648193 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

玉藻

玉藻

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2006.03.24
XML
カテゴリ:創作メモ
雲煙の宮


**主要登場人物 他**

頼元・五条殿・外記・少納言→五条(清原)頼元
宮→懐良親王【後醍醐天皇皇子】

御息所→懐良親王母【二条為道女】
少将→御息所付きの女房名
良氏→五条(清原)良氏【頼元の息】

大塔宮→護良親王【後醍醐天皇皇子:宮の兄】
足利の左馬頭→足利直義
先帝→後醍醐天皇

小龍丸→少将の姉の孤児


<物語の前に:蛇足>
時は室町初期。
鎌倉幕府の内部分裂の隙に乗じて、建武の新政を提唱し、都に王朝の昔を復活させることを夢見た後醍醐天皇だったが、その政策の限界を足利尊氏に見定められ立場は逆転。
ついに皇位を追われ、叡山から吉野へ移るといった政変がおこったころ。

都にはすでに、後醍醐天皇の力は及ばず、足利体制が敷かれつつあった。
後醍醐天皇は、一旦勢力をそがれたものの、多くの皇子を各地に分けて、足利体制に不満を持つ武士をして、都を包囲するべく時を待っていたが、知力体力を兼ね備えた大塔宮(護良親王)が北陸で足利直義に討ち取られ、またも挫折。
しかし、それでも諦めない後醍醐天皇の倒幕の思いは、まだ幼い懐良親王に向けられたのである。



雲煙の宮

出京の条(その二)


 連日の凶事に、誰も彼も疲れはてている。ここ数年のめまぐるしい時勢の流れに、人は翻弄されているだけのように見えた。
「あの子の母君も、たしかあの火事で」
「ええ、可愛そうな事をいたしました。ほんの幼子でしたのに。邸の火事に巻き込まれて姉は逃げ遅れてしまいましたから」
 少将はそういうと、少し悲しげな顔を頼元に向けた。何年前のことであろうとも、その時の悲しみが癒えるわけではないと、わかっていても胸は痛むのである。

 荒れた都での、戦乱と火事は何度も多くの人の命を奪った。
 もののふが戦で果てるのは道といえども、戦いは何の罪もない市井の者たちも巻き添えにしていく。多くの死体が河に投げ捨てられ、供養もされず山積みになっていたのを、頼元も見ていた。しかし見ていながら、これをこの世の地獄だと思わなくなってしまっているのだ。
 今、何が一番求められているのか。
 答えを知っていながら、頼元はそれから目を背けなければならなかった。

「姉があの子を身ごもっていた時に、夫は亡くなってしまいましたから。頼れるのは姉だけだったのですが。
 あの子が私の所にやってきたときには、驚きました。着る物も髪も焦げて、体中やけどの跡が残って。可愛そうで、可愛そうで」
 少将はそういって、泪を拭った。
「けれど、今はその跡も残っていないようです。少将殿が母代わりとして、よく面倒みておられるからでしょうな。
 宮の遊び相手だけでなく、私の学問の弟子にもしたい。なかなか見込みがありますよ。知恵付きも、良いですしね」
「そうですか、それはありがたいこと。
 五条殿のような方に見初められるのも、あの子の為にはよいかもしれません。宮とああして親しくさせていただいてはおりますが、いつかは身を立てねばならぬ時が来ますから」
「そうお考えですか。出家させなさるおつもりではありませんでしたか」
 頼元の何気ない言葉に、少将は声を止めた。
「もし、宮が御様をお変えになることになれば。
 ご一緒に、とは思っておりますが」
「左様ですか。そこまで忠義を」
「他にこれといったご縁があるわけでなし。お側でどのようなご用でも務めさせたいと思っておりますので」

 忠義というなら、この少将ほどの者もいないだろう。幼い頃から御息所に付いて片時も離れず、参内のおりにもこの人の役を他にこなす人はいなかったという。
 御息所が病ついてしまわれて、宮と離れて暮らさなければならなくなってからは、宮の乳母以上に宮に付き従い、ひたと御様子を見てきた人なのだ。
 頼元はそういう少将のまなざしが、宮と小龍丸の方へ注がれ、どこにも逃げていかないことに気がついた。こうして客人の相手をしていても、その目は必ず二人に向けているのである。二人の姿を見守っているというより、何かしら鬼気迫る様子に見える。
 頼元は少将に気づかれぬように、小さく一つ溜息をついてみた。
 その微かな息の揺れが、頼元の狩衣の裾を揺らして見える。手にした文箱と、文書をそっと横に置いて、頼元は夕暮れの近づくこの御所の庇に座り、少将と共に幼い二人の姿をじっと見つめ続けた。




>>3へ続く

>>







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.04.03 01:12:50
コメント(0) | コメントを書く
[創作メモ] カテゴリの最新記事


PR

Calendar

Comments

いちかわ@ Re:小説の構想(天下御免の二次創作:『ヒカ碁の後【仮題】』6)(07/31) すばらしい構想力文章力です。プロの作家…
面白い!!!!!@ Re:小説の構想(天下御免の二次創作:『ヒカ碁の後【仮題】』6)(07/31) めちゃくちゃ7が気になるのですがもう続き…
meFrEU I cannot thank you enough for the article p@ meFrEU I cannot thank you enough for the article post.Really looking forward to meFrEU I cannot thank you enough for th…
sQtcEQ I value the article.Thanks Again. Cool.@ sQtcEQ I value the article.Thanks Again. Cool. sQtcEQ I value the article.Thanks Again…
wVJvqT Great blog article. Want more.@ wVJvqT Great blog article. Want more. wVJvqT Great blog article. Want more.
SduRTz Fantastic blog article.Thanks Again. Awesom@ SduRTz Fantastic blog article.Thanks Again. Awesome. SduRTz Fantastic blog article.Thanks Ag…
UIe8XJ Looking forward to reading more. Great blog@ UIe8XJ Looking forward to reading more. Great blog article.Much thanks again. Ke UIe8XJ Looking forward to reading more.…
PAylsi Thanks for sharing, this is a fantastic blo@ PAylsi Thanks for sharing, this is a fantastic blog article.Thanks Again. Awesom PAylsi Thanks for sharing, this is a f…
E4EyG3 Thanks for the blog article.Thanks Again. M@ E4EyG3 Thanks for the blog article.Thanks Again. Much obliged. E4EyG3 Thanks for the blog article.Than…

Favorite Blog

*AZAMI'S ROOM*~… タマネギ戦士Sさん
バカネコ日記 海獣トドさん
朝はパン、夜はごはん pinceanaさん
nipparatの日記 囲… nipparatさん
碁法の谷の庵にて 風の精ルーラさん
ひよこ雛形のぴよぴ… ひよこ雛形さん
アフロ先生の囲碁っ… アフロ先生さん
碁盤を囲んで hexagobanさん
秋桜日記 もんちゃん0709さん
superlineの囲碁・そ… superlineさん

Category

Recent Posts

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.