過密都市東京は危険と隣合わせの街である。いつどんな大事故が起こっても不思議ではない空間に、わたしたち東京人は生きている。しかし誰もが危険を予想しながら毎日の生活を送っている訳ではない。渋谷の繁華街を少し抜けた辺り、閑静な住宅街の片隅に毎日の疲れを癒す憩いの場があった。わざわざ地方まで行かずとも、都心で温泉を味わえる。
これほど便利でまた贅沢な気分を満喫出来る場所はない。「シエスパ」は女性専用の温泉施設として名が広く知られており、某有名タレント等も愛用していた都内でもかなりの人気スポットだった。
19日の午後2時ごろと言えばちょうど午前中の疲れと、昼食後の気だるさが交差して眠気を誘う時間でもある。こんな時、ゆっくりと温泉に浸って時間の流れを止めて見たいと誰もが思うだろう。それは一瞬の出来事だった。天を揺るがすほどの爆音と爆風でその建物は砕け散った。
大量に溜まったメタンガスに何かが引火してガス爆発を起こしたものと思われる。
従業員と思われる女性三人が死亡。その他にも数名が重傷を負った。そしていつもと同様に、記者会見では責任逃れと押し付けが始まる。この事故で亡くなった人たち、重傷を負った人たちに先ず謝るべきだろう。経営者と管理を請け負っている会社とが責任の擦りあい。
人間とは窮地に追い込まれるとわが身がかわいくて仕方ないようだが、何故お互いが協力しあって、事故の問題点について話し合い、そして命を落とした方々とけがを負った人々のケアに最善を尽くさないのか。都心にはまだ多くの温泉がある。掘ればまだ温泉が出てくるかも知れないが、噴出したものが今後の課題だらけでゆったり気分をほぐすどころか、とても癒しの場とは呼べなくなってしまった。それも単なるブームに便乗して地下のことをろくに調べもせず、天然ガスは想定外だったなどとコメントするようでは温泉を掘る資格などない。