緊張感が出てくるだろう。 俺は嫁の「ちょっと靴下ぐらい履いて行きなさいよ!」 と言う声を後にサンダルをつっ掛けて玄関を飛び出した。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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