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碁法の谷の庵にて

 無謀な希望もかない、ちょっと燃え尽き気味な人間のふたまた日記です。
 ブログ主は大学法学部4年のころからこのブログをやってきましたが、大学院を経て現在弁護士となっております。

 旧名「囲碁と法律の雑記帳」ですが、開設500日に題名を変更しております。

 リンクはご自由にどうぞ。

 一般の人たちが細かい法解釈論の勉強をする必要はありません。
 ただ、自分達に納得できない法制度がどうしてあるのか、「どうしても納得できない!」だけではなく、「よーし、納得してやろう」と、自分達の理解力を高めるという方向でも考えて行ってもらいたいと思います。


 記事数が膨大であるため、現在正しくなくなっている記述が放置されている可能性が多々あります。
 その点は注意してお読みください。(ご指摘いただければ訂正を入れます)
2018年09月03日
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殺人未遂事件の犯人が女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人だったということで,大騒ぎになっています。
 やはり少年法の抑止が甘いからだ!!などという声が上がっていますが、どこまでが本当のことなのでしょうか。

 少年法に関しては,思い込みから虚偽・ごまかし・陰謀論を声高に主張し,必要以上に少年法を軽いと誤解させ,刑罰の軽さで罪を犯すかどうか決める少年に対しての抑止力を自ら台無しにする者が後を絶たないので,正確な法的知識を前提に検討いたしましょう。


 判例検索をすると簡単に当該事件の高裁判決が見つかり,詳細な情報が書かれていました(東京高判平成3年7月12日判例時報1396号15頁)。
 この高裁判決では,主犯格のAは懲役20年,地位としてはAのすぐ下のBが懲役5~10年,Cが5~89年,Dが5~7年(不定期刑、最終的な服役期間は実際に服役してみて決める)を言い渡されています。
(量刑に一時誤記がありました。主張に影響はありませんが、念のため訂正いたします。)

 第一審判決はもっと軽い量刑でしたが,高裁は第一審判決を破棄してより重い処罰を言い渡したもので、最高裁まで上告した人もいましたが、最終的にはこの量刑で判決が確定しました。

 犯行が残虐で目を覆うようなものであることは,私も全く疑うことがありません。
 こいつらがこの量刑なら,私が弁護して懲役10年越えになったあの人は執行猶予じゃないのかと言いたくなる例もあります。

「極めて残虐かつ執拗、冷酷なもので、そこには人間性のかけらも見られない。」


という判決理由にも大いに共感します。


 そして,ここから先の記述では,「上記の量刑が不当に軽い量刑であったと仮定」しましょう。
 しかし,法的なフィルターを通してみると,「少年法のせいで不当に軽い量刑になった」とはちょっと考えられないように思います。


 法律上言い渡すことが可能な刑罰との比較という視点からはどうでしょうか。
 主犯格のAは犯行当時18歳であると判決文に書かれていました。
 少年法や国際条約上,死刑禁止がかかるのは18歳未満に限ります。つまり,Aに対しては「死刑判決もありえた」ということになります。
 そして,Aに懲役20年を選んだ理由について判決理由は

「被告人Aについて、無期懲役刑をもって処断するのが相当と考える余地もないとはいえないけれども、同被告人のため斟酌できる前記の諸情状を考慮すると、現段階で、同被告人に無期懲役刑を科するのは、なお躊躇せざるを得ず、同被告人については、有期懲役刑を選択したうえ、その処断刑の最上限である懲役二〇年に処するのが相当である。」


と記載しています。

 つまり,本当は死刑判決や無期懲役判決を書きたかったのに,裁判官が少年法の縛りで泣く泣く懲役20年の判決を書いた…という件ではないのです。
 ちなみに検察官の求刑も無期懲役でした。(地裁では懲役17年で,検察官もこれでは軽すぎるとして控訴して懲役20年となっています)

 Aのすぐ下の従属的な立場として扱われたB,Bの下であったCDという人間関係でしたが,BCDはいずれも犯行時17歳以下だったので,死刑判決を言い渡すことは最初からできなかった件ではあります。
 しかし,彼らに対して死刑以外の最高刑が下されたか,というとそうではありません。
 BCDに下されたのは,懲役5年から7~10年の不定期刑でした。
 BCDに対しても,裁判官はその気を起こせばもっと重い刑罰を言い渡すことはできたのです。
 
 つまり,「少年法のせいでもっと重い刑罰を言い渡したいのに言い渡せない」という状態ではなかったと言えます。



 そうは言っても,「少年法があるからその精神に引きずられた量刑を言い渡さざるを得なかったのではないか」とお考えの方もいるかもしれません。
 しかし,同事件の高裁判決は,少年法の規定と量刑の関係について,以下のように記しています。

 長いですが,一先ず該当部分を全文引用します。

 
(前略)少年に対し刑事処分をもって臨むのが相当とされる場合であっても、死刑、無期刑の緩和(同法五一条)、不定期刑の採用(同法五二条)など、成人事件とは異なる特別の規定が設けられており、また、検察官に送致のうえ、刑事裁判所に公訴が提起された場合であっても、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、事件を家庭裁判所に移送しなければならないものとされている(同法五五条)など種々の配慮がなされており、少年の刑事事件の審理、量刑に当たっては、これらの点を慎重かつ十分に考慮しなければならない。少年犯罪に関する手続構造は、以上のとおりであるが、このことは、少年に対しては、成人に比べて、常に、一律に軽い量刑をもって臨めば足りるということを意味する訳のものではない。犯罪の内容が重大、悪質で、法的安全、社会秩序維持の見地や、一般社会の健全な正義感情の面から、厳しい処罰が要請され、また、被害者の処罰感情が強く、それが、いたずらな恣意によるものではなく、十分首肯できるような場合には、それに応じた科刑がなされることが、社会正義を実現させる所以であり(少年法も、前記のとおり、罪を犯すとき一八歳に満たない者に対する死刑、無期刑の緩和を定めながら、罪を犯すとき一八歳以上の者に対しては、そのような緩和規定を設けていない。)、そこにも犯罪少年の処遇を国の司法機関である裁判所に委ねた大きな意義があるものといわなければならない。
 これを看過して、少年に対し、以上の諸観点から遊離した著しい寛刑をもって臨むのは、一般社会の刑事司法に対する信頼を揺るがせるばかりでなく、少年に対し、自己の罪責を軽視させ、いたずらに刑事処分に対する弛緩した意識を抱かせるなど、少年自身の更正のためにも適当とは思われない。また、刑罰といえども、一般予防的、応報的側面ばかりでなく、受刑者の教化改善、更正を図ることが重要な目的とされているのであって、当該少年の特性を配慮しつつ、事案にふさわしく社会感情にも適合した量刑がなされ、その執行を進める中で、少年に自己の罪責に処する反省と社会の一員としての自覚を促し、改善更生に努めさせることは、広く少年法の理念に沿う所以でもある。
 少年犯罪に対する刑事処分の量刑に当たっては、以上のような諸点を考慮したうえで、少年の未熟性、可塑性などその特性にも適切な考慮を加えつつ、事案の程度、内容等と均衡のとれた科刑がなされるよう特段の配慮がなされるべきである。


私の方でもう少し短く整理すると,
「少年法に少年の処罰などを軽くする規定が存在することは少年の量刑に当たって考慮すべきではある。
 だが,一律に軽い刑を使えばいいわけではない。
 厳しい処罰が必要な時には厳しい刑罰を科すことも社会正義であり,それを無視して寛大な量刑を使うのは不適切である。
 少年犯罪に対する刑事処分についてはそういった点を考慮して,適切な量刑ができるような配慮がなされるべきである。」

 高裁判決も,少年法があるからと言ってただ軽くすればいいと言う訳ではないのだということをはっきり明言し,一審判決は軽すぎると批判しています。
 その上で,同高裁判決は懲役20年を言い渡したのです。
 
 そうすると,少年法のせいで同事件が軽い判決になってしまったのだ,という批判は当を得ないものであり,批判されるべきものがあるとすれば,上記のような理由をつけていながらなお軽すぎる量刑を言い渡した裁判官の問題であると言うべきです。
 なお,BCDについて5年~最長10年の有期刑が言い渡されてますが,当時は不定期刑は最長10年でしたが,現在は最長15年に改正されています。
 今ならBCDに対しては懲役10年~15年の不定期刑が言い渡されたと言う可能性はあるかもしれません。(特に関与の度合いが高いB)


 なお,私の感覚としては,当時の量刑相場からしても,殺害人数は一人,殺害は未必の故意(「殺してやる」ではなく「死んでも構わない」)という条件なので,仮に大人の犯行であったとしても,この件で死刑判決を言い渡すのは,かなり厳しいように思われます。
 実際,主犯格のAに対する検察の求刑は無期懲役でした。
 
 その後,光市母子殺害事件最高裁判決(最判平成18年6月20日判例時報1941号38頁、最判平成24年2月20日判例時報2167号118頁)で犯行当時18歳1か月,殺害人数2名の件で死刑判決となりましたから,今は当時と比べれば死刑判決の門戸は広がったのではないかと思いますが,それでもこの件が死刑になるかどうかは難しい,おそらく否定的な見解の方が有力になるように思われます。






最終更新日  2018年09月11日 10時31分01秒
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