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![]() ![]() むか~しむかしの話じゃ。 国府の安国寺という古い立派な寺にな、桂岳和尚というそれは徳の高い方がおられたんじゃ。 ある月の夜の晩のことじゃ。 和尚様がお堂の中を歩いておると見かけん小僧が座禅を組んでおる。 えろう口先のとんがった顔をしておってな、コックリコックリと居眠りをしておる。 和尚様は後ろへ回ってピシャリと棒でたたくと、ピョッとしっぽが出てきてな、 「これ小僧、しっぽを出すようでは修行が足りんな。」 と渋い顔をしてみせると、小僧はパッとキツネの姿に戻り後ろ足でポーンと飛ぶと窓から逃げていったんじゃ。 おかしいことにこのキツネ、毎日キチンキチンと座禅を組んでおるがどうやら修行のつもりらしい。 和尚は笑ってござったが真面目くさった顔を見ておると、(畜生がなかなか感心なことじゃ。)とだんだん世話をするようになったんじゃ。 ある日キツネが和尚様のそばまでやってくるとなにやらもじもじしておったが、 「和尚様、私も少しが頑張ってまいりましたので、できたら名前をつけていただきとう存じます。」 というんじゃ。 「そうか、いつまでもキツネと呼んでおってはお前も寂しかろ。さぁ手を小田氏。」 和尚様は少し考えると筆をとり、 「蛻庵(ぜいあん)」 と書かれたんじゃ。 「これはな、ゼイアンと読み蝉の抜け殻という意味じゃ。ぬけがらの様に無心になるのはなかなかできんことじゃ。精出して励めよ。」 キツネ小僧は大喜びじゃ。 それからは用もないのに和尚様の部屋へ行っては、 「蛻庵が参りました。何かごようのむきはございませんか。」 と大声で呼ぶんじゃ。 和尚様もすっかり情が移ってしまって、和尚様の母上が住む木曽の福島の興禅寺に手紙を届けさせることを思いついたんじゃ。 福島まではでわしい道のりもそこはそれキツネのことじゃ、身軽なもんでな、それからは月に一度の仕事になったがとうとう雪が舞う季節がやってきたんじゃ。 その日も雪のちらつく寒い日じゃった。 和尚様は心配してな、旅支度の蛻庵に 「ええか、ふぶいたら無理をせず人の家を訪ねて休むのじゃぞ。ただし猟師の家に泊まるでないぞ。」 というと、蛻庵は 「和尚様、私もずいぶん修行をつみまして、たとえ死んでもキツネの姿は現しません。」 と言って笑うと、雪の中へ消えていったんじゃ。 日和田までたどりつくとふぶきがひどうなってな、困ったことじゃと案じておると遠くに一軒ぽつんと一軒やがある。 やれうれしやとたずねると男がひとり座っておって、一泊の宿をこころよく承知してくれたんじゃ。 ところがこの男、実は猟師だったんじゃが、何も知らん蛻庵は体が温まるとすぐに疲れがでてな、そのまま寝入ってしまったんだと。 主はいつもの日課で鉄砲を出してくると磨き始めたんじゃ。 そしてふと旅僧に目をやると 「キッキツネじゃ。」 あわてて目をこすってもう一度見ると、またもとの旅僧の姿じゃ。 (おりも疲れがでたんやろか。) 主は不思議に思いながらもそのまま寝てしまったんじゃ。 さて、あくる日、蛻庵はていねいにお礼を言うと出発していった。 主はふと昨晩のことを思いだして鉄砲を取り片目をつぶってみるとなんとキツネじゃねぇか。 「化かしおったな。」 とそのまま、引き金に指をかけると 「ズドーン!」 蛻庵はもんどりうつと声もたてずに雪にうもれた。 男がかけよると坊さんがあたりを赤く染めて倒れておる。 「なんてこった。」 男は安国寺からの手紙をみつけると、大急ぎで和尚様のところへ駆け込んだのじゃ。 「ゼイアーン!」 和尚様は蛻庵の姿を見るなりはらはらと涙を落とした。 「おお蛻庵、すまんことをした。あわれなやつじゃ。お前は立派な僧じゃ死んでも本章を現さなんだな。もうええ、もうええ、もうええんじゃ。和尚がきたで安心して眠るんじゃ。」 そういって和尚様がお経を唱えると蛻庵は安らかなキツネの姿に戻ったんじゃと。 今でも安国寺には、このキツネ小僧を祀った蛻庵稲荷という祠があるんじゃ。 おしまい。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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